らくがき「つみきくずし」


2023.3.13


 自分の内側に空いた穴に落ちていくような感覚を求めている時がある。いや、落ち込んでいるのではなくて、落ちたいのだと思う。

 くずれてしまった後の積み木やジェンガとか、お気に入りだったのに鎖が絡まって使えなくなったアクセサリーとか、ティッシュの箱の隣で枯れて黒く腐っていくだけの切花とか、そういうものを片付けられずに捨てられずに汚れていく部屋とか、そこから目を逸らせば見えるベランダで真っ二つになっている蝉の死骸とか、優しくて賢い誰かの二の腕にこびりついていた丸い火傷痕とか、どうして友達ができないんだと言われて泣いている十歳の子供とか、下手な自慰ばかりが上手くなっていく夜とか、いつの間にか忘れてしまった命日とか、もう弾けなくなったピアノに積もった埃とか、燃え尽きた星とか、芸術家になりたくて芸術家を名乗っていて芸術家タイプだって診断されたはずなのに決して芸術家になることがないあなたとか、を、一緒に連れて行ってあげたい。きっとその方がいいから。今あなたの目の前にあるその内側の穴に落ちて、眠っている間みたいに真っ暗な穴に落ちて、月の裏側に行こう。

 分け合うために崩してしまった積み木のお城のことなんか忘れて良いですよ。芸術家になれないあなたよりずっと、価値が無いんですから。

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