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【NJRPG/ソロリプレイ】テン・ウェイ・オブ・エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット

この記事はDiscordのプライベートサーバーにてひっそりとプレイされた「ニンジャスレイヤーTRPG」の小説風セッションリプレイです。

「ハート・アンダー・ブレード」シリーズの第3話アフター・ザ・マルノウチ・ウォー後の余暇をテーマに、色々と好き勝手にルールを付け足しながらボトルネックカットチョップのミニゲームをプレイしています。

実際にRPや描写も行いながらプレイしたログをほぼそのまま書き起こし、誤字や台詞回しに多少手を加えて仕上げた形になります。独りで……。


このリプレイはショートキャンペイグンの番外編に相当し、3話までのネタバレが含まれる為、事前にバックナンバーを読まれることを推奨します。

◆INDEX:ハート・アンダー・ブレード
◇1 ◇2 ◇2.5 ◇3前 ◇3後 ◇番外 ◇4前 ◇4後

3 ←



◆◆◆


ソウカイ・シンジケートの本拠地たるトコロザワ・ピラーの中層。その一角に位置する酒場はこの日ある一箇所に限り、いつもの活気を他所に妙な静けさに包まれた空間を有していた。その中心に居るのは色付きの煙を吐き出すヤクザルックのニンジャと、ピンク色のサイバージャージを羽織ったオイランドロイドという奇妙な2人組である。

片や先日のアベノ・スゴイハルカス案件を契機に突如として名が知られるようになった、目に焼き付くネオン装束のニンジャ、サイケデリックメデューサ。その胡乱な雰囲気からは信じ難いが、シックスゲイツであるバンディットの部下であり、彼と因縁深いザイバツ・ニンジャを爆発四散させるキンボシを挙げた部隊の一員だ。

◆サイケデリックメデューサ(種別:ニンジャ)
カラテ		6	体力		7
ニューロン    	5	精神力		6
ワザマエ		9	脚力		6
ジツ		3	
◆装備や特記事項
◇ヘンゲヨーカイ・ジツ、連射2、疾走、タツジン(イアイドー)、タツジン(ケムリ・ジツ)
◇装備(武器):ネオン・カタナ&トウシロウ(二刀流)、グレネード、フラッシュ・グレネード*2
◇装備(防具):タクティカル・ニンジャスーツ、パーソナルメンポ、湾岸警備隊制式グレネードベルト
◇消耗品:ZBRアドレナリン注射器、オーガニック・スシ、トロ粉末

そしてそこに連れ添うのは先のニンジャの所有物にして、得体の知れない特殊カスタマイズが施された、イレイと呼ばれるオイランドロイド。アベノ・スゴイハルカス案件ではドロイドであるにもかかわらず、ザイバツ・ニンジャを複数人爆発四散させたという噂も吹聴されている。

◆イレイ(種別:オイランドロイド/重サイバネ/戦闘兵器)
カラテ		2	体力		4
ニューロン    	2	精神力		0
ワザマエ		4	脚力		2
ジツ		ー	万札		0
回避		4
◇装備や特記事項
◇サイバネ:▷内蔵型サブマシンガン、▷高性能赤外線ターゲッター
◇カスタムドロイド(ワザマエ+2)、サイバネ強化(2)、異常強化(0)

この二人組は酒場にやってくると纏まった数のビールを買い込み、テーブルの上に並べ始めた。その目的は、時に腕比べに、時にトレーニングに用いられるボトルネックカットチョップだろう、と誰もが思った。

勿論それも間違ってはいない。だが普段は冷やかしにも集まるソウカイ・ニンジャたちも、突如として始まった三文芝居めいた妙なアトモスフィアを前に、人のように振る舞うオイランドロイドと煙を吐き続けるニンジャに関与することを躊躇していた。


「他の奴らは?」「ワイルドファング=サンはオキナワ旅行、ウォールハック=サンは恥ずかしいからダメ、パラノイア=サンはたぶんデート」「ヒッヒッヒ」「ピンク野郎に人望がないからダメなんですよ」

「企画力不足だ」サイケデリックメデューサは人差し指でイレイの額を小突く。「アイエエ…」「そもそもルールは分かってるのか」「それは大丈夫です。弱そうなニンジャの人が散々瓶を叩き割るところを見学してきたので」「ウッフッフッ」

「フーッ……ではお手並み拝見」ニンジャはメンポからピンク色の煙を吐き出すと、数本の瓶ビールをテーブルに並べる。「何本だ?」彼は目を細め、心底面白そうに問いを投げかけた。

◆ボトルネックカットチョップ(BNCC)のルール#1
BNCCは専攻・後攻に分かれてビール瓶にチョップを繰り出し、失敗せずに全て綺麗に切断できた本数を競うゲームだ。開始時、参加者は「カラテ+ワザマエ」の値を上限に、互いに挑戦する瓶の本数を宣言する。
◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#1
今回はソロプレイのため、イレイの挑戦本数についてはダイス判定で決定することにした。カラテ:2、ワザマエ:4というステータスの為、ちょうど上限数も6本で区切りが良い。なお、圧倒的有利なサイケデリックメデューサは必ずイレイと同じ本数で挑戦する。
ボトル本数決定 1d6 = (4) = 4

「4本で。余裕ですよ」「ヒッヒッヒ。ではお手並み拝見」サイケデリックメデューサはどこからか浅くカットしたビールケースを取り出し、4本の瓶を固定する。

◆ボトルネックカットチョップ(BNCC)のルール#2
BNCCでは「カラテ+ワザマエ」と同じ数だけダイスが与えられ、それを宣言した瓶ビールの本数分、「連続攻撃」を行うように分割して判定する。その基本難易度はEASYだ。
◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#2
イレイはニンジャではないが戦闘用途にかなりの(万札を注ぎ込み)カスタマイズが施されている為、特別に基本難易度をUltra-Hardとしてミニゲームにチャレンジできることにした。
◆BNCC 4本宣言 ダイス2,2,1,1で分割
イレイ 1本目 2d6=6 = (2,1 :成功数:0) = 失敗

KRAAASH!オイランドロイドの非凡なパワーに、強化ガラス製のビール瓶は無残に砕け散る。「……これが私のカラテです」「ヒッヒッヒ」サイケデリックメデューサは割れた瓶をつまみ上げて放り捨てると、新しい瓶を並べた。

◆BNCC 4本宣言 ダイス4,4,4,3で分割
サイケデリックメデューサ 1本目 4d6>=3 = (3,2,2,5 :成功数:2) = 成功
サイケデリックメデューサ 2本目 4d6>=3 = (3,6,4,2 :成功数:3) = 成功
サイケデリックメデューサ 3本目 4d6>=3 = (3,6,4,2 :成功数:3) = 成功
サイケデリックメデューサ 4本目 3d6>=3 = (5,5,4 :成功数:3) = 成功

「見てろ?イヤーッ!」サイケデリックメデューサの水平チョップが流れるようにビール瓶を切断。ふらふらとした覚束ない様子とは裏腹に、その切断面は驚くほど精確だった。何たるワザマエか!

「む、む!ワザマエ……」「俺の勝ちだな?では、どうぞ」ニンジャはビールの溢れ出す瓶を手で指し示す。「マイリマシタ……えっ?」「負けたほうが飲む」「えーっ……まあ、良いですけど」

◆ボトルネックカットチョップ(BNCC)のルール#3
BNCCは綺麗に切断できた本数を競うゲームではない。途中でチョップ切断に失敗してしまった場合、それまでに何本か切断に成功していたとしても、成功数は0扱いだ。本数を増やすほど1本あたりに割り振れるダイス数は減り、リスクは高くなる。
◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#3
勝負に負けたほうが、その時点で綺麗に切断されている瓶ビール全てを飲むことにした。今回の場合、サイケデリックメデューサが切断した4本がその対象になる。何の意味もないが、非常にじゃあくなルールだ。

イレイは4本の瓶ビールを水のようにして一気に飲み干すと、勇ましく宣言する「フーッ……私に勝負を挑んだこと、後悔させます!」。「ヒッヒッヒ。挑んできたのはお前だけどな

「次こそは!」

ボトル本数決定 1d6 = (6) = 6

「むふん。私の実力を見せます」イレイは6本も瓶を並べる!
「ウッフッフ、無謀なやつ」ピンク色の煙を吐く

「これを使ってみろ」サイケデリックメデューサは腰の鞘を解くと、トウシロウをイレイに投げ渡した。

*トウシロウ*:怨霊が化けた鬼を切った逸話のあるカタナ。
       カタナ。装備時、近接攻撃ダイス+1個。売値【万札:10】
◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#4
特別なニンジャの武器を手にすることで、非ニンジャのイレイもBNCCに難易度-1で挑戦できることにした。更にトウシロウが持つ近接攻撃ダイス+1のボーナスを、BNCC判定に乗せることも可能とする。

「カタナ?ボトルネックカットチョップって、カタナ使って良いんですか?」イレイは鞘に収まったカタナを抱きしめるように両手で受け止めた。「別にいいだろ。そうしないと勝負にならん」サイケデリックメデューサは優しく促した「少しばかり稽古をつけてやる。ウッフッフ!」。

「では遠慮なく……」

◆BNCC 6本宣言 ダイス2,1,1,1,1,1で分割
イレイ BNCC 2d6>=5+1d6>=5+1d6>=5+1d6>=5+1d6>=5+1d6>=5
 = (5,6 :成功) + (4 :失敗) + (4 :失敗) + (2 :失敗) + (5 :成功) + (5 :成功)
◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#5
1本ずつ判定するのは面倒くさいので、本来のルールには反するが、まとめて全て判定してしまうことにした。

「イアイド!」見よう見まねのイアイドは、しかし勢いよく斬撃を瓶ビールに食らわせる。KRAAASH!先ほどとは異なり1本の首を鋭く跳ね飛ばすも、続く2本目は無残に砕け散ってしまった。


オオオン……振り抜かれたトウシロウが微かに、しかし不穏に振動する。周囲のソウカイ・ニンジャたちがやや遠巻きに彼らを見守っている理由のひとつは、この怪しいカタナにもある。

不穏な何かを引き連れたカタナは、ダークニンジャが振るうと言われる妖刀と似た類の何かだと噂する者もいたし、所有者であるネオン装束のニンジャの精神を蝕む呪われた何かだと噂する者もいた。何れにせよ、それはピンク色の2人組の不気味さを際立ていた。


「ム、ムゥ……」イレイはトウシロウを握ったまま、がっくりと肩を落とした。しかしサイケデリックメデューサは機嫌よく、イレイの頭をくしゃくしゃと撫でる「ヒヒヒ!多少はやるじゃあないか。エエッ?」。

「握り方を変えろ。あとは構え方もだ」サイケデリックメデューサはネオン光を放つELチューブが蔦めいて埋め込まれた、ネオン・カタナを鞘から引き抜き、構える。彼が散々にニンジャを切り裂いてきたそのカタナの妙な装飾は、むしろ切れ味に悪影響を与えるように思われた。

◆BNCC 6本宣言 ダイス3,3,3,2,2,2で分割
サイケデリックメデューサ 3d6>=3+3d6>=3+3d6>=3+2d6>=3+2d6>=3+2d6>=3
 = (2,6,2 :成功) + (5,1,3 :成功) + (3,2,2 :成功)
 + (6,5 :成功) + (1,4 :成功) + (2,1 :失敗)

「イヤーッ!」その一閃は順調にボトルの首を飛ばしていくも、案の定
過剰な装飾が縁にかかり、最期の1本は歪に首がへし折れてしまう。「ウッフッフ!なかなか上手くいかんな」彼は失敗も特に気にせぬ様子で、首をかしげる。

「ニンジャに無理なら、私にも無理なのでは……?」勝負は引き分けだったが、イレイの顔はあまり明るくない。「うまくいく日もあれば、いかない日もある。まあ、最終的に敵を仕留められるなら何でもいいのさ。ヒヒヒ」

サイケデリックメデューサは割れた瓶を取り除き、新しく瓶を固定する。
「さあ、再戦だ。負けたほうがこの6本も飲む」「ム……!」

◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#6
サイケデリックメデューサの簡単なインストラクションを受け、イレイはトウシロウを手にしている間に限定して、一時的に判定ダイスに+1のボーナスが与えられることにした。
ボトル本数決定 1d6 = (1) = 1
◆うーん、再判定
ボトル本数決定 1d6 = (1) = 1
◆んん?
ボトル本数決定 1d6 = (1) = 1
◆あれ?
ボトル本数決定 1d6 = (3) = 3
◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#7
コマンドの入力間違いか、ダイスボットのバグかと思っていたら、3連続で出目:1が出続けていただけだった。そんなに6本挑戦が嫌だったのか……振ってしまった分を合計し(無理やり)6本に挑戦ということにした。
◆BNCC 6本宣言(強制) ダイス2,2,1,1,1,1で分割
イレイ BNCC 2d6>=5+2d6>=5+1d6>=5+1d6>=5+1d6>=5+1d6>=5
= (4,5 :成功) + (3,5 :成功) + (5 :成功) + (3 :失敗) + (3 :失敗) + (5 :成功)

サイケデリックメデューサに背中を押されたイレイはカタナを振り抜き、ボトルネックカットチョップに再挑戦する。「イヤーッ!」そのカタナは瓶ビールを3本目まで流れるようにトーフめいて切断し……4本目を砕く!

「……や、ヤッタ!見ました!?やりました!」イレイは僅かに頬を上気させ、トウシロウを誇らしげに掲げた。とてもオイランドロイドとは思えない、自発的感情表現がそこにあった。

ギャラリーからは小さく感嘆の声があがる。有象無象のニンジャたちの中には、まともにボトルネックカットチョップができない者も少なからず存在する。それを結果的に失敗とは言え、4本も、しかもオイランドロイドがカタナで!想像以上に愉快な催しに、遠巻きだったソウカイ・ニンジャたちの野次馬の輪も狭まり始める。

◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#8
盛り上がれば何でも良い。

「良いぞ!お前は自由だ。そうやって学習を積み重ね、成長できる…」サイケデリックメデューサはどっかと椅子に座り込み、ピンク色の煙を吐く。

キョートより帰還の折、サイケデリックメデューサはオムラ・メディテックを訪れ……数人の技術者を締め上げつつ……穏便に、オイランドロイドを対ニンジャ戦闘用にカスタマイズするというアイデアを実現させた。

その突飛な提案は意欲的な技術者たちに好意的に受け入れられたが、問題はAI回路の実装だった。彼は真に『自由』であるため、様々な心理的な障害から隔絶されていてはならないと強く主張し、多様な感情プログラムの実装を求めたからだ。

最終的にオムラ・メディテックが如何なる手段を講じてこれに応え、イレイの情動を作り上げたのか……それはまだ黙して語るべきではないだろう。

「いいか、何も見えないふりをしてはいけない」「え?」

「全て、良く見ろ」

◆BNCC 6本宣言 ダイス3,3,3,2,2,2で分割
サイケデリックメデューサ 3d6>=3+3d6>=3+3d6>=3+2d6>=3+2d6>=3+2d6>=3
 = (4,2,6 :成功) + (2,3,5 :成功) + (1,6,4 :成功)
 + (6,3 :成功) + (3,3 :成功) + (2,5 :成功)

サイケデリックメデューサはネオン・カタナを腰元に構え、イアイめいて振り抜く。「イヤーッ!」6本のボトルの首が、まるでマグロせん断機に掛けられたかのように、寸分違わず精密に切断される!

彼は左手で素早く瓶の首を摘み取り、冗談めかしてオジギする。「カラテは苦手でね。俺もこれぐらいが限界さ。ヒヒヒ」思い出したかのように瓶ビールが泡を噴出し始めた。

既に十分なサケを呷った野次馬の泥酔ニンジャたちから、ようやくヤジが飛び始める。そのワザマエを噂通りだと唸る声から、あの程度なら己のほうが強いと誇示する声、女を相手に大人気ないと罵る声までそれは様々だった。いずれにしても、彼らはサケの力を借りてピンク色の煙への忌避感を克服していた。

「わ、ワザマエ……オミソレ・シマシタ……」イレイは純粋に同伴者のワザマエに感嘆していたが、自分が敗北したことを思い出すと再度がっくりと肩を落とした。「私も…」「ん?」

「私も強くなれますか?足手まといは、嫌です」

「なれる。お前は自由だ」


「実力と、場をわきまえさえすればな。ウフーッ!」メンポからピンク色の煙が立ち昇った。「サイケデリックメデューサ=サン……」イレイはうつむいたまま呟いた。「なんだ」

「ビール、半分飲んで貰えません?」「ウッフッフ!」彼は肩をすくめた。「むうーっ!やっぱりズルいです!」イレイは捨鉢な勢いで、12本の瓶ビールを次々とイッキし始めた。


「オイランドロイドに……ヒック……」「酔っ払うプログラムを乗せるなんて……」「サイケデリックメデューサ=サン!やっぱり……ヒック!バカですね!」イレイの顔は赤く染まっていた。「ヒヒヒ!」サイケデリックメデューサは悠々と椅子に腰掛けたまま目を細める。メンポからコバルトブルーの煙が吐き出された。「それが自由ってことだ」

周囲ではイレイの飲みっぷりに闘争心を掻き立てられた泥酔ニンジャたちが新たな諍いを起こそうとしていた。その時!

「あるぇ…?」顔を真赤にしたイレイがある一点を見て声を上げる。


◆◆◆


シックスゲイツの6人がひとり、斥候ニンジャであるバンディットは重要任務を完遂し、トコロザワ・ピラーにおけるラオモトとの謁見を終えたところだった。シックスゲイツは対外的な印象とは裏腹に、任務に事欠かない多忙な地位である。今日与えられたのは久方ぶりの休暇と十全に体を休めるようにというお達しであり、彼はただこの場所を立ち去ればよかった。

そんな彼がわざわざこの中層を訪れたのは、ほんの気まぐれだった。斥候ニンジャである彼は常日頃から孤独なイクサ場に身を置く存在であり、シャテイ制度により与えられた数名の部下たちとの交流、そして小隊単位での活動はバンディットにとってどうにも慣れない居心地悪さの残るものだった。

故に、そんな彼らは自身の目の届かない場所ではどのように過ごしているのか……他のニンジャたちはどのように振る舞っているのか……この場所で目にできればと、少しばかりの好奇心が湧いたのである。

しかし中層の酒場に足を運んだバンディットは即座に後悔することになる。そこでは何らかの騒ぎが起こっており……かすかに流れてくるピンク色の煙に、彼はろくでもない厄介ごとの気配を察した。

(あれは……あいつら、何をやっているんだ?)ステルス・ジツで姿を隠匿したバンディットは、顔を真っ赤にして瓶ビールを呷るイレイと、それを囃し立てる泥酔ニンジャたちを見て眉根を寄せる。

来る場所を間違えたか。そうバンディットが場を離れようとした時「あるぇ…?バンディット=サン?」ビールを飲み干したイレイが明らかに、バンディットが潜む方向を見て声をかけてくる。

(ステルス・ジツを見破った!?いや……)バンディットは自身のウカツに気がついた。ピンク色の煙に続いて、サイケデリックメデューサのメンポからはコバルトブルーの煙がもうもうと吐き出されていた。

漂う二色の胡乱な煙がステルス・ジツを阻害し、その輪郭をかすかに暴いていた。そして電子的な酩酊状態にあるイレイは、偶然、いち早くそれに気がついた。(なるほど、体を休めろと言われるはずだ……)

「バンディット=サン!こっちですよ!」諦めてジツを解除したバンディットはため息をつき、イレイはそれを見て何時になく上機嫌に手を振る。

「「「ば、バンディット=サン!?」」」周囲の末端ニンジャたちは、シックスゲイツの突然の出現に激しく動揺する。「ドーモ。お前達、これは一体何の騒ぎだ?」バンディットはテーブルに歩み寄る。

「ドーモ、ボトルネックカットチョップ大会れす!」「大会?」バンディットは周囲を見渡すが、およそ参加者と呼べる者は、騒ぎの中心である……即ち自身の部下である2人だけだ。もっとも、後者については部下と呼んで良いのかはわからない。


正直、目の前で元気に動き回るオイランドロイドについてはどう扱うべきなのか測りかねている。彼女との出会いはキョート行きの新幹線で、そこではただ高度なAI回路を搭載した、いわゆる高級な"医療用"の個体に過ぎなかった。それがいつの間にか銃器を構え、堂々とニンジャたちに並び立ち、挙げ句には因縁のザイバツ・ニンジャに少なくない数の弾丸を打ち込む始末。

さながら"所有者"であるサイケデリックメデューサの専属ボディガードのような振る舞いだが、何よりも単純なAIとは言い切れない……自発的な感情表現に、彼女を何と捉えてよいのか内情は複雑だった。


「ドーモ、バンディット=サン。コイツがニンジャの真似事をしたいと言い出したものでね。ヒヒヒ……稽古をつけてやってました」「稽古を?」

オイランドロイドに稽古をつけるニンジャなど、聞いたことがない。だが、目の前のニンジャは何の疑問もなく隣のドロイドを1人格の持ち主として扱っている。……いや、思い返せばアベノ・スゴイハルカスで大暴れしたときから、皆彼女を単なる物とは捉えなくなってはいたか。

(ユメイ・ソラシナ。あまりにも重篤な薬物依存性、伴う意味不明な言動と幻覚症状による錯乱行動。元ヤクザ・バウンサー、防勢戦術の専門家。スカウトニンジャの殺害実績あり……ステルス・ジツ使いの)バンディットは目の前の胡乱なニンジャ、サイケデリックメデューサについて与えられたプロファイルを思い返す。最も、彼はこの全ては信用していない。

部下として配属されるニンジャたちのプロファイルが送られてきた時、そして姿を隠して彼らの振る舞いを観察したとき、著しく突出して問題性が明白だったのはこのサイケデリックメデューサだった。

しかし、バンディットは幾つかの任務を共にする中で、サイケデリックメデューサの振る舞いは間違いなく狂人であるが、決して気が狂っているわけではないことに気がついていた。

幾ら言動が異常でも、任務遂行の本筋から外れることはない。幾ら足取りがふらついていても、そのカラテが乱れることはない。何より、彼の監視下から外れた単独の斥候任務においても、特別何らかの失態やウカツがあったという報告は挙がってきていない。

『ふざけた奴らだが、ある程度の実力がある』かつて彼らに投げかけた評価は現状を顧みるに、実際的を得ていたと言えるかもしれない。

とは言え、バンディットは彼が中毒者の演技をしているだけなのではないかと、少なからず疑ったことはあった。


「コイツに、イアイドーを覚えさせようと思いまして。ウッフッフ!」サイケデリックメデューサは立ち上がり、空いた瓶をテーブルから取り除く。その足取りは、やはりふらふらと覚束ない。

「ピンク野郎、ナンデそんなにふらふらしてるんです?まだ一杯も飲んれ無いじゃないですか」瓶の割れたビールを泥酔ニンジャたちに分配していたイレイが疑問を投げかける。

「踏まないようにしている」
「え?何を?」
「魚」

サイケデリックメデューサは割れた瓶の破片が散らばる地面を指さした
「変なの!イヒヒ!」イレイの足取りも怪しいものだった。


だが恐らく、この男は実在しない物を沢山見ているだけなのだ。そして、そこには本当の現実も紛れ込んでいる。ただ、その境界線は曖昧で……全てを受け入れなければ現実を……「バン、バンディット=サン……ヒック……も、やりましょう!」バンディットの思考は、背伸びして彼の両肩に手を掛けたイレイの言葉に遮られた。

(何故お前は酔っ払っているんだ……?)バンディットは明らかに酔っ払っているイレイの姿に生じた疑問を飲み込み「いや、どうせコイツが何かしたんだろうな……」サイケデリックメデューサに目をやる。その言葉が聞こえていたのか、彼はちらりとこちらに目線を向けてくる。相変わらずそのメンポからは色とりどりな、幻惑的な煙が立ち昇っていた。

バンディットは場の雰囲気に当てられたか、あるいは立ち込める胡乱な煙に巻かれたか……そういうことにしただけだったのか「ああ、少しぐらいなら……」イレイの申し出を受け入れた。

「ヤッター!」彼女は何故かカタナの鞘を抱えたまま、ビールを買い込みに走り出す。サイケデリックメデューサの目線が、少しばかりからかうようなものに変わっていたのは気に食わなかったが。たまには、良いだろう。


「しかし、律儀な奴だ」椅子に掛けたバンディットが、正面のニンジャを見てポツリと呟いた。「何か?」サイケデリックメデューサは愉快そうな様子で声を掛ける。「いや、そのスーツ。そろそろ交換したほうが良いのではと思ってな」

サイケデリックメデューサのヤクザシャツの襟元からは、ピンク色に塗装されてはいるものの、最初の任務で報償品として渡した強化ケプラー繊維スーツの姿が覗いている。スーツは既に傷だらけで、中には大きく切り裂かれた痕跡も残る。おおよそワイルダネスで反撃を喰らった際のものだろう

(ある種の……盃を交わしでもしたつもりなんだろうかな)損傷はひどく、バンディットとしては別段それを買い替えられようが全く構わなかった。「俺は物持ちが良いんですよ。ヒヒヒ!」ネオン装束のニンジャは相変わらずの胡乱な笑いで返した。

「そうか……」バンディットはメンポの下で少し笑んだ。


◆◆◆


「買ってきました!」イレイが大量のビールの収まったケースを両手で持ち、再び姿をあらわす。「金はどうした?」サイケデリックメデューサは訝しげに聞く。「バンディット=サンのツケにしておきました

◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#9
バンディットを参加者に加えると、瓶ビール代がタダになる。

「……は?」バンディットは度肝を抜かれる。

「そうか。なら安心だ」唖然とするバンディットを他所に、サイケデリックメデューサはイレイの頭を子犬のようにくしゃくしゃと撫でる。ギャラリーはシックスゲイツのツケでサケを買うオイランドロイドという意味不明な光景にどよめき、大盛り上がりを見せていた。

「お前達……」「コイツの改良に使ってしまったもんで、手持ちが無いんですよ。イヒヒヒヒ!」

◆3話終了後の余暇、サイケデリックメデューサは手持ちの大半をイレイの改造費用に注ぎ込んだ挙げ句、自身のトレーニングには全て失敗した。この余暇の様子を見ればそれも当然だ……。なお残額は万札6。

「それに、ギャラリーも貴方のワザマエを見たがっている」サイケデリックメデューサは煙を吐きながらバンディットを煽り立てる。いつの間にかギャラリーは膨れ上がり、シックスゲイツのワザマエをひと目見んとする若きソウカイ・ニンジャたちで溢れていた。

「ではバンディット=サンが先行で!6本!全員6本まで!」競い合いの趣旨を忘れつつあるイレイがそそくさと瓶ビールを並べ始める。

「全く。しょうがない奴らだ」

バンディットは苦笑しながら立ち上がるとカラテを構え、並べられた6本の瓶ビールに水平チョップを繰り出した。


◆エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット#10
催しは大勢でやるほうが楽しい。


「テン・ウェイ・オブ・エクセプショナル・ボトルネックカットチョップ・エチケット」終わり

最終話「バックストリート・ニンジャ・ビフォー」に続く。


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