超歌舞伎すっごいよねえという話

自分の感想覚書や何度でも読み返したい記事などをまとめておきたく。


超歌舞伎「花街詞合鏡」を観たよ、いろんなこと目撃したよ 【超会議】 http://panora.tokyo/26517/

超歌舞伎2年目の盛況、『花街詞合鏡』開幕 | 歌舞伎美人(かぶきびと) http://www.kabuki-bito.jp/news/4036

【超会議2017】『花街詞合鏡』歌舞伎ファンがひも解く超歌舞伎! http://otakuindustry.biz/archives/32871

獅童「私は萬屋、(協賛の)NTTさんには電話屋と声がけを!」 屋号飛びまくりの超歌舞伎&囲み取材リポート - ねとらぼ http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1704/29/news050.html

去年の。
「歌舞伎すげえ」がネットの向こうに届いた手応え 「超歌舞伎」舞台の上から役者が見た景色 (1/5) - ITmedia NEWS http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1605/28/news020.html

ミクのお口すごいかわいかったね?あと後半の、ミクの「にらみ顔」の可愛さと言ったらなかったね?昨年よりすごいブラッシュアップされたモデルすげえというのもあるんだけど、お人形のような、表情の少なさがむしろ効果的というか、たまさかに大口を開けた時や、口を大げさにへの字にした表情などがまあ引き立つこと、これそもそもがそれこそ歌舞伎の隈取やカッと口を開けて口の中の赤を見せる、みたいな方法論なのかも。
あとミクの造形で言うと、あの超ロングツインテールはMMDモデルなどだと難関と同時にそれぞれのモデルの「見せ所」でもある気がしてて、あるモデルはできるだけ髪の毛の質感に近いサラサラ感、あるモデルは太いムチのような弾力感、と、モデラーの解釈や表現が多様なの超大好きなんですけどね、超歌舞伎での初音太夫のあの髪は「ビーナスのヴェール」だと思いました。ボッティチェリのビーナス誕生で、ビーナスが大事なところ隠してる髪ね。つまり天女の羽衣だ。この世の粋と美の結晶のような傾城の太夫のまとう羽衣。
まだツインテ短いときの、憧れの眼差しで花魁道中を見つめるミクの、あの踊りいやもうなんかびっくりした。体重がある、体積がある、着物の袖の重さがわかる、足が舞台をこする音が聞こえる、かのような。そこに人がいるようなリアルとは違うんだけど、そこにミクがいるリアル。そのミクは、本当の歌舞伎に使われるにふさわしい、高価で重たい絹の着物を着て、本物の日本舞踊の所作で、踊っている。人ではないゆえのリアルがここにある。

とか思ってたんですけど、その後に登場した紋三が足から入ってくるカメラワークだった(と思う)せいで、やべえ萬屋かっこいいCGみたいとか思ったりしてたので私の考えるリアルとかもう完全にこの時点でもってかれてましたね。うん。
歌舞伎は本当に聞きかじり程度の知識しかないのですけども、着物が好きで、その着物の作法や粋の基準は今も大部分が江戸歌舞伎に端を発するものなので、紋三や新右衛門の衣装や所作がいちいちかっこよくて(当たり前)しびれました。新右衛門が3人もオトモ連れてるのはアレ金も身分もあるけどちょっと無粋な野暮天っていう記号ですよねそういうのしびれるんですよ。あと紋三の着物ね、白に薄墨で大柄の龍と、なんていうのあれ、片袖に大きく蛇の目に見える同心円の柄、あれすごいかっこいいいいいい年甲斐もなく欲しいいいいい浴衣、浴衣ならどうか、ギリギリどうか。ダメか。
で、その文脈で言うとミクの衣装の蝶々推しは、花の十代、初音太夫の瑞々しい「若さ」の意味もあるのかなという気もしますね。
テトの衣装の意匠(ダジャレを言う気は全くないのに)もかなり考えつくされた上で、白の紋三、黒の新右衛門の中央であの色合い、赤のツインドリルとあいまってよく映える、しびれるわあ…

映像効果はもうどこでも言われてるしそのうち詳しい技術解説記事とかまた来ると思う(読みたい)から、すげかった!ジョジョのスタンドバトルが一足飛びに舞台芸術で実現しちゃった!とかいう頭の悪い感想になるんですけど、何気に、NTTの屋号が「電話屋」になってて、劇中でも、電話屋さんから文が届きましたとか言われてるの、何気にNTTの遊び心というかノリの良さにちょっとびっくりした。あの電話屋という掛け声は去年の超歌舞伎でのニコニコユーザーのお遊び的なものだったのに、それを好意的に受け止めてさらに良い方向に悪ノリしてくださったってことでしょう。NTTは今もう電話事業メインっていう会社でもないのに。オッケーしてくださったんですね、それが嬉しいです。ニコ生ではテトが手紙を取り出すシーンでコメントが一斉に「メールが届きました」「メール着信」「ユーガッタメール」とか言い出すのスゲー面白かった。SMTPテトさん。

んでその手紙が、紋三への手紙は紙の上辺が赤くて、新右衛門への手紙は真っ白なただの紙。これなんかで読んだことがあって、遊女が自分のいいひとへ送る手紙はこの上辺が赤く染められた紙が使われるんだそうです。天紅と呼びます。これも歌舞伎や踊りの世界で今も残る記号の作法で、芸者持ちの扇なんかにも同じ意匠があります。色っぽくて、可愛くて、恋のモチーフ。これを聞きかじりの知識として知っていたせいで、天紅の手紙を見た瞬間「これしってる!わあ本物だ!」ってキャッキャできました。これが、事前に素養があると鑑賞がより深く楽しくなるっていうやつでしょうなあ。どんな小さなことでも私が今まで見てきたもの読んできたもの聞いてきたものは無駄じゃなかった、鑑賞者としての自分に今効いた!!という実感はたいそう快感でありました。テトの衣装にピンときた人とかも同じ気持ちだったんじゃないかなあ。テトさん好きで良かった!っていう。見出だせる喜び、というやつ。

あとあと、あの、超見せ場、だんまり(と呼ぶというのを今回初めて知りましたありがとうございます)の場面での、役者の息遣いと、空気が飴になったような重苦しいスローの立ち回り。すごいねえ、あれすごいねえ、ゆっくりとした動きって本当にプロの、鍛えた人でないと難しい動きと思うので、あの場面ほんと息を呑んで見てしまった。息止めてたかもしれない。かすかに入る息遣い以外はほぼ無音みたいなあの空気。あれすごいなあ…その後のパアンと空気と音が戻ってくる場面の緩急とか気持ちよすぎて思わず椅子から立ったり座ったりしました。ちょっと中毒になりそうなくらいたまらんかったので、だんまりがある歌舞伎の演目とか調べたい。アレもう一回、もう一回と言わず何度も見たい。他のお話でも見たい。(あった  >> 暗闘 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%97%E9%97%98

「愛したのは向こう側の人でした」というキーワードで終わる今回の超歌舞伎でしたが、あの「向こう側」というのは、何重にも意味の幅を持たせた、文字通り「思わせぶり」なキャッチコピーなのかなというのが私の解釈。観客に、これはどういう意味だろう、と「思わせる」ための装置。テーマというよりラストに配置されたシメのギミック、のような気がしました。個人的にはあのコピーの背景が、見事な花街のCGから緑のワイヤーフレームになって静かに消えていくのがゾクッとした最高SUKI
あのワイヤーフレームというのは、かつては未来感を演出する代表的なもので、今となってはかつて夢見た未来のレトロ、昨日夢見た明日の未来、イエスタデイズ・トゥモローズの表現。向こう側と聞いて観客が想像する、郭の内外、現実と虚構、鏡の裏表、などにさらに、来し方行く末、の含みを加える見事な演出であったなあと思いました。楽しかったーすごかったーと余韻に浸っているところに、まさに小粒の山椒のようにめっちゃピリッと効きました。

思えばボカロ曲での和風モチーフの曲は割と初期から自然発生的にあり(曽根崎心中やゆめみる小鳥など)そのランドマークが千本桜かなとは思うのですけど、歌舞伎演目で郭ものの成立もそういう感じだったのかなとか思ったりもしたので、そのへんも機会あったら調べたりしてみたいですね。



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