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大工さん目線の良い家とお客さん目線の良い家 [36歳からの大工見習い日記 4週目]

写真は現場で出た木の余りで作った、子どものための飛行機。まだ、作っている途中。木の余りでおもちゃを作ると、子どもが乱暴に遊んでも良いし、助かる。

「どう? 大工に転職したのもう後悔してきた?」
建て方でかわいがってくれる大工さんがニヤニヤしながらいってくる。建て方の時は8人くらいの大工さんが集まって仕事をするので、建て方の時にしか会わない。
「いや、毎日、楽しくやらせてもらってますよ!」
強がりではない。日々楽しい。

とは言え、毎日肉体的にはつらい。
高いところも怖い。
木のトゲがささったり、物で手を挟んで血豆が出来たり。
そして、見習いなので当然収入も少ない。見習いなのに給料をもらえるだけありがたいけれど、やっぱり暮らしは大変だ。ジュース一本買うにもためらうなんて、若い頃以来だ。

でも、誇張抜きで日々生きる喜びを感じる。

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住宅会社によって随分と家の中身っていうのは違う。
お客さん目線で言うと、耐震とか断熱とかの性能や、キッチンなんかの設備、フローリングが無垢かどうかなどの仕上げ材、ツーバイか在来などの工法に目が行きがちだが。

大工さん目線では、そういうところだけじゃなくて、下地の止め方や納まりなんかが違う事の方が気になる。その辺は確かにお客さんはどうしても分からない。仕様書なんかにも載らないし、完成したら完全に見えなくなる。

誰にでも分かりやすいところで言えば、二階の床の下地の合板だ。
釘だけで止める会社と、ボンドをぬってから釘で止める会社がある。
当然、ボンドも塗る方がしっかり止まる。意外とボンドを塗るのは面倒くさい。
ボンドを塗るなんてのは技術は必要じゃないけれど、時間を食う。
とはいえ、二階の床の下地の合板なんて、横にズレる力はあんまりかからないから、ボンドがなくたって問題ないのは問題ない。

もう少し分かりにくいところだと、間柱という細い柱のたわみを調整するために横に木を一本打つかどうか。
これについては、作業としては、少し面倒くさい。
柱との面を作ってあげて、調整してから、間柱を少し欠いてから横の木を打って止める。
やると面がきれいに出る。
長い目で見ると、間柱がたわんでズレないというのはリフォームの時なんかに良いだろう。
とはいえ、その上からボードを貼って、クロスを貼ってしまえば、表面上は分からない。

暮らす上で実用上、問題になるという部分だと気流止めの有無だ。これもやる会社とやらない会社がある。
簡単に言うと、壁の中の空気が床下や、天井裏に動かないように、ビニールシートを貼る。
別段難しい作業ではないのだが、手間は食う。
ただ、これをすると、壁の中での結露を防いでくれるし、断熱性能も良くなるし、断熱材の劣化も防ぎやすいとされている。実用性はある。
ただ、気流止めしている家かどうかって、暮らしていて気付くことはない。

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そんな具合で、細かい工事の部分が住宅会社によって違う。
住宅会社も、価格競争の世界なので、お客さんに伝わらないところは省略してコストダウンしたいところもあれば。逆にそういう見えないところこそ大事にすることで家のクオリティを守る会社もある。

その辺の違いは大工さんが決めることじゃなく。
人件費や材料費を決める住宅会社の方針次第だ。
勝手に細かい仕事を追加でやると、工期が間に合わなかったり、材料が足りなくなる。

大工さんとしても、自分の仕事として細かいことまできちんとするのが好きという人もいれば、しなくても良い面倒な作業はしたくないという大工さんもいる。

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大工さんが言うところの、あそこの住宅会社は細かいところまでキチンとしていて良い家を作るという基準は、一般の人がイメージするものとはかなり違うということだ。

例えば、お客さんから人気のある業界ナンバーワンの断熱性能の会社の家は、下地なんかが甘いので、ああいう家には住みたくないという大工さんもいる。

逆に、お客さんウケはイマイチだけれど、細かいところを妥協せず昔ながらの丁寧なやり方での施工をするから、自宅を建てるならあそこで建てたいということもある。

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個人的には、仕事は丁寧な細かいところまでする家が好きだ。

でも、自宅を建てるなら、別にそういう目に見えないところ、実際に暮らしていて、さほど影響がないようなところはこだわらなくても良いかな、その分、安い方が嬉しいかなという気もする。
(まあ、すでに自宅は、住宅営業時代に自分でプランを描いて建ててるんだけど)

なぜって。
仕事を丁寧に綺麗にすることは、自分の人生を作ることだからだ。
子どもが産まれてから、オレももうじき死ぬのか、働くと言っても、あと30年ほどか。自分の今の年齢よりも短い年数なのか、なんてことを考えることが増えた。

別に人生は仕事だけじゃない。
仕事なんて人生の一部、いや、仕事を全くしなくたって人生は人生だ。
とはいえ、仕事がその人の人生を作るのも事実だ。

だから、生きている間に自分が作る仕事は丁寧に綺麗なものを手掛けたいと思う。

それに対して、自分が住む家は、住めれば良いから、そこまで細かいところ、目に見えないようなところまでは良いかなー、なんて気はしたりする。
とはいえ、やはり家を作る仕事をするからには、良い家で日々過ごして、良い家を感じて生きている方が良い。

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まあ、見習いだから、丁寧な仕事もクソもなくて、ひとまずはコツコツと日々の仕事を覚えていく。
まっすぐ木を切る。
正確に長さを測って墨を出す。
工具の上手い使い方を覚える。
掃除と整理整頓をする。
そんなことをコツコツやっていくしか出来ないんだけど。

そう、大工さんをしていると、日々、生きている実感がわく。生きる歓びがある。

まあ、そんなこんな。

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