0を1にすること

エンジニアになって1年半になる。

学生時代はプログラミングのアルバイトなどもせず、大学院の時のインターン先ではリサーチプロジェクトをやっていた僕にとっては、チームでデザインしてコードを書いて一つのプロダクトを作るというエンジニアの仕事は近いようで未知の世界だった。当初は色々と戸惑ったが、1年もいるとよくわからなかった仕事もなんとなくうまくできるようになってきて、英語も上達してミーテイングをホストしたりプロジェクトを立ち上げたりリードしたりするようにもなった。

エンジニアの仕事というものは、アイディアを形にする仕事、よくある表現を使うと1を10にする仕事である。はっきりとした区分けは難しいし、0からアイディアを考えることもあるのだが、多くの労力が、様々な現実的な制約の中でどのように便利で使いやすく信頼性の高い製品を作ることに集中する。一方でリサーチの世界では、0を1にすることが全てである。例えば、カメラアプリのフィルター機能の開発を例に考えてみると、エンジニアの仕事はフィルター機能をどのようにバグがなく機能追加がしやすくユーザにとって使いやすいように作るかを考えるのに対し、リサーチャーの仕事はそもそも「フィルター」というものそれ自体を考案することである。おおまかには。

エンジニアリングとリサーチは難易度や重要性において甲乙つけられるものではない。エンジニアリングの難しさは最終的に求められる完成度にあり、リサーチの難しさはアイディア自体を生み出すことにある。学生時代にリサーチをして、卒業してからはエンジニアリングをして、では自分がどちらが好きかと聞かれれば、圧倒的にリサーチ、広義には0を1にする仕事なのだろうなと思う。よくないところでもあるのだが、プロジェクトをスタートしてある程度軌道に乗ってしまうと逆にやる気が半分くらいになってしまう。先が見えてしまうから。軌道に乗っていない時は先が見えなくて精神的に路頭に迷うことも多々あるのだが、なぜか振り返ってみるとそっちのほうが生きている実感が湧くのだ。どMなのか。

まぁだからといって今更リサーチの世界に戻るかと言われると、色々と理不尽なことも多いことは知っているし実際に世の中に与えるインパクトを考えると腰が重くなる。というのも、Computer Scienceの学術論文というのは実用化されて広く使われるようになる割合はおそらく千分の一あるかどうかみたいな夢物語であることが多く、多くの人がアカデミアからGoogleのような会社に流れてくる原因でもある。現在の上司ももともと夫婦そろって名門大学のテニュアをやっていたのだが、夫婦そろって移籍してきた。身の回りにそういう人は多い。素晴らしい研究者はそれでも色々な発明をして世の中を変えていくのだが、そうなれるかなど神のみぞ知るである。

だが結局のところ生きてて一番大切なのは自己満足であるようにも思うので、リサーチをして面白い夢を語って満足できるのであればそれはそれで幸せな人生だろうなぁと思う。自分の自己満足がいまいちまだ良くわかってない僕としては、色々と試してみるしかないのだろう。幸いそういった余裕は十分に与えられる会社と上司とチームに恵まれているので、僕はラッキーだなと思う次第である。

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