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7月22日 気まずい空気

7月12日(火)

夕食。白滝を使って冷麺のようなものを作った。先週は結婚記念日を理由に連日暴飲暴食したので、今日はその分を調整しようと思ったのだが、白滝では全く満たされず、結局冷蔵庫にあるものを追加でちまちま食べてしまった。白滝では夜を越えられない。


7月13日(水)

家の近くにある居酒屋のランチに初めて行ってみた。「刺身定食」と「魚定食」と「肉定食」があり、悩んだ末に「刺身定食」にしたのだが、運ばれてきたときの正直な感想としては、刺身が……少ない。まあ安いランチだし仕方ないのだが、その一方でごはんの盛りはなかなか豪快。更に刺身の埋め合わせなのかわからないが、小鉢二つに漬物がこんもり盛られている。この漬物、一口食べてみるとかなりしょっぱい。めちゃくちゃごはんが進む。漬物をごはんのお供にして、大きな茶碗を空にした。「刺身定食」というより「漬物定食」だった。


7月14日(木)

夫が出張で数日いないので、一人の時間を満喫しようと思ったのだが、一人の自由というのは堕落の始まりで、自炊する気も掃除する気も趣味のあれこれをする気にもならず、ただただゴロゴロ寝転んで過ごしてしまった。一緒に住んでいる人がいて、完全な自由ではないからこその張り合いというのもあるのだろう。元が酷く怠惰にできている私のような人間は、少し不自由なくらいの方が、自由を有効活用できるのかもしれない。


7月15日(金)

愛知に出張中の夫から、巣の中でピーチクパーチクしているツバメの雛の写真が送られてきた。公衆トイレの天井に巣があったらしい。ツバメが人間の世界に巣を作るという事象を知ってはいたが、どこか都市伝説のようなものとして認識していた。調べてみると、北海道のツバメは建物などに巣を作ることはほとんどないのだという。どうりで見たことがないわけだ。


7月16日(土)

以前通っていた短歌教室のメンバーでリモート合評会が開催された。札幌から引っ越したタイミングで教室は退会してしまったが、毎年文学フリマに出している同人誌には今も参加させてもらっている。合評会では同人誌に載せる連作をお互い批評し合う。できあがった連作を他の人に詠んでもらうのはとても面白い。意図していたのとは違う意味に受け取られることもあるし、自分が作歌したときの気持ち以上に深く解釈してもらえることもある。自分の短歌の知らない一面を教えてもらえて、大変お得な気分だ。久しぶりだったので作歌にかなり苦戦したが、好意的な意見も貰えたのでほっとした。みんなであれやこれやと話し合う時間そのものが楽しいというのもある。出席して良かった。


7月17日(日)

私の働いている店に、母親に連れられて中学生くらいの男の子がやってきた。男の子は白いTシャツに緩めのジーパン、足元は運動靴を履いていた。「お出かけ用の靴を一足買ってあげたくて」と言うお母さんのチョイスで、黒いコンバースを試し履きすることになった。運動靴からコンバースに履き替えたその姿を見て驚いた。靴が変わっただけで、ものすごく大人っぽい。少年が青年になった感じ。お母さんも「全然違う!」と喜んでいた。男の子は照れくさそうにしていた。靴ってめちゃくちゃ大事だなと改めて思った。


7月18日(月)

夫と夜中にココスに行った。夜中のファミレスって妙にワクワクする。ちょっとワルなことをしている気分。夜中にファミレスへ行くだけでワルな気分になれる私は、そこそこ善良な人間なのであろう。


7月19日(火)

夫が素麺にこだわりはじめた。私は面倒くさがりなので、素麺を茹でたらザルの上から水を適当にかけてゆすいでだいたい冷えたら水を切って皿に盛るという雑な素麺作りをこれまでやってきたのであるが、先日、土井善晴先生が出演していた料理番組で、土井先生が素麺を念入りに洗い、氷水を入れた皿にきれいに盛りつけているのを見て、夫が「これやりたい!」と目を輝かせた。とてもおいしそうに見えたらしい。いつも心ときめかない素麺を出してすみませんねという不貞腐れた気持ちを抱きつつも、基本台所に立たない夫が「俺が素麺茹でる!」と自ら昼食作りを買って出たので、自分でやってくれるならどうぞどうぞと温かく見守った。夫は土井先生のやり方に従い、丁寧にしっかりと素麺を洗い、氷水はあらかじめ冷蔵庫の中で冷やしておく徹底ぶり。キンキンに冷えた素麺を食べたいという気持ちが、ここまで人を熱くさせるとは。

せっかくなのでベランダで食べることにした。出来上がった素麺は確かにキンキンに冷たくて、外で食べていることも相まってこの上ないおいしさ。今後、素麺は夫に任せようと思う。素麺のあとはそのままベランダでキンキンのビールも飲んで、夏を満喫した。


7月20日(水)

母方の祖母が冷凍して送ってくれたカレーを食べた。昔からお馴染みのカレーで、玉ねぎと豚肉とホタテが入っている。これがものすごくおいしい。だが実は、祖母は辛いものが一切ダメで、カレーも全くと言っていいほど食べられない。どうして食べられないのにあんなにおいしく作れるのか、長年の謎である。

作り方を聞いて同じように作ってみたこともあるが、何度やっても同じ味にならない。もしかすると、調理する人間のマインドの違いだろうか。私のようにカレーが好きすぎる人間が作ると、どこかでカレーを甘やかしてしまい、カレーにナメられ、カレーの本気を引き出してやることができない。一方、カレーが嫌いな祖母が作ることで、カレーはカレーが嫌いな日本人がいることに衝撃を受け、初めての挫折を味わい、そこからもう一度おいしいカレーになるために奮起する。その不屈の精神こそが、祖母のカレーの隠し味となっているのかもしれない。もしくは単純に玉ねぎの炒め方が足りないのかもしれない。


7月21日(木)

近所のスーパーは店内が寒すぎる。今日そのことをすっかり忘れて、外の気温に合わせた完全夏仕様の出で立ちでスーパーに行ってしまった。凍え死ぬかと思った。たぶん冬より寒い。食品の保存期間は伸びるのかもしれないが、客の寿命はちょっと縮んでいる可能性がある。


7月22日(金)

車で帰宅する途中、目の前で接触事故が起きた。信号が赤になったときに、私の前を走っていた車が、その前の車にぶつかったのだ。びっくりして「うへェ!」と思わず声が出た。二台はゆっくりと路肩に移動をはじめた。運転手の顔は見えないが、気まずい空気が漂っているのが伝わってくる。気まずい空気というのは人間の表情や会話を通して感じ取るものなのかと思っていたが、車と車しかいない(見えない)状態でも、気まずさは発せられるものらしい。信号が青に変わり、気まずそうな二台の横を、気まずい気持ちで通り過ぎた。

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