16頁メイン写真差し替え

「受け入れてあげる」ではなく「共に生きる」ーWELgee代表・渡部清花さん

「難しい民」と書いて「難民」。この字面から、少し重いイメージを抱く人が多いだろう。そんな「難民」問題に対して、新たなアプローチで活動する若者たちがいる。WELgee(ウェルジー)は、コアメンバーが全員20代で構成され、日本にいる難民申請者の社会参画とエンパワーメントを目指す団体だ。今回は、代表の渡部清花(わたなべ・さやか)さんに、活動の原点と想いをうかがった。

DEAR News189号(Oct.2018/540円)の「ひと」コーナー掲載記事です。DEAR会員には掲載誌を1部無料でお届けしています。

3つのwith『難しい民ってなんだ?』

WELgeeの活動では、難民申請者*への一方的な支援ではなく、かれらと共に活動をすること、すなわち「with(ウィズ)」を大切にしている。3つの柱は、①難民申請者が日本社会へと繋がるための対話の場「Talk with(トーク・ウィズ)」、②緊急で住む場所を必要とする難民申請者を迎え、自立準備の拠点をつくる「Live with(リブ・ウィズ)」、③働くことを通じて自らの専門性や経験を生かす「Work with(ワーク・ウィズ)」だ。

* 日本で難民認定の申請を行った外国人で、「特定活動」などの在留資格を得て結果を待っている人。結果が出るまで平均して3年、長い場合は10年近くかかることもある。申請から6か月たてば、就労許可が出る場合がある。難民と認定されれば「定住者」の在留資格が与えられ、日本で暮らすことができる。また、難民認定はされなくても人道的な理由から滞在が許可される場合もある。不認定になった場合は審査請求が可能。不認定の決定に対し、裁判所で争うこともできるが時間も費用もかかる。

Talk with事業では、難民申請当事者(以下、当事者)の人々とワークショップ形式で対話をする「WELgeeサロン」を開催。また当事者と、渡部さんはじめとするスタッフが学校や企業を訪問し、実体験を聞きながら、難民状態になることを考える授業を行なっている。

「先日は、山梨と宮城の学校で当事者と一緒に90分のワークショップを行いました。当初、先生たちは『生徒は引っ込み思案だから…』と心配されていたのですが、生徒さんたちから素朴な質問がたくさん出て盛り上がりました」と渡部さん。

さらに、「これも朝の読書や総合の時間に使ってもらっているんですよ」と見せてくれたのが、漫画『難しい民ってなんだ?』だ。これは、WELgee主催のイベントに参加した漫画家さんが、「わたしに何かできるでしょうか?」と声をかけてくれたことが制作のきっかけだったそうだ。

「漫画家さんから『支援者としてではなく、一人の友人として当事者に出会って、それぞれのストーリーを描きたい』とお話があって、実現したものです」

国家が見放した人びと・国連や国際機関の葛藤

渡部さんのご両親は、学校には行けない子どもや、家庭に居場所がない若者などを支援するNPOを運営してきた。静岡の実家は事務所兼シェルターで、渡部さんは幼い頃から、家族以外の様々な子どもや大人と一緒に暮らしてきたという。「マイノリティの側に立って、社会を勉強したくて」大学に進学。ゼミのフィールドワークでバングラデシュを訪れた。

紛争地域のチッタゴン丘陵地帯へ高い関心を寄せていたが、ゼミでは「危険すぎる」ために訪れることができない。そこで、渡部さんは単身でチッタゴン丘陵地帯へ向かった。先住民族・チャクマ族のもとに滞在したが、帰国直前に衝突が起こり、戒厳令が出てしまった。「出国できないかもしれない」という危機に陥ったが、現地の僧侶の配慮で、なんとか空港まで移動することができた。

「村を出るとき、彼から『This is the life(これが人生だ)』と言われ、驚いたんです。村を焼かれたり、女性がレイプされたり、小学生が毎日怯えながら生活している。わたしは『こんなんじゃダメだろう』って思ったけれど、彼としては、政府からも弾圧にあい、国際社会からも見放され、色々な諦めの気持ちの『This is the life』だった…。帰りの飛行機で考え込んで、何とかしたいと思いました」

その後、大学を休学し、再びチッタゴン丘陵地帯に戻った渡部さん。NGOの駐在員と、UNDP(国連開発計画)のインターンとして、約2年間滞在した。現地のチャクマ語をマスターし、紛争を体験しているお年寄りへの聞き取り調査も行った。

「国家が守らない人たちの日常を知ると同時に、国連や国際機関の限界と葛藤を目の当たりしました。農業や教育の案件にはお金が出るけれど、本当に必要とされている和平協定やアドボカシーにはなかなかお金が出ない。その一方で、きれいなレポートは出てくる。『すごい構造だなあ』と思ってしまいました」

大学院進学で出会った東京に住む難民たち

休学を含め6年間の大学生活を終えた渡部さんは、バングラデシュで活動をする予定だった。しかし、2015年、バングラデシュにて日本人男性が殺害された事件によりそのプログラムは中止になってしまった。

とはいえ、

続きをみるには

残り 1,977字 / 2画像

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?