国語科ワークショッフ_配布用チラシPDFver201

緊急ワークショップ「これからの「国語科」の話をしよう!」を終えて(1)

 今週はお目にかかる方ご連絡くださる方と、口々に先日の「国語科」ワークショップのお話になる、そんな一週間でした。こんかいはたまたまわたしが準備する立場でしたが、それだけ、「新しい国語科」や大学入学共通テストをめぐって、率直に議論する場所が求められていたのだと思います。文学通信さんのご厚意で急遽アップロードしていただいた動画も、多くの方の目に触れているようです(1)。ご参加くださった皆さま、関心を寄せてくださった皆さまに改めてお礼を申し上げます。
 また、当日も告知タイムを取りましたが、『国語教育の危機』をきっかけとした講演会やシンポジウムが他にも多く設けられているようです。この回が一回的な盛り上がりとしてだけで終わらず、燎原の火のように、議論が広がっていくことをぜひとも期待したいと思っています(2)。

 
 企画運営担当としての当日の反省とお詫びは、すでに私のtwitterfacebookのページに書き込んでいます。ここでは、ごく簡単にではありますが、こんかいのWSであまり議論できなかった「これからの「国語科」」に対する課題意識と、いまのわたしの考えを書き留めておきたいと思います。


(1)「国語科」の授業は日本人だけが受けるわけではない 
 13日のワークショップで紅野さんが「喫緊の課題」として触れた問題です。当日は、司会の力不足もあって展開できませんでした。しかし、日本で働く外国人労働者はすでに100万人以上。文科省による調査では、2016年段階で、公立の小・中・高に在籍する児童生徒のうち、日本語指導が必要な子どもの数は43,947人、うち23%にあたる14,000人ほどが、「学校教育の中で指導を受けられないままになっている」状況にあります(西日本新聞社編『新・移民時代』明石書店、2017年)。かてて加えて、2018年12月には、きわめて杜撰な審議だけで、入管法が「改定」されてしまった。いずれにしても、教室の多国籍化・多言語化がいっそう進むことになることは、おそらく間違いがありません。

 よく知られるように、「国語」は、19世紀以来、国民国家日本の統合装置としての役割を期待され、機能してきました。「「日本」国籍―「日本人」―「日本語」―「日本文化」を無前提に実体化してしまう発想」を(ときに強権的な手段で)実定化する役割を担ってきたわけです(小森陽一『〈ゆらぎ〉の日本文学』NHK出版、1998年)。わたし自身、そうした歴史を批判的に捉える仕事をしてきましたし、こんかいのWSで一貫して「国語科」にカギカッコを付けてきたのも、「国語」という語を無前提に使いたくない、との思いからでした(twitterのハッシュタグでは、煩雑を恐れてカットしてしまいましたが…)。

 教室の多国籍化、多言語化。もちろん、いままでもあったことだと思います。ですが、こうした光景が当たり前になる社会に、現在の「国語科」は対応できているでしょうか。現在の「国語科」の授業やカリキュラムは、教室には「日本語」を第一言語とする「日本」国籍の「日本人」しかいないかのような前提で作られていると言わざるを得ないと、わたしは思います。
 以前、勤め先から送り出した教育実習生の授業の見学にお邪魔した際、日本以外の国・地域にルーツを持つ生徒さんが、「国語」の授業で『平家物語』を朗読する機会に出会ったことがあります。1月14日のシンポジウム「古典は本当に必要なのか」@明星大では、こうした問題は議論されたのでしょうか。日本の学校教育で古典を学ぶ意義を議論する際に、「日本人」というナショナリティだけに依拠するのではない論拠は、立てられないものなのでしょうか?

 わたし自身も、じゅうぶんな答えを持っているわけではありません。しかし、この問題は、今後ぜひ、それこそ教員・研究者が真剣に考える必要がある問いではないか、と思っています。(この項、つづく)

(注1)文学通信さんのウェブサイトで、当日の動画と配付資料が公開されています。3時間をゆうに超えるサイズですが、1月20日現在で、前半は1500回、後半は500回以上も再生されているようです。ほんとうにありがたいかぎりです。

(注2)当日の会場で告知があった企画/イベントを書き起こしておきます。主催・申し込み・会場等、詳しいことが分かり次第、あらためて補足いたします。

▶2月23日(土) 日本大学国文学会研究集会(於、日本大学文理学部)
 登壇者:梶川信行さん、紅野謙介さん、山下直さん(文教大)
▶3月23日(土) 神奈川県高等学校教職員組合学習会「これからの国語教育を考える」(於、神奈川県高等学校教育会館) 講演:紅野謙介さん
▶3月30日(土) 広島大学でのワークショップ *紅野さんご参加
▶5月17日(金) 丸善150周年記念連続講演会#2(於、千代田区立日比谷図書館) 講演:紅野謙介さん