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ゲームの遺伝子解析記録vol.1『ワンダと巨像』/『人喰いの大鷲トリコ』

みなさん、今日もゲーム、遊んでますか?

こんにちは!NHK「ゲームゲノム」の総合ディレクターを務めている平元慎一郎と申します。この記事から、2022年10月にスタートした新レギュラー番組「ゲームゲノム」の取材後記を“ゲームの遺伝子解析記録”として連載していくことになりました。放送にあわせて全10回を予定していますので、ぜひチェックしていただければと思います。

画像 筆者
若者向け番組「NABE」にて、Z世代インフルエンサーからの「ゲーム教養番組って何?」に答える筆者

さて、まず「ゲームゲノム」とはどんな番組かー。簡単に説明すると、“ゲームを文化として捉え、ソフトを作品として扱い、古今東西のタイトルが持つ独自の魅力や奥深さに迫るゲーム教養番組”です。「なんか堅苦しそうだな」と思った皆さん…ちょっと当たってます(笑)。というのも、この番組では、これまでテレビではなかなか扱われなかったゲームの文化的側面に焦点を当て、単なる面白さの紹介に留まらず、そのプレイ体験から得られるものやクリエイターの方たちが込めたメッセージを紐解ひもとくことで、視聴者の皆さんに何か心の栄養(=教養)を得てもらいたい、というコンセプトがあるからです。

「いや、でもゲームって“遊ぶもの”じゃん?」

これもその通りだと思います。ゲームに限らず、映画や音楽、文学などのエンターテインメントの本質は、楽しむこと。ただ、ゲームには《コントローラーを握って、ボタンを押して、反応が返ってくる体験》=インタラクティブ性が特段に強いコンテンツだとも思うのです。ですから、「ゲームゲノム」では、そうした“プレイ体験から得られる大切な感情や価値観(これを私たちは『ゲームゲノム』と呼んでいます)”を深掘りしていく内容になっています。

しかも!豪華で作品愛あふれるゲストの皆さんのスタジオトークは熱量が半端じゃなく、見応え抜群です。回によっては、作品を手掛けたゲームクリエイター本人をお招きして開発秘話やゲームに込めた思いなども語っていただきます。普段ゲームを遊ばない方でも、ゲームの魅力に気づいていただけると思いますし、ゲーマーの方々には改めてゲームという文化の奥深さを再発見してもらえる番組になっています。
 

画像 前回の放送の様子
作品について熱く語り合う本田翼さん・山田孝之さん・上田文人さん

さて、前置きは長くなったのですが、「ゲームゲノム」のレギュラー化が決まってから実際の放送にこぎつくまでは、本当に短かった……。

というのも、この番組は昨年の10月にいわゆるパイロット版を放送し、そのちょうど一年後に定時化放送となったわけですが、そもそも“ゲームを題材にしたレギュラー番組”はNHKでも初めての試みでした。しかも、不肖平元が誰に頼まれるでもなく企画したので、一緒に番組を作る「ゲームゲノム制作班」を立ち上げるところからのスタート。もっと言えば、まだパイロット版1本しか放送実績がない番組に、ゲーム会社の皆さんや各回ぴったりのゲストの皆さんのご協力を仰ぐなど…様々な“試練”があり、ひとつひとつを丁寧に“攻略”していかなければならなかったのです。

そう、レギュラー番組の立ち上げは、いうなればRPGそのもの!一緒に冒険をしてくれる仲間(ディレクターや技術・美術スタッフなど)を集めてパーティーを組み、歯ごたえのあるダンジョンを探索(各作品をどんな切り口で紹介するかを企画・構成)し、宝物を手に入れる(スタジオトークやVTRで“ゲームゲノム”に辿り着く)…とゲーマー的な解釈をしながら、楽しく一生懸命作っています。

あ、視聴者の皆さんにどうしてもお伝えしたいことがあります!我々が面白い番組を精一杯作るのは当たり前として、何よりも昨年のパイロット版の少なくない反響がレギュラー化につながりました。ご覧いただいた皆さん、本当にありがとうございました。取り上げた作品『DEATH STRANDING』から紐解ひもといた“つながり”というテーマが、レギュラー化という形に結び付いたことを、とてもうれしく感じています。当時のパイロット版の制作にかけた思いは、こちらの記事でお読みいただけると幸いです。

そして、記念すべき第1回目は、『ワンダと巨像』『人喰いの大鷲トリコ』を取り上げます。世界的に高い評価を受けているゲームクリエイター・上田文人さんが手がけている二作品です。

『ワンダと巨像』は、魂を失った少女を助けるため禁じられた地にやってきた青年・ワンダが、少女をよみがえらせるために、数々の巨像と戦っていくアクションゲームです。普通の人間であるワンダを操作し、理不尽ともいえる攻撃を繰り出す巨像たちに一人孤独に立ち向かいます。そのダイナミズムと生々しい死闘の描写が大きな特徴で、一般的なアクションゲームが売りとしている“爽快感”と逆をいくプレイ体験が人間の弱さとたくましさを突き付けてくる作品です。

画像 ゲームのプレイ画面
『ワンダと巨像』のプレイ画面…本当にデカいんです…!

『人喰いの大鷲トリコ』は、とある理由で不思議な遺跡が立ち並ぶ谷に一人さらわれた少年が、トリコという生物と出会い、協力しながら脱出を図るアドベンチャーゲームです。当初、少年とトリコは互いを警戒しています。両者とも捕らわれの身だったこともあり、それぞれが強い孤独を感じているからです。プレイヤーは少年を操り、ときにトリコに指示を出しながら困難な道のりを進んでいきます。もちろん人間と動物なので、言葉を用いた明確なコミュニケーションは取れません。だからこそ、プレイを積み重ねる中で生まれるトリコという生命との絆が愛おしくなってきます。

画像 ゲームのプレイ画面
『人喰いの大鷲トリコ』のプレイ画面…トリコ、可愛い~

そんな両作から紐解ひもとくゲームゲノムは、“孤独と生命”。その意味するところは、是非(NHKプラス等で)番組をご覧いただき、視聴者の皆さんそれぞれに感じ取っていただければと思いますが…。実は、『ワンダと巨像』も『人喰いの大鷲トリコ』も、制作を手掛けた上田文人さんたちクリエイター陣は“孤独”や“生命”といったワードを使っての作品紹介は元々していませんでした。今回、上田文人さんに取材を重ねるうちに、そうしたテーマやキーワードが少しずつ浮かび上がり、“ゲームゲノム”という一つの解釈としてご紹介しています。こうして、ゲームを作品として捉え、解析していくことが、番組の作り手として大きな醍醐味だいごみであり、視聴者の皆さんに是非とも届けたいメッセージになっています。

ちなみに、私は番組を立ち上げた身として、レギュラー化に際しては「総合演出」なる役割も任せていただいており、今後の放送すべてのラインナップを各ディレクター・プロデューサーと伴走しているわけなんですが…
「自分も1本は自らの手で取材・企画・演出をしたい!」という思いから、初回のディレクターを担当させていただきました。そして、“ゲーム教養番組”というチームで掲げた志を、初回から120%の思いで形にしたいと考えたとき、すぐ題材として『ワンダと巨像』が頭に浮かびました。

本作が発売された当時、私は十代前半。多感なくせに斜に構え、鬱屈とした、決して青くない春を送っていた自分にとって、『ワンダと巨像』の世界観やプレイ体験は、本当に特別なものだったのです。思い返すと、それまで遊んできたゲームで味わってこなかった“えぐみ”のようなモノも感じたというか…。その魅力の正体は、もちろん当時の平元少年には、言語化はおろか“価値観に影響”などとのたまえるほどに落ちたわけでもありませんでした。

だからこそ、当時感じた“えぐみの正体”と、それに世界中のプレイヤーが魅了されている理由を、今回番組を通して解き明かしたいと思いました。その一つが先述した“孤独と生命”であり、取材を重ねていくことで上田さんが『ワンダと巨像』の次に手掛けた『人喰いの大鷲トリコ』も、異なる角度から同じメッセージを投げかけていることに気づいたのです。

画像 初回放送の様子
今回のテーマは“孤独と生命”

「今」、世の中を見渡したとき、“孤独”や“生命”という言葉が持つ意味が、日に日に重たさを増しているように感じます。理想論を言えば、人は寄り添い、助け合い、孤独を埋め合えるはずですし、ひとつひとつの生命を慈しむこともできるはずです。そうしたことへの、ちょっとした気づきや考えるきっかけになればと、青臭く考えたりもしながら作った番組です。

最後に…取材の中でとても印象に残っていることがありました。

上田文人さんにインタビューロケをしたときのことです。私が作品に込めた思いを伺うと、上田さんは「ゲームで遊んで何を感じたかは、プレイヤーの皆さんが自由に受け取っていただければと思うのですが…」と、節々に言うのです。これは、「ゲームゲノム」を立ち上げ、『ワンダと巨像』/『人喰いの大鷲トリコ』の魅力を伝えたい、と考えている自分にとってハッとさせられる枕詞でした。

というのも、私の中でも、“ゲームを作品論として語る”ということが少し野暮なことのような気がしているというのも、正直な思いとして持っているからです。この記事の冒頭でも書きましたが、「ゲームは遊んでなんぼ」―その大前提は私自身、今も変わっていません。そして、一つの作品に対して、遊んだプレイヤーの数だけ受け取った“ゲームゲノム”があることも事実です。だから、上田さんも番組の趣旨をご理解していただきつつも、そのような表現をしてくださっていたのだとも感じたのです。

それでも…!

映画や音楽、文学や絵画のように、作品論として文化・芸術を紐解ひもとくくワクワク感…格好よく言えば人間の知的好奇心をゲームの世界でも浸透させたいという自分の信念を貫くことにしました。

取材やスタジオ収録が終わったあと、上田文人さんには「こういった番組は、ゲームを作る我々にとっても励みになります。ぜひ良いものを作って、続けていってください。」とお言葉をいただきました。テレビディレクターとしても、いちゲーマーとしてもとてもうれしかったですし、必ず視聴者の皆さんに何かを感じてもらう良い番組にしなければと、改めて覚悟を決めました。“少し野暮なこと”をはるかに通り越して“れっきとしたゲーム教養番組”にするー。その決意をもってして、全10回の放送をお届けする所存です。

画像 初回放送の様子
ゲーム制作の現場にお邪魔して伺った上田文人さんのインタビュー

さて、長くなってしまいましたが…

そんな第1回目の「ゲームゲノム」は、「NHKプラス」でも見逃し配信をしています。2022年10月12日23:00まではご覧になれますので、まだご視聴いただいていない方は是非!このたびは記事を読んでいただき、本当にありがとうございました!

画像 NHKプラスへのご案内

                      ディレクター 平元慎一郎

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