【岡山旅行記その1】

岡山の土を踏んだのは、今回が2度目だった。

1度目、つまり最初に岡山を訪れたのは、僕が小学校6年生の頃だ。当時の僕は中学受験生で、いわゆる「滑り止め」として岡山県の某中学校を受験していた。

その中学の周辺は「岡山」の名に相応しく、岡と山だった。学生を勉強に集中させることに、土地が加担しているかのようだった。学校に着くまでは年相応の緊張感に支配され、試験が終わってからは駅できびだんごを買うことだけが楽しみだった無邪気な小学生にとって、街の背景で目を引くようなものは何も無かった。抽象化された記憶として僕の頭に残っていたのは、収穫後の小麦畑のような景色だった。

あれから11年の時を経て、岡山に立つ。新幹線岡山駅のホームに降りた時は、小学校の同窓会に行く時のような感慨深さがあった。

駅の改札を出た僕の目に、JR岡山駅の景色がゆったりと昇ってくる。見通しの良い広場。妙に自信ありげだが都内の水槽に放つと早めに食われそうな商業施設。欲を言えばもう少し綺麗だと嬉しいが全然許せる範囲のレンガ畳。それらは全体的に、地方都市の矜持を感じさせるものだった。

同時に、記憶の中の風景とはあまりに違っていた。某中学校の最寄駅と岡山駅では、景色が違うのは当然のことだ。しかし、子供の頃に染み付いた「象徴としての岡山」は意外と根深く、この機に及んでも岡山に対する小麦色のイメージは頭から消えなかった。なお、岡山駅周辺の百貨店の中にLOUIS VUITTONが入っているのを見て、ようやく何かから解放された気がした。

岡山の地力を噛み締めながら、荷物を置くために一旦ホテルに向かう。友人が予約してくれたLIVEDAMみたいな名前のホテルは8階建てで、一応全国でチェーン展開もしているらしい。2人で合計5000円程度という格安っぷりには助けられたが、エレベーターが必ず2階で一旦止まるという謎の仕様があった。1階から8階に行く時も、8階から1階に行く時も、絶対に2階で止まる。動画に割り込んでくる無料広告のような微妙な不快感があった。

ホテルを出て、最初の目的地である岡山城へ向かう。区画整理された道は見通しが良く、岡山城までの方向を示す旗印もそこら中に設置されていたので、手慣れた商人のような清潔感を街全体に感じた。城までの道中でも、備前焼の並ぶ店や「晴れの国 おかやま」などの標識が適度に岡山感を演出する。今のところ全国チェーンのホテルのエレベーターに水を刺された以外は、素敵な要素ばかりであるという印象だった。

(続く)

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