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ボーイフレンド 1

恋だの愛だの小難しいことを考え始める前。
ただまっすぐ相手を見つめる気持ち。
娘たちを通してみる、幼児たちの世界がキラキラと眩しい。
一方でおもしろいのが、その世界すらどこまでも社会の縮図だということ。世の摂理がすでにDNAレベルで備わっているように感じるのだ。

年中の長女には、現在両思いの相手がいる。
去年からその子のことはかっこいいと話していた。どんなところがかっこいいか、夜お風呂場でしっとりと語ってくれていた。
他のお友だちのことは、キャッキャしながら話したり、嫌なことをする子とのことは、しかめっつらで教えてくれたりしていたので、彼女の中での温度の違いは明らかだった。
そんなお相手といつのまにか仲を深め、毎日のように一緒に遊ぶようになった。相手が自分に甘えてくることや、共通の趣味で盛り上がっていることなどを、長女は話してくれた。

とある日のお迎えに行く際、先にお迎えを済ませた相手の親御さんと駐車場で偶然出会し、挨拶をして少しだけ立ち話をした。
相手の子が家でも四六時中長女のことを好きだと話していること。毎日会える中でも手紙を書きたいと言ってくれて、お母さんと一緒に頑張って書いてくれたこと。
そして、「〇〇(長女)ちゃんとモスバーガーに行きたい!」とずっと話してること。

最後の話は初耳だった。えっ…かわいい。なんというかわいいデートのお誘いなのだろう。
行き先はモスバーガー。マクドナルドではない。この年頃の子はおおかた、ハッピーセットのあるマクドナルドが大好きだ。我が家の娘たちはハンバーガーを好まないので中々利用する機会がないが、モスバーガーに行くということは、恐らく相手の子はハンバーガーが苦手ではないのだろう。
マクドナルドより少し背伸びしたモスバーガー。好きな子と、少し特別な好きな場所。
等身大のデートプランの健気さに思わず身悶えてしまった。

相手のご家族と別れたあと、長女を迎えに行き、先ほどの出来事と聞いた話を伝えてみた。
「ね、おうちでも〇〇(長女)ちゃんが好きってたくさん話してくれて、“一緒にモスバーガー行きたい”って言ってくれてるらしいよ。
デートのお誘いじゃない。こんなに思ってもらえてうれしいねぇ。」
すると長女は顔色ひとつ変えずに言った。
「ああ、しってるよ。園でもずっと言われてることだから」

追う側から追われる側になった余裕なのか。
はたまた、敢えてデートのお誘いについては母に話さず胸に留めていたのに、意図せず違うルートから伝わってしまったゆえのクールさなのか。

その横顔は、すでに大人の貫禄だった。
そして、長女の心には、すでに鍵付きのひみつの箱が存在するように感じた。

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