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じっくり解説! 令和5年度共通テスト小説問4~大学受験生応援コラム11月

登場人物の思考分析


’** 0 はじめに ***

当記事に目を留めていただき、ありがとうございます。大学入学共通テストの国語問題を題材に、受験対策に役立ててほしいという主旨で始めたブログです。毎回かなり長くなってしまうのですが、解ける方には「ウザい」くらいの解説を目指して書いています。

引き続き、令和5年度共通テスト本試験の小説問題を扱っていきます。問題文は以下からダウンロードできます。赤本などがあればそれをご覧いただいても結構。今回は問4を扱います。

’** 1 問4を解く ***

問4は、傍線部Dのときの私の状況と心情を問うています。しかし先に述べておきますと、実は心情は問われていません。各選択肢を見ていただければ分かりますが、心情語が全く書き込まれていないのです。よって、あくまでこのときの私の状況を本文から読み取ればよいことになります。

傍線部Dの前には、主人公「私」の思考が書き連ねられています。食堂でご飯を食べている場面、「私をとりまくさまざまの構図が」からDの直前までです。このような場合、その思考部分を重視して解答を導きます。小説というよりも説明文や評論を読む感じで接した方がよいかもしれません。

と言いますのは、長々書かれる思考は往々にして何らかの論理性を持っていることが多いためです。今回の文章では、まず(A)自分の周りの様々な人々が思い浮かべられます。その人物たちは「会長」をはじめとする裕福な層と「腐った芋の弁当」を持参するような生活困窮層とに分かれます。

次に、(B)その中での自分の立ち位置を顧みています。「私」も困窮層であり、食べ物のことばかり考え盗みすら行う有り様だと記されます。そして最後に、(C)今のような状況がこの先も継続した先にある未来を想像して恐ろしさを覚えています。ずっと飢えたまま、コソ泥みたいなさもしいことを繰り返さなくてはならないことへのおぞましさを感じるわけです。

以上で確認したことが、各選択肢でどのように書かれているかチェックします。

(A)
①貧富の差が如実に現れる周囲の人々の姿・・・
②ぜいたくに暮らす人々・・・困窮層の記述がありません
③経済的な格差がある社会・・・これは良いが、その後の「したたかに生きる人々」がAにはない内容です
④富める人もいれば貧しい人もいる社会の構造・・・
⑤自分を囲む現実を顧みたことで…貧しい人が多い中に富める人もいる・・・

続きをみましょう。②③の内容も念のため記します。

(B)
①自らの貧しくみじめな姿、食物への思いにとらわれていることの自覚、農作物を盗む・・・
(②農業をする自分の姿を空想したと書かれています。Bの内容に合いません)
(③自分がその場しのぎの不器用な生き方をしていると書かれています。Bの内容に合いません)
④会社勤めを始めて20日以上になるが自分は社会構造から抜け出せないと書かれています。確かに「私」は今生活に困窮する状態にあります。問題は前半部分です。20日勤めただけではまだ給料ももらえていないだろうから生活が変わるはずもないですし、「働いているのに」という描写はBの内容に合いません
⑤食糧のことで頭が一杯・・・

最後です。これまた②③さらに④の内容も念のため記します。

(C)
①農作物を盗む生活の先にある自分の将来に思い至る・・・
(②自分は空想にふけり、現実を直視していないと書かれています。Cの内容に合いません)
(③我が身を振り返ったとのみ書かれています。「私」はこの生活の行く末をも想像しています)
(④将来さらなる貧困に落ちると書かれています。食物を盗む生活が延々続くだろうと想像していることは推測できますが、さらに悪化するかどうかは何とも言いきれません)
⑤自分は社会の動向を広く認識できていなかったと書かれています。Cの内容に合いません

これで答えは①となります。

’** 2 外部評価は? ***

ここで、恒例の外部評価を見ましょう。リンクを貼っておきます。

ページを下にスクロールしていくと、教科ごとの問題評価一覧があります。

問4は、各方面からどのように評価されているのでしょうか。

◆学校関係者
「飢えに苦しんでいる自らの状況を自覚し、将来への不安を抱くに至る『私』の心情を、文脈から的確に読み取る力を問うている」

→確かにそういう設問です。心情は問われていませんけれど。

◆国語の専門家
「丁寧に読めば読める良問。誤答④の内容を正答①に組み込むくらいでも良かったか」

→このご指摘は、④が前回まで扱っていた本小説のテーマである「利権vs衣食住に苦しむ市民階層」という、社会構造にはっきり触れた唯一の選択肢だからだろうと私は判断します。でも、丁寧に読めば「解ける」ですよね?

◆問題作成者
 「『私』の周りにいる様々な人々のことを思い返しつつ、自分の将来について考えたときの 『私』の反応について捉えさせる問題である。解答の選択が分散しており、適切な問題設定と選択肢であった

→専門家ともども、本設問を良問と評価しています。正答率も6割弱で設問としての適切性も数字上クリアしています。

先に書いたように、本問は小説問題ではありながら、人物の思考を段階を追って整理するという、評論読解で必要となるような解答手順が求められています。受験生には頭の切り替えが求められるので大変ではありますが、小説にだって構造と論理があるわけですし、小説中に評論的な設問を出すことの意義はそれなりにあると私も考えています。

以上は出題者側の意見ですが、これを解答させられる側からするとどうか。一般に、この手の問題が出されると正答率が下がるという傾向があります。本設問のそれも、大問2の中で下から3番目か4番目(全8問中)です。それなりに負担感のある設問なのでしょう。

実は、私が最初にこの問題を解いたとき(新聞に問題が掲載された日)に抱いた素直な感想は「ただの要約じゃん」でした。10行未満の文章、しかも説明文風の文章の要約です。だから当時の私はこの設問の難易度を「易」と評価していました。正答率8割くらいのイメージです。

しかしデータを見れば、正答率は6割弱。これは「よく選択肢を上手に作ったね」とも言えるし、上で書いたように正しく文章を理解していれば解けるだろうに「受験生、この設問ちゃんと点を取れよ」とも言える問題だと思います。

今回は以上です。また次回です。



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