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大学受験生応援コラム・5月~漢文最終回

返り点をつける問題は、いかに攻略するのか? その3

’*** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。

本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。

今月は「漢文」、今後も出題必至の「白文に返り点をつける」問題を取り上げています。今日で5月分は最終回です。


’*** 1 今回のポイント・対句 ***

返り点を付ける問題で注意すべきポイントは、前回コラムの冒頭に列挙しておきました。まだご覧になっていない方、忘れてしまったという方はそちらも併せてお読みくださればと思います。

前回のコラムはこちら。
https://note.com/nice_lilac907/n/n26ff5ddf60e3

今回は、受験生が知っておきたいポイントをもう一つ取り上げます。「対句」です。漢文では多用されますし、読解上も返り点を付けるうえでも重要な項目です。

対句とは、何か。今、手元にある辞書にはこう書かれています。

「語格(語法のこと)・表現形式が同一または類似している二つの句を相対して並べ、対照・強調の効果を与える表現。例:月に叢雲(むらくも)、花に風」
(『大辞泉』より)

例文は「〇〇(きれいなもの)に✕✕(きれいなものを隠したり散らしたりする自然現象)」という同じ形式で書かれています。また、「月」と「花」は美しいものという共通項はあるものの、天にあるものと地にあるものという意味で対照的です。先に挙げた辞書の説明と一致していることを確認してください。

そして対句は、二つセットでないと意味をなしません。必ずセットで捉えます。

これくらいのことを押さえた上で、実際の問題に取り組んでみます。

’*** 2 2023年度共通テスト 大問4問3 ***

問題はこちらから見られます。大学入試センターは最新問題の掲載が遅いのが難点です。今回は朝日新聞のサイトのリンクを貼っています。

https://www.asahi.com/edu/kyotsu-exam/shiken2023/mondai_day1_Tk74k2psFHfw/kokugo_01.html

例によって、傍線部Bに返り点をつける問題です。今回はこの問いを解いてみましょう。

まずは直前までの内容をチェックします。

君主は賢者を探し求めて自分の臣下にしたいができていない。一方、賢者・臣下は君主の役に立ちたいのだがそれが叶わない。それは・・・と来ての傍線部Bです。

「豈」という疑問詞は当然気になるところです。これは一番最初に読みます。

そして傍線部Bには「対句」があります。早速チェックしましょう。

まずは4文字目からの「貴賤相懸」と「朝野相隔」。どちらも1文字目と2文字目が対義語のペア、3文字目が「相」で共通、4文字目が「懸」と「隔」でどちらも「遠く離れる」という意味を持つ動詞です。もし漢字の読み方を知りたければ、ここで選択肢をチラ見してもよいでしょう。どちらも「へだたり」と読んでいます。

この二つの節はシンプルなS-Vの文型です。「貴と賤がお互いに離れている」「朝廷と野=民間がお互いに離れている」くらいの意味。対句である以上、この二つのフレーズは上から下まで一気に読み下すはずです。「貴賤相ひ隔たり、朝野相ひ隔たる」。最終的にこの部分は更に下の対句につながるので、最後の読み方は「隔たり、」と変わりますが、前回も言いましたように、部分分析の段階では細かい送り仮名の違いは気にしなくてよいです。

さらに、一気に読み終えた後にも、もうワンセットの対句が待っています。

「堂遠於千里」と「門深於九重」です。1文字目「堂」と「門」はいずれも宮中の建築物。2文字目は「遠」と「深」でいずれも形容詞、この部分ではこの2文字目が述語を作っています。日本語でもありますよね、形容詞や形容動詞が述語になるパターン。

3文字目が重要置き字「於」、4~5文字目は「千里」「九重」といずれも数字の入る名詞です。「九重」は宮中を指す言葉として古典では用いられますが、貴人の住む場所には庶民ではなかなか手が届かないという連想で、遠く離れた場所を指す場合があります。今回はそちらの用法です。

ところで、形容詞+於(前置詞)+名詞(数詞)というこの形ですが、英語のある表現と似ています。

「比較」の形です。Today is hotter than yesterday.みたいなやつ(この場合は、本当はIt is …で書き始める方が正式ですが)。実は「於」には、まさにこのthan(「~より」と訳す)の用法があります。

対句は必ずセットで読みます。前半の最後「遠し」を連用形にしてつなぎましょう(連用中止法)。「堂は千里より遠く、門は九重より深し」と読むことがこれで分かります。

以上の検討の結果、2組の対句表現は上からまとめて一気に読んでしまうと考えるのが妥当です。

そして、対句を全て読み終えた後に、まだ読んでいない冒頭部分に返ります。

「豈」はもう確認済みなので、2文字目から。

2文字目は「不」、打消の助動詞「ず」です。これは返読文字なので、下の文字を読んでから読みます。上の「豈」と組み合わせた「豈不~」の読み方の候補としては、

「あに~ざらんや」と読めば、反語表現。
「あに~ずや」と読めば、詠嘆形。

「豈」は反語でよく用いられるイメージが強いですが、即反語だと決めつけないようにしましょう。今回はどの選択肢を見ても反語の読み方をしていないからいいのですが、おなじみの「あに~ざらんや」という読み方がないことで、「あれ? 何で??」と思考がフリーズしてしまう可能性もあります。

ともあれ、今回は選択肢もヒントにして、「あに~ずや」という読み方で確定です。

話を戻します。3文字目は「以」。「~で、~を使って」と手段などを表したり、「~を」と単に目的語であることを表したりするのが基本の用法です。

ただし今回は、4文字目から怒涛の対句の塊が始まるということ、そして直前に返読文字の「不」があること…「不」は直前に必ず活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の未然形を要求します…を考慮すると、「~をもって〇〇」という、他の語と組み合わせた読み方となることが推測できます。よくあるのは「~をもってす」(サ変動詞との組み合わせ)ですが、ここは選択肢を見ましょうか。

すると、④以外は全て「~を以てならず」と読んでいます。正解は断定の助動詞「なり」との組み合わせでした。

これで、この文の読み方は

あに→怒涛の対句→~をもってならずや

となります。このように読めている選択肢は⑤だけです。おしまい。

今月も最後までお読みいただき、ありがとうございました。5月分のコラムはこれでおしまいです。

6月、また違うテーマでお会いしたいと思います。よろしければまたお読みくだされば幸いです。


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