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じっくり解説! 令和5年度共通テスト小説問1~3・・・大学受験生応援コラム11月

典型問題を解く、あるいは適切な要約づくり


’** 0 はじめに ***

当記事に目を留めていただき、ありがとうございます。大学入学共通テストの国語問題を題材に、受験対策に役立ててもらうために始めたブログです。毎回かなり長くなってしまうのですが、解ける方には「ウザい」くらいの解説を目指して書いています。

令和5年度共通テスト本試験の小説問題も、今回が最後となります。現時点で前半の設問を残していますので、今回はそれを一気に解答します。

残している設問は、心情そのものや言動及びその理由を問う、小説では典型的な設問です。これらはそのときの状況を押さえたうえで、問われている人物(今回はすべて、主人公の「私」)の情報を「出来事→認識→心情→言動」の順に整理します。本文に書かれていない場合は、書かれている情報から穴埋め問題の要領で推理し再現します。再現はごく常識的な範囲で行えれば十分です。「常識的だから省略されているのだ」とお考えください。

問題文は以下からダウンロードできます。赤本などがあればそれをご覧いただいても結構。では、今回も長文覚悟で参ります。

’** 1 問1 ***

「私」の行動の理由を問うています。情報整理しましょう。

状況=自分の理想を込め、飢えから解放された東京の町を表現した看板広告案を完成させた「私」は、これなら都民の共感を得られるだろうと晴れがましい気持ちで編集会議に臨んだ

出来事=会長に、「私」の案が「何のためになる」と問われた(「ために」とある以上、目的や意図を問われている)

認識=(本文に記述なし)

心情=「あわてて」(平静さを失う)

言動=傍線部Aの後、意図を説明する

欠けている「認識」を前後の情報から推測します。自信をもって作り上げた自分の案について、どうやら会長に意図を理解してもらえておらず、従って賛同も得られていないことに気付いた「私」は、予期せぬ反応だと認識している・・・これくらいでいいでしょう。

予想だにしない事態が起こったとき、人は戸惑います(これは心情)。それが「あわてて説明」するという私の行動に結びつくことになります。

以上のように整理した情報を、ご自身で文章化してみるのもいい練習になります。二次試験対策にいかがでしょう? 例えばこんな感じに。

自身の理想も込めて都民の共感を得られそうな広告案を会議で提出した「私」だったが、会長からその意図を問われたことで、理解も賛同も得られないという予想外の事態が起こっていることに気付いて戸惑い、平静さを失って自分の製作意図を理解してもらう行動に出た

この内容に合う選択肢は①しかありません。本設問は正答率も7割ほどだったようで、これ以上の説明は不要かもしれませんが、念のため他の選択肢も見ておきます。

②「成果を上げて認められよう」「名誉を回復」が、整理した情報に合いません
③「街頭展に出す」以降が整理した情報に合いません。この選択肢はむしろ、会長の説明を聞いている最中の「私」の反応でしょう。傍線部Aで問われていることではありません。
④全体的に誤りです。例えば冒頭「会議に臨席した人々」とありますが、今問題になっているのは会長の理解が得られていないことです。
⑤「テーマとの関連不足」が、整理した情報に合いません。

’** 2 問2 ***

「私」が覚えた怒りの理由を問うています。怒りは当然心情ですので、その心情を引き起こした「状況→出来事→認識」まで、情報を整理します。

状況=「私」は、飢えから解放された東京の町を表現し、都民の共感を得られるであろうと考えて看板広告案を作成したことを会長に説明した

出来事=会長の説明(要約すると「広告は企業から金をもらうために作るのだ」)

認識=本文にある情報としては、
・会長の説明にようやく納得した
・広告作成は儲け仕事である。戦前も戦後も同じこと
・少し考えれば分かること
・自分は間抜けだった

問1と同じように、これも文章化してみましょう。お付き合いいただける方は、ご自分で作成してから以下をお読みください。

こんな感じで・・・

都民の共感を得られると信じて提出した、自分にとって理想的な広告案に対し、広告とは企業から金をもらうために作るのであってこれでは儲けにならないと会長から指摘された「私」は、時代や状況が変わろうとも、仕事とは自分の夢のためではなくお金儲けのためにあるものだと今更ながらに気付かされ、自分を間抜けだと認識した

この内容に合う選択肢は⑤しかないでしょう。念のため、他の選択肢もチェックします。

①全体的に不適格です。例えば冒頭、会社が「理想を掲げた」とありますが、これは会社の方針であって理想ではないでしょう。後半も全く整理した情報に合いません。
②これまた全体的に不適格です。例えば、冒頭「慈善事業を行っていた」は本文内容に反します。
③またまた突っ込みどころ満載の選択肢です。例えば、冒頭「戦後に営利を追求するようになった」は整理した内容に合いません。
④後半部分、「自分の安直な姿勢に自嘲…」が整理した内容に合いません。

この設問は正答率が8割あったようです。そりゃあまあ、他の選択肢があまりにトンチンカンですものね。

’** 3 問3 ***

主人公の心の動きを問うている点で、小説の典型的な問題ではあります。しかし、傍線部Cに「至るまでの」とあるのが気になります。傍線部Cのときの心情が問われているわけではないようです。

どうにも問われ方が気になるので、選択肢を先に見ることにします。設問に何もひねりがなければ即座に情報整理にかかるところですが、変な聞き方をしているなと感じたら、少しでもスムーズに解くべくヒントを多く得たいところです。

何を見るかというと、選択肢のつくりです。今回はどの選択肢も同じ文構造をしています。

・・・「私」は、~~~が(②だけ「つつ」ですが、意味は同じ逆接です)、ーーーー。

傍線部Cの少し上に逆接の接続詞「しかし」があります。選択肢の「が」は、この「しかし」に対応していると考えられます

ということは、各選択肢の前半部分には、Cの前にある老人とのやり取り及びそのときの「私」の心情が書かれているということです。そこでまず、本文中の「私」と老人とのやり取りを分析します。

やり取りの中で気になるのは、「苦痛」「苦しめて呉れるな」という、心情表現でしょうか。そして老人の外見に関する各描写。「人間というより一枚の影」(何やら死を連想しないではありません)「手はぎょっとするほど細かった」、小刻みに震え、立っているにもやっとの状態。骨ばった指、ぎらぎらした眼・・・明らかに「私」よりも深刻な、瀕死の状態と表現しても差し支えないでしょう。

老人は瀕死の状態である。対して自分はまだそこまでには至っていない。だからといって、ここで老人に食を恵むとなると、今度は自分の生存自体が危うくなりかねないのです。だから老人の要望に応えることはできない。しかしそれは、目の前にいる瀕死の人を見捨てるに等しい行為であり、さすがに「私」も人として苦しんでいます。

・・・本文中の情報から、このときの状況を詳しく解説すればこんな感じになるでしょうか。この内容に合う選択肢は⑤しかありません。念のために、他の選択肢も確認します。これも主に前半を確認します。

①1~2行目にかけて、「せめて丁寧な態度で断りたいと思いはした」が、整理した内容に合いません。後半も本文内容に合いません。
②虚偽の記述はないと思いますが、老人が瀕死の状況であることが分かる記述も、「私」が苦痛を覚えているという記述もありません。後半ならば、自分にいら立っているというところで✕にすればいいでしょう。Cの部分は、「私」が老人と向き合う苦痛から逃れたがっていると読むべきところです。
③1行目「自分と重なる」で✕でいいでしょう。老人の状態は「私」よりシリアスです。後半で、老人が厚かましいとされているのもいかがなものでしょう。
④1行目の「同情」で✕でいいでしょう。理由は③と同じです。「私」と老人は同じ状態ではありません。同じでない以上同情は成り立ちません。仮に「同情」を許容するとしても、後半部分「老人のしつこさに嫌悪した」で✕とすればいいでしょう。理由は②と同じです。

’** 4 問3の外部評価 ***

今回は正答率6割ほどだった問3のみ、外部評価を見てみます。

◆ 高校の先生
「物乞いの『老爺』の切なる願いに対する『私』の心情を、傍線部以前の文脈から的確に読み取る力を問うている」

→確かにそれが主眼ですし、的確に読み取れば…ということは、的確に要約できれば…答えは出せます。これは主に選択肢前半の話ですが、それだけで自信を持って答えを一つに絞り込める受験生は思いの外少ないのではないかというのが私の実感です。選択肢②③④、特に②はウソを書いているわけではないので切りづらいように思えます。まあ、よくできた選択肢と言うべきでしょうか。

◆ 国語の専門家
「『心の動き』という問いに対応した答えになっていない。老人の心情を読み取らせる問題にするなど、『私の心情』以外の問いにするチャンスだったと思われる」

→心の動き、というと、主人公の両極に揺れ動く心情などを連想させる言葉ですが、確かにそうはなっていません。「私」の心情ばかりを問うことにも苦言を呈しておられるようです。

◆ 自己評価
「老爺が置かれた状況と『私』が置かれた状況をふまえながら、『老爺』の描写に対する『私』の思いや行動について捉えさせる問題である。正答率の成績分布として、最下位層が3割台半ばに対して最上位層が8割台前半と適切に分布しており、読解力の力量を測る適切な問題であった」

→私が最初にこの問題を解いたときに思ったのは、「ただの要約じゃん・・・」でした(前にも同じようなことを書いた記憶がありますが)。しかしこの得点分布の説明では、今の受験生の学力を測るには適切な問題だったと結論づけられています。ということは、教える側としてはこの手の問題で確実に正解できるように生徒をトレーニングしないといけないということであり、解く側としては小説であっても適切な要約をする練習を積まなくてはいけないということになるのでしょう。

令和5年度の小説問題解説は以上で終了します。今回のポイントとしては、「適切な要約をつくること」が挙げられます。本文冒頭にも書きましたように、物語の「状況設定」を踏まえたうえで、「出来事→認識→心情→言動」の順に情報を整理する。書かれていない内容は、書かれていることから常識的な範囲内で推理する。この情報整理術が、結局は適切な要約づくりにもつながると、私は考えています。

次回以降は、もう一題くらい小説を扱おうかと今考えています。よろしければ次回もお付き合いください。


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