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スネークオペレーター〜特別諜報捜査官〜#4

【前回までのあらすじ】
 
かつて極道だあったとき叔父貴分であった矢崎の運送会社に就職するために、大型・牽引免許を合宿免許で取得する。合宿先で上場企業従業員、今井ミミと知り合う。免許も取り、東京の会社の近く江東区豊洲のマンションに引っ越し、自家用車で旧車のサニートラックを後輩から譲ってもらい通勤に使っていよいよ仕事開始だ。


後輩に頼んでおいたサニトラも俺を待っていたかのように駐車場にオレンジ色を輝かせて鎮座していた。鍵はスペアキーを一本先に預かっていたので、その他の鍵はインロックして、ダッシュボードの中に入れてあるそうだ。スペアキーで運転席のドアを開けてみる。鍵の開け方や車内のレザーの匂い。早速座ってエンジンを掛けてみる。すんなりとストレートマフラーからエキゾーストノートが聞こえた。アクセルを踏んでみる。まだエンジンが温まってないのか、ゴホッと言いながらエンジンの回転音がする。チューニングカーはエンジンが温まらないとまともに動いてくれない。だから、チョークも付いている。チョークとは、昔の車にはほとんど付いていた。チョークでワイヤーを引いてキャブにガソリンを少し多めに吸入するために付いている。冬とかはチョークを引いてからアクセルを踏まずにエンジン掛けるのがセオリーだ。
しばらくアイドリングにしておいて、エンジンを温める。その間に車内を見回す。一応、助手席のダッシュボードの下に吊り下げ式のクーラーが付いていた。ミニトラックなんで2人乗り。クーラーなんか要らないと思っていたけど付いていた。トラックなんでリクライニングもできない。通勤用にしか使わないから、音と走りだけを楽しむつもりだ。エンジンが温まったのでアクセルを踏んでみる。エンジンの吹き上がりレスポンスも思ったより早い。2TGDOHC独特の素晴らしいエンジン音。ソレックスのキャブの吸気音の方が大きいので、吸気音とエンジンのハーモニーだ。申し分ない。しかし、良くこの小さいエンジンルームに2TGDOHC1750ccのエンジンを乗せたなぁとひとり言を言いながらボンネットを開けてみる。

おお!

赤くペイントしてあるDOHC独特のタペットカバーの横にソレックスのキャブが前から見たら左側、蛸足と呼ばれる排気をマフラーと繋ぐエキゾーストが右に。車体ギリギリに入っているエンジンルームを少々加工してあった。ボンネットを閉め再び運転席に戻ると、少しその辺を走ってみたくなったので、シートベルトを閉め、ギアを・・・。あっ、そりゃそうだよな・・・。後輩も言ってたわ、ここまで乗って来てもらった理由もこれにあったのだ。マニュアル車だ。今は大型牽引まで撮る前にAT車限定解除したが、譲ってもらった時は免許が無かった訳だった。でも、もう大型教習で散々マニュアルは乗った。いや、乗らされた。教官も上手くなったと言っていたので大丈夫だ。いざ、ギアをローに入れ、再度ブレーキを外しスタート。プスッ。クソッ。やっぱ一発じゃ無理か・・・。大きいというかうるさいエンジン音を高めにしてクラッチを繋ぐ。今度は急に飛び出るように走り出す。なんじゃこりゃー!慣れるまで時間かかりそうだ。
 
「ピッピッピッ・・ピピピ・・・。」

スマホのアラーム音で眼が覚める。そう、色んなことあって、今日まできた。また部屋片付いてないけど、湯沸かしポットをコンセントに差し湯をわかし、コーヒーカップにインスタントコーヒーの粉を入れてあるので、湯を注ぐ。スプーンでくるくるかき混ぜ、まだ開けてないダンボールの上へ置く。

今日は初出勤だ。黒のデカいトレーラーを運転できるのか不安だけど、他の従業員に笑われないように気合いを入れてやってやる!人よりも早く覚えて一人で乗れるようになってやる!と奮起した。片付けは仕事終わりに少しずつすることにして、サニトラのチョークを引いてエンジンを掛けて暖気アイドリングを始めた。

その間にスマホのチェックだ。ミミとは毎日ラインが続いているが合宿卒業してからはミミも仕事が忙しいのか1日1回程度だ。ミミからラインが来たのを返信することにしてこっちから発信することはない。今日は、まだラインが来ていない。さぁ、そろそろエンジンも温まったとこだろう。豊洲のマンションから中央区晴海にある晴海運送までは、車で15分かからないような近いところにある。

会社に借りてもらった豊洲のマンションは立地が凄く良くて近くにイオンモールはあるし、バスターミナルもある。車とバイクの部品専門店みたいなでかいオートバックスもある。高速入口も近いし、少し走れば人気のテーマパークやレインボースターランドなのか自転車で行っても遠くないところだ。現在は、朝5時前である。出勤は毎日5時くらいには会社に着くように言われた。行き先によってはもっと遅く行っても良い日もあるが、だいたい朝5時に会社に行けば、どの仕事でもこなせるらしい。多分今日は叔父貴、いや、社長とツーマン(2人乗り)になるので、それに合わせて仕事も組んであると思う。

そうしているうちに会社に着いた。通勤路、車2〜3台見たかなぁ〜と思うくらい道が空いていた。サニトラのエンジン音が気持ち良いほど心地よかった。車庫を見ると5台いると言っていた。ボルボのトレーラーヘッドが2台しか既にいなかった。空いているところにサニトラを停めて、降りてみると2台のボルボトレーラーヘッドは温気運転のため、アイドリング状態だった。人と話をするのがやっとくらい大きなエンジン音がしている。
喫煙室を開けて手招きを社長がしていた。軽く走って行き、

「おはようございます。おじ・・・いや、社長!今日からよろしくお願いします!」

とヤスが言うと

「おはよ!こっちこそよろしく頼むわ!あー、こいつが例の新人だ。春山、頼んだぞ。」

と晴海運送のボルボ3号者を担当している春山和樹35才。
晴海運送には創業時から居るので5年目になる。春山はインターネットに詳しくSNSマニアで社内では有名だ。特にYouTubeは好きでトレーラーのバック車庫入れの動画やトレーラー関係のYouTube動画や車関係の動画が好きらしい。

「あっ、春山です。よろしく!サニトラ、いい音してるよねー!A12のフルチューン?A12であんな音するんだ」

と春山が挨拶と車好きをアピってみせる。矢崎はそれを見て興味ありそうにニヤニヤ新柄見守る。

「内藤靖です。下の名前が靖なのでヤスって呼んでもらって構いません。内藤って呼ばれるのは好きじゃないんです。あっ、あと、俺もあのサニトラ、エンジンはA12で十分だと思ったんですが、後輩から譲ってもらったんですけど、2TGのフルチューン載ってるんですよ!」

と挨拶しながら車のプチ自慢で照れ笑いする。

「えー!!DOHC、2TGのフルチューンってことは1750ccか2000ccかだね。すげー!」

スマホの時計を見ながら

「わー、今日は時間ないから、今度エンジン見せてね。じゃー行くわ、よろしく!」

と春山は、3号車まさにナンバー・・・3番のボルボのヘッドに乗り込んで、まだ明るくなってない薄暗い晴海道路方向へ、ナイトパレードみたいにカスタムされた電飾でキラキラしながら去っていった。

「すごいっすね。春山さんの3号車めっちゃ渋いっていうか何て言うかラブホみたいっすね。」

とヤスが言うと、加熱式タバコを引き抜いて灰皿に入れながら

「たまにはラブホにもなるんだろ。内装も大型テレビやリクライニングのベットまである。」

と矢﨑が言うとヤスも加熱式タバコを吸い終わったところで

「俺が乗る1号車もそうっすか?」

と矢﨑が前もって言ってあった矢﨑がたまに乗ってると言う号車を見る。

「見て分かんねーか?どこがどう違うか?俺はもう年だから電飾は卒業したけど、外観にはこだわってるんだぜ。」

と自慢げな矢﨑。

「んー、なんか一台だけ違うなぁ〜?って思ったんだけど、特に並べて見たことないんで分かんないっすねー!」

加熱式タバコを2人とも仕舞いながら

「明るくなって来たから外側からヘッドの使い方や注意するのに多分2〜3時間かかると思産んで・・・。」

と矢﨑が言うと、

「えー、もう乗って出るのかって思ってた。」

「いやいや、1号車の説明もそうだけど、最近は陸運局もうるさくなって、事務所に入ったところから決まりがあるんだわ。」

と矢﨑が言うと、ヤスが

「そういえば、教習所でもそんなことサラッと言ってきましたね」

「そうだろう。大型バスやトラックの死亡事故が起こるたびに予告無しに監査が来たりする。一番厳しいのは運行管理だ。まず朝会社に来たら点呼をやる。こっちこい。」

と矢﨑は、事務所の方に歩き始めた。

「この前、来たときいた希江ちゃんも運行管理者の免許を持っているけど、希江ちゃんは午前9時半出勤なので朝の点呼は俺がやるんだ。」

と言いながら、ガラガラーっと入口から入るとカウンターがあって、そこに点呼薄があるんだけど、一人づつ〝点呼お願いします〟と言って、カウンター越しに俺の前に立って、これをやるんだ。」

と矢﨑は言って、アルコールチェッカーを渡す。手のひらサイズの四角い物で加熱式タバコみたいに吸わずに吹く。肺の息を出してアルコールが含有しないか検査するものだ。ヤスは受け取り吹いてみた。ピピッと音がして、0.00mgとデジタル表示されている。それを見て矢﨑が

「合格!」

と言う。

「これが0.01mgでも出たら、その日は運行しちゃいけない。0.00mg出ないと運行させないようになっているだ。ちなみに帰ってきてからもやる。帰って来たら、あの厳しい希江管理者が待ってるから、色々規則は、おいおい教えるからな。」

と矢﨑が言う。

「この前、お茶持ってきた時は、すげぇ綺麗なお姉さんが事務員にいるなぁ〜、しかも、足が綺麗だし、スカートも短かったんで、ついニヤけたんですけど、タクシーで見送ってもらう時の顔は一緒の人なんだけど、般若に見えました。」

「そ、そうだろう。もうそろそろ、この前の銀座に行ったの嫁さんにバレるの時間の問題なんだよ。曲がったことが嫌いと言うか、何と言うか・・・。俺だけにイジワルしているような感じなんだよ。運転手にも注意は良くするけど、優しく言うか柔らかいんだけど・・・。」

矢﨑がヤスの話に答える。とにかく怖いらしい・・・(笑)
それを聞いて矢﨑が奥さんに良く嘘を言って浮気をしているのを知っているとか、そんな事だと思う。好意があると言うか、憎めないと言うか・・・。そんな感じなんだろう。
点呼のこととか、会社の原則とか、出発前の事務所でやることを教えてもらい、次は車(1号車)の始業点検だそうだ。新入社員用のマニュアルを希江さんが作成してあるらしく、3ヶ月続かない運転手がこれまで3〜4人居たみたいで、5号車を新入番号としていたが、今は5号車、もうすぐ1年と言う30才の杉山清孝がそのマニュアルでだいぶ助かったそうだ。そのマニュアルを見ながら、始業点検をして、いよいよ出発となった。すでにその頃は希江さんは出社していて、始業点検をしている時に、わざわざ、1号車まで来て

「おはようございます社長!あと、内藤さんも本日からよろしくお願いします!」

と、両手をへそのあたりに合わせ、この前見た40度くらいの角度で挨拶された。なんか、カッコいい!顔を赤らめながら、

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

と深々と90度近く頭を下げる。希江さんも満面の笑みで

「そんなに頭下げなくても!交通安全、事故には気をつけてください!では、いってらっしゃいませ。失礼します!」

と踵を返して事務所に帰って行った。矢﨑と顔を見合わせて、少し笑った。

「じゃー、今日は、助手席に乗れ。大きさだったり、乗り心地、テレビカメラのモニターが色々あるから、台車の動きとかイメージトレーニングするんだ。」

と言われ、助手席に回り込んで乗る。乗るのにも一苦労だ。ハシゴを登るように助手席に乗り込むとシートベルトをする。

「まずは、有明にシャーシ取りに行く。」

出発して有明に向かうと、あれ?矢﨑の左足が動いてないのに気づいた。

「あれ?叔父貴、、いや社長、もしやこの車オートマですか?」

とヤスは何回も叔父貴と間違えながら聞く。

「もうそろそろ社長でも矢﨑さんでも何でもいいんで、叔父貴は辞めろよ。あっ、そうだそうだ!オートマオートマ。今どきはマニュアルがオプションで、オートマが標準装備なんだ。」

何だよーって思いながら、スマホで大型、牽引のオートマ限定が無いか調べてみた。なかったのでマニュアルはやっぱ解除試験受けなきゃいけなかった。ただバイクだけは大型までAT限定があった。

「へぇ〜そうなんだ。」

って顔をしてたら、矢﨑が

「バイクだろ。大型のAT限定があるんだよ。四輪には大型からAT限定が無いのに、大型トラックから大型バス、大きくなるにつれてオートマチック車しかない。マニュアル事故が多いらしいよ。」

勉強になることが沢山ある。車内のモニターの説明、装置の説明を全部し終わらないうちに有明に着いた。海上コンテナと言うコンテナが載ってるシャーシ(台車)や、載ってないシャーシが10本以上並んでいるところへ来た。初めて見る光景でめちゃくちゃ広いところに白線が引かれていて、それに沿って整然と並んでいた。良く見ると前足を出して座っているように見える。矢﨑は、無言でその中のコンテナの載っていないシャーシに向かってバックミラーを見ながら後退していく。

ガチャーーン!!

とトレーラーヘッドの後部にあるカップラーという受け皿にシャーシの前方にあるキングピンが刺さる構造になっていて、テレビカメラで見ながらカップラーの高さをキングピンに合わせて操作して連結する。すると、一瞬、前進をした。カップラーがちゃんとシャーシを連結したが、確認だそうだ。すると、マキシブレーキ(全輪ロックブレーキ)を掛けて、

「よし、降りてこい。」

と言って、2人とも後部に行った。矢﨑は一応一通り話しながら、エアーホースを2本電気のコンセントをし、シャーシの前足みたいに出ていた一部を手が汚れるので革手袋をしながら足巻きというらしいが、クルクル回していくと前足が引っ込んでいく。終わると矢﨑とシャーシを一周回って歩いて全部のシャーシのタイヤ、三軸と言うシャーシだったので、12本のタイヤが付いていた全部パンクしていないか確認して回った。コンテナが載ってないので小さく見えるが、コンテナ載ったら、かなり大きいと思う。それでも1周するのに50歩くらいは歩いた。

「さぁ、コンテナ取りに行くか!」

2人とも車に乗り込んで出発。

「えっ、全然、運転の仕方が違う!」

とヤスはすぐ気づく。そう、10m以上がシャーシを連結したのでシャーシを見て大回りしながら内輪差を考え走る。

「そうなんだよ。後ろのシャーシの12本タイヤ、三軸だから片方6本ずつ、3軸ってことは外から見ると3本が並んでて2本ずつ3軸になっている。分かるかなぁ〜?右に曲がる時も左に曲がる時も、3軸なら真ん中のタイヤが通過するよう考えながら、運転するんだ。こればかりは勘が頼りで乗ってどのくらい大回りして、後ろのタイヤはどこを通るか体で覚えるしかないんだよ。」

と矢﨑は言うが、あんま意味が分からないが、確かに大回りしないと後ろのシャーシが綺麗に動かないのは、助手席でモニターやバックミラーを見れば良く分かる。生まれて初めてびびった。教習所の教習用トレーラーは四トン車みたいに小さく、シャーシも短かった。ヤスは、余裕だろ思っていた。しかし、今見ている光景は俺には無理だよ・・・と思い出していた。

「今日は、仕事で納めるコンテナじゃなく、明日積み込みをするコンテナをコンテナヤードに取りに行って、コンテナに積んだ状態で、前進、後退、車庫入れをやってみよう。」

・・・どこをどう走ったか分からないが、あれよあれよと見ているうちに40フィート(f)約12mと言われる(1フィートが30.48cm)コンテナがシャーシに載り、ボルボのヘッドと一体化して見える。

「ってか、めちゃくちゃでかいじゃないですか。」

と言うと、

「大きさは大きいけど、空コン(空コンテナ)なんで、軽いんよ。」

って、そんな問題じゃなく、こんな大きなの無理だよー・・・。矢﨑は、40fのコンテナを連結させたボルボトレーラーヘッドを軽々と運転しながら、加熱式タバコを吸い

「すぐに慣れるよ。うちの運転手全員、合宿免許から新入組だけど、ボルボだから、載りやすいし、大きければ大きいほど、運転って簡単になっていくんだよ。難しいのは最初だけ。コツと勘を掴めば楽勝だよ。」

確かにそれは聞いたことある。ハワイ便のボーイング社の航空機なんか、離陸と着陸さえミスしなきゃ、あとは寝てても飛んでいるらしいが、それとは別だろ。そんなような例えを聞いたことはある。いつの間にか、さっきのシャーシを繋いだところまでコンテナを積んで帰ってきた。

「それじゃーなヤス。このコンテナをさっきんとこ戻して見るから良く見とけよ!」

って言いながら、バックが始まった。えっ、何だこりゃ、ハンドル動かしてないのに後ろのコンテナだけが曲がって行く。一時するとハンドルをくるくると逆に回し始め、また戻してくるくる回す。動きが訳わからん。と思っているうちに

「こんな感じで。」

と矢﨑は、マキシブレーキを掛けて

「よし、交代!前進から車庫を一周回ってこの位置に入れてみろ。教習所で教えてもらった通りにやりゃあ、大丈夫だよ!」

ガチャと運転席を降りる。ヤスも同時に助手席から運転席へと。心臓がバクバクしている。
ハシゴみたいに運転席に生まれて初めて乗る。な、何だこれ!本当に飛行機のコックピットじゃねーか。

「じゃー、行こうか。まずフットブレーキを踏みながらマキシブレーキを解除。で、シフトをドライブに。」

矢﨑が言ったようにシフトまで終わった。

「それでフットブレーキを話すと少しずつ前へ動く。最初はアクセルを踏まないで、ハンドルで右に出るから右のバックミラーを見ながら出てみろ。」

言われた通りに動いていったので、そろそろハンドルを右に回そうとすると、

「バカー!まだだ!」

とドヤされ、動きを止めていると、

「今だ、回転ぐらいハンドル回してみろ!」

言われた通りやってみる。だいぶ前に出てからヘッドだけ曲がった感じだ。

「ヤス、この位置で止めてマキシブレーキ掛けて降りて見てみろ。」

降りて見てみると、なんとコンテナとヘッドが直角近く曲がっている。
ヘッドは、右を向きシャーシは少し右に折れているが、後ろのタイヤは隣のコンテナが載っていたシャーシギリギリに寄っている。

「海コンは(海上コンテナの略)、頭で運転する。前に行く時は、台車を引くって言う考え方、後退する時は台車を押すって言う考え方を持ってもらえばいい。」

と矢﨑は言いながら、いつの間にか両手ぐらいの大きさの海コンプラモデルを持っている。

「右に行く時はこうだ。左に行く時はこう、バックはこう。これやるからイメージしながらやってみろ。俺がストップ!言ったらブレーキを踏めよ。早めに言うからな。」

と矢﨑は助手席へ踵を返す。ヤスも運転席に再び乗り込むと。

「じゃー、続きいってみよう。」

と言うと同時に、ブレーキペダルを踏み、マキシブレーキを解除した。
厳しいトレーラーのバックの練習を一通りしたが、俺にできるのか?と不安になる。何回も何回もバックしてむ、二、三時間鍛えられた。

「もういいや、朝になっちゃうから。」

シャーシの足を出して、切り離しを教えてもらい、ボルボのトレーラーヘッドになったので、今度は俺が運転して事務所に帰った。1号車の駐車位置に車庫入れをしていると、矢﨑が先に降りて事務所で待っとくからと言って、加熱式タバコを吸いに喫煙所へ向かった。

「うわー、悔しいな。こんなに難しいとは。」

と心の中で思いながら、荷物をまとめてボルボヘッドのリモコンキーでドアロックをする。
ヘトヘトになりながら喫煙所に行くと、朝会った春山と50才くらいのおじさんみたいな人もいた。

「おー、来た来た!沖さんこいつがヤスだ。ヤス!沖さんだ。沖田孝一さん、元自衛官で沖さんも創業から居る。沖さんは2号車。何でもわかんない事あったら無線もあるし、沖さんに相談しろ。うちの会社の年長さんだ。」

と矢﨑が言うと、

「ほほう。噂の若頭ですね。ヤードのやんちゃ者たちがもう噂してたぜ。沖田です。何とでも呼んでください。50才だけど、腕っぷしはまだまだイケると自分でも思ってるんだよ。自衛隊いたんで、武器だとかミリタリー事には詳しいから、何でも聞いてくれれば、役に立つことあれば、とにかくあいつ(ボルボトレーラーヘッドを差して)を自由に扱えるようになれば楽な仕事だよ。よろしく。」

と沖田は、少し立てたような何というか元ヤクザだから上からは言わない感じで挨拶をしてきた。

「ヤードで噂って、何すか?まだ、運転するのに精一杯で。迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いします。ヤスって呼んでください。」

とヤスが言うと、

「この業界、港湾関係には気の荒いのが昔から居るから、ヤスさんもそのうち、分かるよー。俺はチャカ持ってるって噂があるらしく、誰ももの言ってくる奴が居ねーけど。」

と笑う。良くみると、会社の制服のブルゾンの下は迷彩のカーゴズボンだった。胸板が厚いのが分かる。

「本当に持ってそうですね。色々教えてください。」

と再度頭を下げる。加熱式のタバコを吸い終わったると矢﨑が、

「おい、2人とも点呼行かなきゃ。あっ、全員居るんでちょっと皆んなで顔合わせしよう!」

と、慌てて矢﨑は事務所に飛び込んで行った。沖田と2人で歩いて事務所に向かう。

「ヤスさん、希江ちゃん会った?」

と沖田。様子を見るように

「はい、既に2回ほど」

「あんな美人で頭が良くて、気が利いて気が強くて、ボルボにもしばらく乗ってたんだぜ。」

えっ、まじか、乗れるのかと思いながら、

「凄いっすよね。誰がくっついても尻に引かれますよね。」

と笑って見せた。

「新入教育も希江ちゃんやるし、そういえば、明日から多分事務所で座学もあると思うよ。」

そういえば、教習所でも言ってたわ。座学が何個かあるとか、運転経歴書取らないといけないとか、色々言ってたなぁ。事務所の扉を開けると、皆んな拍手をして迎えてくれた。点呼場って広いんで全員が並んでも十分すき間がある程だ。自分と沖田さん点呼済ませて、早速矢﨑が

「希江ちゃん、頼むよ。」

え、と思ったら、希江ちゃんは淡々とこんなのはいつも希江ちゃんなのだろう・・・。

「皆さん、今日から就業していただきます内藤さんです。社長が乗っておられた1号車に乗車することになりました。新人さんですので、しばらくは〝三協〟の乙仲でやっていただきます。よろしくお願いいたします。」

と紹介され、皆んなから拍手が来た。三協かぁ〜って言う人もいた。乙仲って何だろうと思いながら、とりあえず皆様に挨拶した。この挨拶会で話に出て来て会ってなかった人がいる。その人は、就業して1年経っていない杉山清孝(30)と竹田洋一(35)を紹介してもらった。今日初めて会った人2人はどっちもオタクっぽい。トレーラーの運転手なの?って感じの人だった。

竹田は創業から居るらしい。分かりやすい紹介と〝安全運転〟の連呼で仕事モードだった希江ちゃん。本当の素顔ってどんな人なんだろうと思った。あと、乙仲って何だろう。あとで聞いてみようと思った。しかし、まだ一人立ちしてからって言っていたので、沖田さんに

「一人立ちって何時頃からなんですか?あと乙仲って?」

不安な気持ちで聞くと、笑いながら、

「一人立ちって、読んで時のごとしだよ。一人で何でも全部できて、今日の仕事はこれですって指示されたら、その通りやるのが一人立ちだよ。あと、乙仲って気にしなくてもいいよ。荷主のことだから、そのうちに分かるんで、今は詳しく言っても分からないと思うから・・・。」

ぽんぽんと肩を叩きながら言った。
その後、皆んなに一人づつ軽く挨拶してサニトラに向かった。運転席のドアを開け、チョークを引いてエンジンをアイドリングにする。その間、スマホのチェックをすると、ミミちゃんからライン入っていた。しかも3回ほど、

「こんにちは。あっ、仕事中かー!仕事終わったらラインしてね。」

だった。今日の疲れがいっぺんに飛んでいくほどの嬉しさだった。あの日を思い出しぼーっとしていると、

「これが・・・、うわっ、本当2TGが載ってる・・・、凄い!」

と春山が前のラジエターから見て分かるらしく、ボンネットを開けてってジェスチャーでする。
ボンネットロックのワイヤーを引く。ボンネットを勝手に開けられ、運転席が暗くなる。スマホをポッケに入れフロントにまわる。春山がキャブレターのスロットルアームを押して吹かす。
チョークは既に元に戻してある。軽快なエンジンの吹き上がりにびっくりしてたのと、ミッションの回りや、ストラット部分を切り出して2TGが載るように工夫してあるところを見る。エンジンマウントの位置にも興味あるようだ。

「昨日、内藤さんのサニトラに2TGが載ってるって聞いて、ネットで調べたら、やっぱ居たよ。割と簡単に載るみたいだけど、壊れたら部屋に苦労するらしい。あと、ロータリーとか載せてるやつ居たけど・・・。」

春山さんやっぱYouTube好きらしく何でも調べるらしい。

「でも、パワーがあってもサニトラじゃうしろが軽いから勿体無い。」

と春山も言う。

「自分も乗っててそう思います。ギャンギャンする度に後輪が空回りしますから・・・。」

笑いながら、

「そうだろうねー、でも音がかっこいいから魅力だよ。色もこの色好きだなー。エルメスオレンジって言うか、そんな色・・・。」

自分も笑いながら、

「そういえば、エルメスのオレンジに似てますよねー。」

春山が、

「じゃあ、またゆっくりと・・・とヘルメットを持って、ビッグスクーターの方へ向かって行った。」

そういえば、車で来てる人って俺以外には、沖田さんのランクルだけだったような。東京って車無くても生活できるし、晴海運送は、目の前がバス停、少し歩けば大江戸線の勝どき駅もある。俺も考えてみればマンションの隣バスセンターで、会社の前まで一本で行けるバスも出てる。でも、朝5時なので車なのだ。それはそうと明日から、車庫入れや台車の切り離しの練習、真っ直ぐバックの練習して、1日でも早く一人立ちしなきゃ。

(つづく)

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