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50代になった。無職になった。

派遣社員として勤めていた会社を辞めてからあっという間に半年が経った。
そしてその間にひっそりと50代を迎えた。

辞めるまでの間、経営者からほぼ毎日罵倒され、机を蹴られたりバインダーで顔を小突かれたり、バッグでお尻を殴られたりしたこともあった。
過度の緊張とストレスから手が震えたりめまいがするようになり、何か指示をされても頭がフリーズしてミスを連発し、さらに恫喝されるという絶望的な悪循環に陥っていた。

もともと私は仕事ができるタイプではない。
要領が悪く、細かいことまで確認しないと先へ進めないので何かと時間がかかる。
一度に複数の用事をこなすことも苦手で、次から次へと話しかけられるような状況ではパニックになってしまう。
真面目さだけが取り柄のような私は人間関係に恵まれた職場では何とかやってこられたが、ここでは完全に自信を失い、HSPと発達障害の可能性を疑って心療内科にも行ってみたりした(後者に関してはシロだった)。

判定がどうであれ、一般事務のようなマルチタスクが苦手なことに変わりはない。
やっとの思いで会社を辞めた後、そんな自分にできることを改めて考え直さなければならなかった。
自分が得意なことでお金になりそうなこと、それは「整理収納」だった。
これまで経験してきたいくつかの職場で書類や備品の整理をして喜ばれたことがあり、自分でも楽しくやりがいを感じられる大切な経験だった。
でもそれで生活していけるかどうか、やってみなければ分からない。
派遣社員としての就活もしつつ、副業として本業より先に軌道に乗せることを目標にしよう。そう思い、家事代行会社に登録して細々と仕事を始めた。

「整理収納」を仕事にするなら資格も取った方がいいと思い、「整理収納アドバイザー」になるための勉強も始めた。
それまでなんとなくの感覚でやっていた整理収納にも体系的な理論があるのだと感心しながら、「なんとなくの感覚」の裏付けや確認をして知識を身につけていった。
それまでほとんど観たことがなかったYouTubeでプロのアドバイザーさんの動画をいくつも観て参考にしたりもした。家事代行の依頼を受けながら自宅や実家で「練習」をしたり、100円ショップやインテリアのお店、ホームセンターなどに行って収納グッズをリサーチして自分で使ってみたりと、しばらくは夢中になって研究していた。
「楽しい」と感じている、はずだった。

私が請け負っている家事代行の仕事のほとんどは、じつは「掃除」である。
掃除も嫌いではなく、どちらかと言えば得意だし、キレイにすることにやりがいを感じられると言ってもいい。
でも。
家事代行でお客様宅を訪問するたびに浮かんでくる二文字が気力を奪う。

”不毛”

くしゃくしゃのレシートやメモ、子供の破れた折り紙、壊れているように見える何かの部品などゴミ「のように見える」ものであっても、勝手に捨てることは絶対に出来ない。
要不要をひとつひとつお客様に確認していく時間はないので、「おそらくゴミ」だと思うモノだけ聞いてみて、あとは見た目を整えるのみでまた元の場所に戻すことになる。
「整理収納」の目線で行くと、また散らかることが目に見えていながら見た目だけを整えるという作業があまりにも「不毛」だと感じてしまうのだ。
そのことが、とても辛かった。
でも、そもそもお客様のための作業なので、お客様が満足しているのであれば、私の感じることはどうでもいいのである。
そうやって、自分を納得させていた。

家事代行を始めて4か月が経とうとする頃、心が折れる出来事があった。
外国籍の方の依頼で訪問した新しいマンションの一室は悲惨な状態だった。
土だらけの室内は土足で生活していたことがうかがえた。
トイレは流さないまま、浴槽は排水溝が詰まって濁った水が溜まっていた。
しかも、事前に確認したにも関わらず掃除用具がなかったのである。
かろうじて出てきたのはほうきとちりとりのみで、洗剤があるかと尋ねると指で示されたのはハンドソープだった。
たどたどしい日本語を話す家主の代わりに買い物に行き、開始が遅れた分を取り戻そうと必死に動いたが、想定外の惨状に対して時間があまりにも短すぎた。
依頼されていた作業が全て終わらないことを告げると、家主は明らかに不満の表情を浮かべた。
それを見たとき、なぜか「使い捨て」という言葉が浮かんできた。

私、今どこにいるんだっけ?
どこへ行こうとしていたんだっけ?

自分が得意なこと、好きなことを仕事にしてみよう、そう思って始めてみた。
「楽しい」ばかりじゃない、「やりがい」ばかりじゃない、そんなことは分かっていたつもりだった。
分かっていた、はずだった。

前向きに楽しく進んできたはずの、明るかったはずの気持ちが重く沈んでいるのを認めることが辛かった。
そんな中、ある人との出会いがあった。
続く。




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