私が社会で生きてこられた理由、「通訳力」をシェアしてみる。


いつもふわふわした内容をつらつらと書いていますが、今日は違うスイッチをオンにして、読んでくれた方にとって有益な情報になることを目指して書いてみます。


誰しも得意不得意はあるものですが、私は本当にできることとできないことの差が激しいです。
できないことは山ほどあって、まず車の運転ができません。
教習所に通いましたが、運転があまりにも下手すぎて、教官に怒られるのが怖いし、怒らない教官が懇切丁寧に教えてくれても全く上達しない自分が情けないし、辛抱強く教えても下手くそな私を担当する教官が不憫になるし、最終的に行かなくなりました。中退です。
興味がないことは全く頭に入らなくて、何度説明されても、自転車のギアを変えるというのがどういうことなのか理解できないし、家で使っている洗剤の種類を覚えられず何度も買い間違えています。
プライベートを知る人から「本当に働けてるの?」と心配されるのですが、何とか働けてきたし、自分で言うことではありませんが比較的「デキる人」扱いされてきました。
私の恥を晒しても自慢をしても仕方ないので、本題を進めると、こんな私でも社会で何とかやってこられた理由が「通訳力」があったからだと思うのです。

「通訳力」とは

ここで言う「通訳」は、例えば英語を日本語に訳すといったものではなく、「誰かの発言を他の人にわかりやすく伝えること」です。
例えば、上司の指示を後輩に伝える場面で通訳力が必要になります。
もちろん、上司から「この資料を30部コピーするようAさんに伝えて」と指示され、そのままAさんに伝えるときには、通訳は不要です。
ですが、上司から「Aさんのプレゼン資料、先方のニーズに合わないから修正させて」と指示されたときには、そのまま伝えても上司の期待する結果が得られないかもしれません。
「先方のニーズに合わない」というのが意味するところを噛み砕き、Aさんが理解できるように、そしてAさんが「先方のニーズに合う」資料を作成できるように、わかりやすく伝えることが求められます。
これらの作業を的確に行うために必要なのが「通訳力」です。

職場で誰かが話しているのを聞いて「その言い方じゃ伝わらないよ……」と思ったり、言われていることと噛み合わないピントのずれた受け答えをする人を見て「物分かりが悪いな……」と思ったりすることはありませんか?
正直、私はよくあります。
振り返ると学生時代にも、ゼミの同期から「何でさっきの教授の説明で理解できたの?」と聞かれることや、後輩に「教授が言ってた◯◯は、〜〜〜〜ってことだと思うよ」と伝えて「そういう意味だったんですか!」と驚かれることがありました。
特別知識が多かった訳ではなく、教授の意図しているところを掴んだり、後輩が理解できていないポイントを押さえて説明したりするのが得意で、自分としては「何となく普通にできる」という感覚でした。
その後、社会人になってからも、何となく上司の言わんとしているところを理解できることが多く、周りからは要領良く働いているように見えるのだと知り、「もしかして、これが私の優れているところなのかも…」と、自分の「通訳力」に気付きました。
自分としては何気なくやっていることばかりですが、きちんと分析して言語化することで、「上司や先輩の言いたいことがよくわからない。指示どおりにやっても、なぜか違うと言われる。」「丁寧に説明しても、なかなか理解してもらえない。」といった職場におけるコミュニケーションの悩みを持つ方の役に立てるかもしれない、と思い、この記事を書くことにしました。
大前提として、コミュニケーションは双方向のものなので、うまくいかない原因がすべて一方にあるとは思いません。
ただ、双方向だからこそ、一方が変わることによって良循環へとシフトしていく可能性も十分にあると思います。
それでは、主に職場における「通訳力」を身につける方法を私なりに紹介していきたいと思います。

通訳力は、汲み取る力と伝える力の掛け合わせ

通訳力とは「誰かの発言を他の人にわかりやすく伝えること」と書きましたが、分解すると、インプットにおける「汲み取る力」とアウトプットにおける「伝える力」の2つになります。
この2つには共通する部分が多くありますが(例えば、「双方向」や「想像力」がキーポイントです。)、まずは「汲み取る力」から説明していきます。

「汲み取る力」とは

通訳のインプットで必要なのは、「理解力」ではなく、「汲み取る力」です。
「汲み取る」は、相手の言葉を理解するだけではなく、相手が言っていることの背景にある考えを掴むことや、言っていないことから相手の考えを読み取ることも含み、より深いレベルで相手をわかることを指します。
また、私は「相手の考えをわかっていると、相手にわかってもらう」までが「汲み取る」だと思ってコミュニケーションを取っていました。
「この人は自分の考えをよくわかってくれている」と思われることで、細かな確認や不要な説明から逃れられたり、自分の裁量でできる範囲が広がったりするので、働く上での自分にとってのストレスを減らすことにつながっていたと思います。

汲み取るためのコツ「相手の発言の変数を見極める」

よく耳にする「上司の言うことが気分次第でコロコロ変わる」って、間違ってはいないのでしょうが、それだけでは不十分だと思います。
たしかに機嫌が良いときと悪いときで言うことが変わる人はいますが、気分という変数だけでは説明がつかない部分があるし、対応も難しいです。
私はざっくり言うと、①気分や好き嫌いのような個人的な状況要因、②業務内容のようなオフィシャルな状況要因、③個人の方針・信念・価値観のような長期間持続する要因、といった変数を押さえていて、各変数の影響がどんな言動として現れるか、どの変数の影響が強く出やすい人なのか、を見極めてきたのだと思います。
①は、例えば「イライラしているとき、指示が大雑把になりやすい」といったものです。
②は、例えば「締切に余裕があるときは育成のために後輩の意見を取り入れようとするが、締切間際でスピードを優先すると、後輩がそれまで取り組んできたことを無視してゼロからやり慣れている方法で組み立てがち」みたいなイメージです。
③が一番掴むのが大変ですが、掴めてくればその人の考えを汲み取るのが格段に楽になると思います。
当たり前のことですが、普段の会話でその人が発言することは、その人の考えの一部に過ぎず、その人の中には言葉になっていない考えがたくさんあります。
そして、職場で言葉になるのは大抵目の前の業務に関する具体的な内容で、その背景には必ずその人の価値観や信念があるにも関わらず、それらが直接言語化されることはなかなかありません。
直接的に言語化されることは少ないけれど、日々の発言に必ず影響を与えているので、そこを掴めると日々の発言の理解に非常に役立つ、ということです。
③を掴むコツとして、「その人が許せないことは何か」という視点を持っておくと、その人の信念・価値観が表出した場面でキャッチしやすくなります。
信念・価値観って、案外ネガティブ感情とセットで表出されることが多いのです。
具体的には、「昔、〜〜〜〜〜っていうあり得ないことがあってね…」のような、これまでのキャリアにおける愚痴という形で表出することが結構あるように感じます。
「あり得ない」という強い拒否的な反応を示すのは、そこにその人が蔑ろにされたくない大事なものが隠れているからです。

汲み取るためのコツ「相手が言わないことの中から、言わないようにしていることを探る」

相手の考えを理解するためには、言葉にしていることを理解しようとするのは当たり前ですが、言葉にしていないことにも注意を向ける必要があります。
言葉にしていないからと言って、考えていない、気にしていない、無関心である、とは言えません。
言わないことの中には、その人が意識的に言わないようにしていることが含まれる可能性があります。
コンプラ意識から言わないようにしていることを多く抱えている人もいるでしょうし、「担当の仕事は自分ひとりで片付けなければいけない」という思いから弱音を言わないようにしている人もいるでしょう。
言わないようにするというのは、相当エネルギーを使います。
ブレーキを掛けられるよう、そのことに結構な意識を向けてエネルギーを使っているのに、言語として表出されないため周りからは気づかれにくいです。
つまり、そこを掴めれば、周りより深くその人を理解できていることになりますし、「それを言わないようにしていることを、私は知っていますよ」というのが相手に伝われば、相手から「自分の考えをわかっている人」と思われる可能性が高くなります。

「伝える力」とは

続いて、通訳のアウトプットの部分に進んでいきましょう。
必要となるのは「伝える力」です。「説明する力」ではありません。
アウトプットで重視すべきは、何を説明するかというコンテンツではなく、誰に伝えるかというターゲットだと考えます。
「こちらが伝えたいことは何か」から考え始めると、相手に届く形にならないリスクがあると思います。
伝えるとき最初に持つべき問いは「相手にどうなってほしいか」であり、目指す状態と現在の状態を埋める作業が「伝える」です。
自分が他人から説明を受ける側のとき、既に知っていることを長々と話されると、内心うんざりしますよね。
これは、現状をきちんと見極められていないせいで起きることです。
「説明不足より丁寧で良いじゃないか」と考える方もいるかもしれませんが、私は「知ってることをいちいち言ってくる人」の話をしっかり聞こうとは思えない人間なので、リスクがあると考えてしまいます。
逆に言えば、相手の現状をきちんと見極めて説明を始めることで、「この人の言うことは聞く意味がある」と認識され、日頃から伝わりやすい準備状態を整えることにつながります。

伝えるためのコツ「相手が持っている知識を活用する」

では具体的に、どうやって現在の状態と目指す状態を埋めていくのかですが、私は相手が既に持っているものを材料にするようにしています。
例えば、その人の専門分野や趣味をテーマに具体例を提示して、イメージしやすいところから説明を進める、というのはわかりやすい方法かと思います。
他にも、相手のこれまでの経験をもとに一般化させるとか、相手が知っているルールやセオリーをその状況に当てはめて考えられるように促す、といった、帰納的、演繹的なアプローチも使いやすいです。
相手が既に持っているものを材料にすれば、こちらが一から説明する手間を省けて楽です。
相手にとっても、未知のものを新規に取り入れるより、知っている世界に新たなものが付け加えられる方が受け入れやすく、定着もしやすくなるのではないかと思います。


自分で想像していた以上のボリュームになってしまいました。
私の経験に基づく超個人的な考えですが、お役に立てる内容があれば嬉しいです。

また何か思いついたら続編を書くかもしれません。

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