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灼熱のグランドキャニオン横断トレラン(チャレンジャーへの5つのアドヴァイス

世界中のトレイルランナーのバケットリスト(生きている間に必ず成し遂げたいこと)と言われるグランドキャニオン横断ラン。Rim to Rim(またはR2R) と呼ばれる直線距離で約16km、実走距離で約34kmの南北リムを結ぶ、世界に比類の無い絶景ルート。南からのルートでは距離にして11km、標高差1500mの急勾配を一気に駆け下りコロラド川に到着。川を渡った後は、1800mの上りを23km程度かけて、途中にある滝や渓流、太古の地層を楽しみながらノースリムを目指す。

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Day 1 (6月6日)
早朝にロサンゼルスを発ち、車で約8時間かけてグランドキャニオンのサウスリムへ午後に到着。ビジターセンターで翌日の天気、トレイルのコンディションなどの情報収集後、幾つかのビューポイントから世界遺産の眺望を堪能。その後、妻と子供たちがメキシコ帰省中のため連れてきた、愛犬のゴールデンレトリーバーのブラウニーを公園内のケンネルに預ける。夕刻、園内にあるマスウィックロッジにチェックイン。ロッジに隣接するレストランで夕食後、翌日に備えて早めに就寝。

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(愛犬のブラウニーもグランドキャニオンは何度か来ている)

Day 2
マスウィックロッジから徒歩で数分の距離にある バックカントリー・インフォーメーション・センターを4:30AMに発つサウスカイバブ・トレイル(South Kaibab Trailhead)行き始発シャトルに乗るため午前3:30に起床。(車はロッジの駐車場あるいはバックカントリー・インフォーメーションセンター前に駐車可)チェックアウトを済ませ、バス停に向かう。

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(日の出前のサウスカイバブ・トレイルヘッドにて)

始発シャトルは定刻に出発。軽装のトレイルランナーと思われる乗客一名と、ハイカー数名が同乗。15分程でサウスカイバブ・トレイルヘッド着。ヘッドランプを装着し、未だ薄暗く肌寒い5時前にスタート。

Rim to Rim to Rim (R2R2R)と呼ばれる、一日でグランドキャニオン往復を試みると思われる軽装のトレイルランナーは、既に数百メートル前を軽快に走り降りていた。 ヘッドランプの明かりを頼りに足元に注意しながら、明るみ始める空の下を走る事、約30分。周囲の景色がはっきりと見えてくる。

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(日が昇り始めると漸く渓谷と、10マイル先のノースリムが見えてくる)

グランドキャニオン訪問は、今回で8回目、谷底へのトレイルも4回目ではあるが、季節や時間帯により異なる顔を見せる雄大な景観に改めて感動すると共に、今この場にいられる喜びを心から噛み締める。

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約11kmのルートを数億年前の地層に見守られながら、地球の歴史を遡るかのごとく軽いステップで谷底へ向かう。早朝の穏やかな陽射しが作り出す陰影が渓谷に独特な立体感を与え、言葉では言い表せないほど美しい。 

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1500mの標高差を2時間強で下りコロラド川に到着。コロラド川とはスペイン語で「赤い色をした川」を意味するが、実際には「緑色の川」に架けられた橋を渡って対岸へ。

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上流では名前の由来の通り赤土のため褐色の水であるが、ダムに赤土が堆積するため下流では緑色となる。

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(細い橋を渡ってコロラド川の対岸へと向かう)

コロラド川の北側には渓流に沿ってキャンプサイトと、渓谷内で唯一の宿泊施設であるファントムランチ・ロッジがある。渓流越しに見上げるサウスリムもまた格別の美しさ。

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(谷底にあるブライドエンジェル・キャンプ場に沿って流れる渓流。顔を洗ってリフレッシュ)

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(点在するファントムランチ・ロッジの施設の一つ)

真夏の日昼は50度近くまで気温が上昇することもあるが、未だ午前8時前とあり、かなり涼しい。持参のエナジーバーで栄養を摂り、ボトルに水を補給し、若干の休憩・周辺探索の後、登りの途に付く。

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(本日の谷底の最高気温は華氏115度、摂氏45度。凄まじい暑さ)

ここからノースリムのノースカイバブ・トレイルヘッドまでは約23km、標高差1800mの行程。勾配は南からの下りに比べ緩やかではあるが、直射日光がもろに当たる長丁場。徐々に太陽が昇り、谷底に日が差し込むようになると気温が一気に上昇。予報では当日の最高気温は45度。快晴の青空と赤い岩肌のコントラストは、見る者を圧倒するほど美しいが、殆ど日陰が無いルートはやはりキツイ。

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(谷底のオアシス、リボンフォール)

谷底から約2.5時間、上りルートのほぼ中間に位置するリボンフォールに寄り道。滝越しに見る渓谷は、そこまで自らの足で辿り着いた者にしか味わうことの事ができない、優越感満たされる景観。滝と渓流の水で涼を採りエナジーバーで栄養補給の後、再び灼熱のトレイルに戻り北岸を目指す。      

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(滝の裏側に廻り、光り輝く飛沫越しにみる渓谷)

リボンフォールを後にしてからの最後の約10kmは暑さとの戦い。ほぼ真上に照りつける灼熱の太陽。日差しを遮る木々が殆ど無いトレイルで、唯一の涼は岩の凹凸よって作られる僅かな日陰。時折の休憩は、砂漠のオアシスで小さな木陰に集う動物の如く、岩に張り付いて気持ちばかりのクールダウン。

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(真っ青の空。真上からの太陽。日差しを遮るものは何も無い)

暑さに喘ぎながらも、刻々と変化する景観を時折振り返り、楽しむことは忘れない。ノースリムから下ってくるハイカーとは頻繁にすれ違い、簡単な挨拶を交わすが、灼熱地獄を北に向かって登るハイカーは稀。

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当然の事ながら、そこを走るような物好きにお目に掛かる筈もなく、太古の地層を拝みながら走ること、歩くこと約3時間、漸くノースカイバブ・トレイルヘッドに到着。

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(ノースカイバブ・トレイルヘッドで完走の喜びを分かち合う)

実動時間で約7時間。途中の休憩や栄養補給、滝での水浴びを含め約9時間をかけての、20億年の地球の歴史の彼方への雄大な旅はここで完結。とは言うものの、本日の宿であり、ノースリム唯一の宿泊施設であるグランドキャニオンロッジは未だ4kmの彼方。

ヒッチハイクを試みながら、とぼとぼと舗装道路を歩くこと十数分、有難く車が停まってくれたと思いきや、運悪くパークレンジャー。「国立公園内はヒッチハイク禁止」と一蹴に付される。術も無く、冷えたビールを夢に見ながら疲れた足を引き摺り、漸く4km先のロッジに到着。着替える間もなく、先ずはビールにて無事完走の祝杯!


Day 3
事前予約しておいた午前7時発のシャトルでサウスリムへ向かい11:30に到着。一昨日に預けた愛犬ブラウニーを引き取り帰路へ付く。帰りの車中、既に次なるチャレンジ、グランドキャニオン往復Rim to Rim to Rimに既に思いを馳せる。

後日談:2年後に念願のR2R2Rを走破しました。往復72kmのチャレンジのストーリーは、また後日

ワンポイント・アドヴァイス

1.ベストシーズン
トレイルは基本一年中オープン。渓谷内での宿泊が無ければパーミットの申請不要(安全上の理由からバックカントリーオフィスへの届出が望ましい)。真夏の谷底は最高気温50近くまで上昇、冬は雪に覆われる箇所も多いため、5月あるいは10月が気候的にはベストシーズンではあるが、秋にはモンスーンの影響で天候が不安定で、局地的な大雨もあるので要注意。   

2.南北リムを結ぶシャトルバス
サウスリムとノースリム間を結ぶ定期運行のシャトルは無く、乗り合いシャトルの事前予約が必要。例年5月15日~10月16日まで運行しており、南北リムよりそれぞれ一日4本運行。所要時間は4時間30分程度。片道90ドル。事前予約はこちらから。

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3.水分ならびに栄養補給
水の補給場所は、サウスカイバブ・トレイルではなし。ノースカイバブでは途中3箇所あり。(地図中のカップの印が水場)日中は気温が上昇するので、常に2リットル程度の携行が望ましい。必要最低限の栄養補給食は持参する必要あり。今回の横断では、Tailwind(粉末ドリンク) 一袋200kカロリーを10袋持参し、6袋消費。クリフバー200kカロリー2ヶ、スティンガーワッフル160カロリー2ヶ。合計1920kカロリー を途中で補給。

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4.装備品
気温が上る前の暗い時間に出発、更には想定以上に時間を要することもあるので、ヘッドランプは必需品(200ルーメン以上のもの、更には予備を携帯すること望ましい)、トレッキングポール、地図、水分補給には今回は2リットルのキャメルパック+500ccの予備ボトル、携帯用のウォーターフィルターを持参。

5.ノースリムの宿泊
ノースリムの宿泊施設はグランドキャニオンロッジのみ。サウスリムには数多くの宿泊施設があるので、日程を立てる際にはまず、ノースリムのロッジを予約する事をお勧め。予約は、こちらから。

By Nick D.



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