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祖母が崇拝する薬

「なんにでも効く」カプセル状の薬。
祖父母の家に行くと必ず渡される。

「これを朝と夜に飲むと全然違うんだから」と勧める祖母。私がいろいろ理由をつけて断っても「あなたの体が心配なのよ」と言う。もうすぐ帰省するよ、と電話したときは「あれ飲んでる?」と確かめられる。うんうん、と言うが本当は飲んでいない。

その場で飲まされたこともある。体調に変化はなかったが、薄く茶色がかったカプセルを飲み込む私を見て祖母は安心した表情を浮かべていた。

それでも、私は一粒も飲まない。

あるとき、ひと箱どれくらいするのか調べてみた。失礼なことをしているのはわかっていたが、全く飲んでいないのに貰い続けるのは祖母に申し訳なく感じたからだ。

その薬はとっっっても高価だった。

生半可な値段ではなくて、本当に高くて、「驚異的な効能!」とか「そこらへんのドラッグストアで売っているのとはわけが違う!」などと口コミがついていた。

私がなぜ飲まないのか、というとそこまで体に不調を感じていたり肌が荒れていたり怪我をしたりすることがないからだ。あの薬がなくても私は健康で、飲んだからどうなる、というわけでもない。必要としていないのだ。

飲まないから貰うことはできない、と伝えたら祖母は「どうして?とっても効くのよ?」と言って聞かないのは簡単に予想できる。

祖母はあの薬が好きで、私はそれをちゃんと飲んでいるふりをする。
しかし祖母からの大量の供給にはとうてい合わない需要で、結局いつまでも押し入れにしまい込んでいるだけなのだ。

祖母が私を心配してくれる気持ちはありがたいし理解している。

でも私は祖母が私のために買うあのカプセルの費用と、毎回くれるお小遣いと、「一人暮らしは大変でしょ」とくれるお菓子や果物を重く感じることがあるのだ。

正体不明のプレッシャーがのしかかる。

カプセルを渡されたときは特に。

拒むことはきっと許されていないのだろう。
祖母が崇拝する薬を飲むふりをして、たいして欲しくもないのにお小遣いをもらって、将来地元に戻ることを期待されて、それらをやんわりと受け止めて返して、どうしようもない気持ちを指でつついてみる。

ありがとうと、ごめんなさいと、もういらないよ、という感情で埋め尽くされる私はありがとうの顔だけをして「またね」と手を振り家に帰るのだ。

祖母が崇拝する薬は、まだたくさんある。







ちょろい女子大生の川添理来です。