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くろいはなのはなし

ぼくは、花を育てていた。
黒い花を育てていた。

すごくきれいな花が咲いた。
ぼくの大好きな夜の色だった。

それを見ただれかが言った。
「そんな色は花にふさわしい色じゃない
もっときれいな色をした花を咲かせるべきだ」

ぼくはとっても悲しくなってしまった

ぼくは、なんだか嫌になって
黒い花を摘み取って
土の中に埋めてしまった

ぼくが大好きな色をしたぼくの花を
いっしょうけんめい無かったことにした
ぼくは、ぼくが育てた花を
誰にも見せたくなくなってしまった

ぼくは、ぼくにしか見えないところで
こっそり黒い花を育てることにした

そんなことを続けていたら
「とてもきれいな花だね」
そんな声がした
「素敵な夜の空の色だ」
だれかがそう言った気がした

ぼくが育てた花を、きれいだねって言ってくれる人たちは
こんなにすぐ近くにいたのに、ぼくには見えていなかった


ぼくがよくて、きみがよくて、
もうそれだけでよかったはずなのに
もっと、もっとって思って
ぼくはいつのまにか、欲張りになってしまっていたんだ


ぼくがよくて、きみがよくて、
そんな幸せはないってこと
ぼくはいつのまにか、忘れてしまっていたんだ

ぼくがよくて、きみがよくて
もうそれだけでじゅうぶんなんだってこと
教えてくれたのはやっぱりきみだったんだ



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