ロビン少年の無人島漂流記

1日目
こんにちは。こういうのって挨拶から始まるんだっけ?ごめんごめん。
僕自身、こういうの書き慣れてなくて、僕は友達からはロビンなんて言われてる。本名はロビン・スチュワート。中学生。僕は冒険部の1年生で、あ、まず最初に、なんでこんなことになったのか説明させて。
実は僕、冒険が好きなんだ。それで、小学生の時から夏休みの間、グレゴリー叔父さんの屋台でホットドッグに、マスタードやらケチャップやらを塗って、お客さんに渡す仕事で貯めたお金で、ヨットを買ったんだ。本当は昨日冒険に出るつもりなんてなかったんだけど、昨日は妹のルーと喧嘩しちゃって、異常にむしゃくしゃしちゃってさ、お父さんの大事に飼ってたオウムをおもむろに外に放してしまったんだ。参ったよ。だからもうあの家には戻れなくなって。気付いたら、ヨットを近くの海岸まで運んで、飛び乗ったってわけ。ヨットって言っても、ビート板だよ。本物のヨットは買えなかったんだ。流石に本物のヨットを買えるほどのお金を叔父さんはくれないよ。叔父さんは筋金入りのケチンボだから。あと昔、楽屋泥棒だったんだ。それで、一生懸命ビート板を漕いでたら、高波に攫われてしまって、気付いたら無人島に漂流してたって訳。
そう。だからこれは、漂流者の手記になるんだ。
今、実は凄い興奮してるんだ、普通の人間だったら、きっと泣き叫んだり、普通ではいられなくなって昨日食べたオートミールを吐き出してしまうと思うけど、僕はちょっと普通の人とは違うみたい。やっぱり幼少時分から冒険に憧れたり、冒険について考えることが多かったから耐性があるんだろうね。だから、もしこの手記を読んで、冒険者の慌てふためく姿を期待してたら、ごめん。本当にごめん。今僕は凄いワクワクしてる。
流れ着いた目の前に小屋があって、おそらく僕以前の冒険家がこの恐ろしい島に来て作ったんだろう。だから有り難く使わせてもらう事にした。僕も本気で作ろうと思えば、これくらいの小屋は作れるけど、生憎、今日は漂流初日で体力も無いし、お腹もちょっと空いてるし、あとハンマーも電動ノコギリとかも持ってないからね、それに今はもう日が暮れてきたし、流石に危ないと思ってやめたんだ。夜に動くのは得策じゃない。その判断にはやっぱり冒険家の心得が備わっていると思う。普通の人だったら、慌てて動いて無駄に体力を使っちゃうからね。僕はとても冷静だ。だからとりあえず、今日は寝る事にした。ベッドも無いし、携帯でクラロワもやれないけど、実は僕ベッドで寝るのが苦手だったから、本当に助かる。逆にサンキューだよ。
母さんは毎日ベッドを洗濯するから嫌なんだ。フカフカのベッドで寝ると勘が鈍るというか、正直寝づらい。まあ分からないだろうね、だからこうゆう硬い床で寝る方が、僕は寝やすいから、助かるよ。と、いうとこで、僕の無人島生活1日目は終わり。あーなんて幸せなんだ。ありがとう神様。おやすみ。
2日目
良かった。
目が覚めたら、まだ無人島だった。これは本当に嬉しいことで、実のこと言うと、目が覚めて夢だったら、どうしようかと思ってたんだ。だって冒険家の僕にとって、無人島に漂流するなんてのは、とても名誉なことだし、とても誉れ高いことだからね。とりあえず、今日はこの小屋を出て、森の中に入ってみた。森の中は毒蛇がいたけど、すぐに殺して食べた。初めてだから緊張すると思ったけど、一撃で踏み殺した。やっぱり蛇って奴は口を開けて噛み付いてくる訳だから、そこを逆手に取ってやった。奴の腹ペコの口に僕の靴をズドンって訳。普通は毒蛇なんて食べないけど、僕たち冒険家にとっては貴重なタンパク源だから、逃す手はないよ、僕はどちらかと言うと毒蛇の味が好きなんだ。たまらないよ、母さんのお弁当を開ける度に、毒蛇が入ってないからガッカリしてるんだ。母さんはいつまでも僕を子供扱いするから、ウィンナーだったり、ミートボールだったり。本当にガッカリだよ。
その後、洞窟があったから入ってみると、中は人喰い蝙蝠の巣があって、僕は勇敢に戦った2時間40分に及ぶ死闘で、相手は数えたら400羽いたからね。流石に僕も、血が出たり、膝とか擦りむいたりとかしたから、歩けなくて倒れてたら、向こうから女の子が水を持って走ってきたんだ。だから僕は彼女に言ったんだ。「君は女の子だね?」って。そしたら女の子は俺に言うんだ。「勇敢な人ね。大丈夫?」って。だから僕はまた言うんだ。「大丈夫だよ。僕は勇敢だからね。」って。そしたら彼女は言うんだ。「村に案内する」って。だから僕も負けじと言った。「村があるのかい?」って。そしたら彼女が言うんだ「うん。」って。そっからはご察しの通り、2人で村に向ったんだ。勿論手をつないでね。村は所々燃えていて、僕は不審に思って聞いたんだ。「どうして火で家が燃えてるの?」って。そしたら奥の大きな家から村長が出て来て言うんだ。この島はドラゴンに支配されてるって。僕はど肝を抜かれたなんてもんじゃなかったよ。驚いたあまりに腰を抜かした。さすがの僕も何回も腰を抜かしたよ。腰を戻して抜かしてを何回も繰り返した。そして村長は続けるんだ。「どうかこの村を救ってくれってね。」僕は、意を決して言ったんだ。「そんなの勿論ですよ。」ってね。そして、僕は一度拠点のベースキャンプであるここに戻ることにした。心臓は今でも高鳴ってて。でも、不安よりもワクワクの方がいっぱいで、こんなにワクワクが押し寄せてきたのは初めてで、ああ、僕は本物の冒険野郎なんだなって。心底思ったね。そんなこんなで、2日目は終わる。本当にこれだから冒険はやめられない。ああ早く明日にならないかな。明日はいよいよドラゴン退治だ。おやすみ。
3日目
話は少し省くけど、それで僕は伝説の剣であるアルテマドラゴンソードを手にした訳。それは伝説のこの島から古くから古より言い伝えられてる剣で、勇者にしか持てない剣なんだ。それでついにこの島を支配する伝説のドラゴンと一騎討ち。気づいたら雲からは雨が降ってきてて、外からは風が台風のように吹き荒れて、もう大変で、でもそんなんじゃ僕の心は折れなくて、それで、目の前にいたドラゴンの首に僕の剣を刺したんだ。僕は念には念を入れて首に18回刺して、僕の心の悪魔のせいだね、でもすぐに心の天使が助けてくれて難を逃れたって訳。もうすぐで闇の僕になるとこだった。それを止めてくれたのが、あの子、そう。村長の一人娘のネルだったんだ。僕は村に帰って、村ではお祭りが開かれて、それはそれは盛大で。僕は誓ったんだ。必ず彼女を幸せにするって。その夜彼女の唇と僕の唇を近づけて、キスをしたんだ。でも、僕の冒険は、まだ続くのかな?まだ?もうでも、家に帰れるなら帰ってもいいな。ううん。もう。ママとパパには会えないのかな?今日は寝るよ。もう疲れたし。
4日目
ごめん。ごめんよ。パパ。ママ。家に帰りたい。今すぐ会いたいよ。本当は床でなんか眠れなくて、ずっと体が痛いんだ。ママが洗濯してくれた布団で寝たいよ。
毒蛇も食べてないし、女の子もドラゴンもいない。全部嘘なんだ。全部全部嘘で、怖くて1日目から1歩もこの小屋から出てないんだ。ここにあった缶詰は1日目で全部食べちゃったし、水も2リットルのペットボトルが6本あったけど、もう無くなっちゃったよ。僕に勇気なんてないんだ。嘘ついてごめんなさい。ビート板のお金も本当はママの財布から盗んだんだ。叔父さんのとこで稼いだお金は全部アイスクリームに使っちゃったよ。パパママごめんなさい。ダメな子でごめんなさい。もう一度、ママのミートボール食べたかったよ。さようなら。愛してるよ。
5日目
結論から言うと、昨日助けが来て、僕の無人島冒険は幕を閉じた。これはとても奇妙な話なんだけど、僕がいた小屋は近くの漁師小屋だったんだ。
一回入ったことがあるから、通りで見覚えがあるなとは思ったんだ。まあ、冒険に変わりはないよね?僕を発見したパパも「とんだ冒険小僧だ。」って言ってたし。まあ、しこたま怒られた。それはもう、しこたまね。何回もおしっこを漏らしては乾き、漏らしては渇きを繰り返したよ。本当に最悪の冒険だった。沢山いろんな人に謝ったし。でもよかったことをあげるなら、ママが布団を洗濯してて、ミートボールを沢山作っててくれたことかな。まあ、それが唯一の良かったことかな。もう冒険なんてこりごりだよ。
これで僕の冒険は終わり。この手記もここで終わる。でも恥ずかしいから、この手記は誰にも読ませないけどね。



20年後
ははは。懐かしいな。
確かにこれは僕が小屋に置いてあったノートに書いた、僕の人生の最初の手記です。
今読むと相当恥ずかしいな。
まあでも今じゃ宝物です。
はい。あの後すぐに僕は冒険家になったんです。ええ。本物のね。最初は挫けることばかりでしたよ。何もうまくはいかなかった。でもね、この経験が僕に勇気をくれたんです。だから全てが僕にとって大切な思い出です。
え?冒険家になって最初に父に言われた言葉?そんなの決まってます。「とんだ冒険小僧だ。」ですよ。

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