本との出会い2

 高田馬場駅を降りて、早稲田大学へ向かう。学生風の人の流れから、あっちの方角に大学があるのだろうと検討をつける。念のため、Google マップを開いて確認する。間違いない。この道を真っ直ぐいくと大学があるはずだ。散歩がてら、町を眺めながら歩いていく。

 学生ローン、麻雀の店、福島へのボランティアスタッフの募集の看板、学生のために安い値段で大盛ができる飯屋。学生街にあるこの雰囲気はいい。また学生に戻りたい気持ちになる。

 道なりに歩いていると古本屋を発見する。

 「1冊20円」安い!

 店の前のカートにおいてある一冊20円のコーナーと50円のコーナーを物色。なんと、続ムツゴロウの無人島記を発見。もうこれは、表紙をみただけで手の中へ。それから、本多勝一、ベトナム戦争終戦直後に書かれた「貧困なる精神 悪口雑言罵詈讒謗集集」を手に取る。終戦直後のベトナムがどんな状況だったのかちょっと気になる。一通り、20円、50円コーナーを物色したあと、お店の中へ入る。

 マルクス、レーニン、毛沢東、エンゲルス、孫文、中国、台湾、アジア研究、ベトナム戦争研究、民族研究、共産党関係の分厚いハードカバーの本が棚の上から下までぎゅっと詰まっている。
 
 ハードカバーの資本論を50円コーナーに見たときは、その外の雑多な本の中に紛れていたので、気づかなかったが、この古本屋は当時、学生運動をしていた若い闘士達が、侃々諤々と議論を戦わせていた、その教材が蒐集されているらしい。今はどうか知らないが、当時の学生運動をしていた人々は知識人、インテリであったと聞く。
 
 自分も資本論や共産党宣言に一度どんなものか知りたくて、挑戦してみようとしたこともあるけれど、難解というかどうしても感覚が受け付けないので挫折した。
 
 棚に並んでいる重々しい本の重鎮達のタイトルだけを眺めては、恐れをなして(200円という価格は見逃さなかった。)ひと回り。ベトナムに関する本が並んでいるコーナーを発見。ベトナムで暮らしている分共感できる部分もあるので、とっかかりがあり読みやすい。やはり、ベトナム戦争(ホーチミン主席、ボーゲンザップ将軍など)、ベトナムの社会主義に関する本が多い。
ひときわ目に付く本。

「ベトナムの民話」星野辰男 編訳

 どうもサイゴンで拘留中にかかれた本らしい。ベトナムの民話。興味あり。手にとって、奥に座る書店のおばちゃんのところへ。お会計。

「908円です。」

 あれ?えーと、確か50円のコーナーから2冊買ったから、プラス1冊でも合計300円くらいかなっという無意識の価格設定と、現実に聞こえてきた「908円です。」という価格ギャップに違和感をとっさに感じてしまって。

 「あの、この2冊50円のコーナーから」たぶん、50円のコーナーのをそうじゃないと勘違いしたのではないかと思い、つい言ってしまったのが、古本屋の主人のプライドを引っ掻いてしまった。ピリッとした空気に。

「ベトナムの民話」星野辰男 編訳の1冊が800円だったのだ。

 「あのね。ブックオフやなんかはあの人たち評価できないから何でも100円200円で売ってるけれど。絶版された本は貴重なの。目利きのできる人はブックオフで買って、うちに持ってくる人もいるくらい。そもそもこの本はバーコードも入っていないから、そんな店では引き取りもできない。」

 頭の思考がようやく言葉に追いついて、耳から入ってきた言葉を認識するのに数秒かかった。
「買うの?買わないの?」
「買います。」
なんだかわからないけれど、とてもいい本と思ったので800円もそんなに高いと感じなかったから、すぐに応えれた。

 その夜、早稲田大学で先生をしてて出版の仕事もしている(実は何をしているかよくわかっていない) Iさんにそのときの出来事を話をしようと本を見せたら。

 「ああ、この本はいい本だね。表紙もきれいだし。この切り絵がまたいいね。つくるのに手が掛かってる。」とまず、本をべた褒めされた。
  そして、「古本屋の人はね。本を子どもをおくりだす気持ちでいるから。いい本は大切にして欲しいっと想ってるよ。この本も塩川さんのところに来るべくして来たんだよ。」と、古本屋で生きる人間の想いを代弁してくれた。

 こんな「本との出会い」もあるんだなあ。

2019年5月21日

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