ベトナム農家のブルース

 乳牛を飼ってるおっちゃんが農場に訪ねて来た。うちの隣の土地で乳牛を始めたいらしいが、そこの土地が一段低くなってるので、排水管を共同でつくれないかという相談したいとのこと。

 まずは、ベトナムらしくお茶を飲んでお互いにあいさつをする。
どこに住んでるのか?奥さんと子供はいるのか?という定型文の会話が交わされる。どうも、うちの農場から3kmくらい先で乳牛を飼ってるらしい。

「その農場は不便な場所なの?」
「いや、旧国道6号線からも近くて、ここよりも便利だよ。」
 おかしなことを言う。そちらが便利ならわざわざこちらに移ってくることはない。

よくよく聞いてみると、
「その土地は、自分の土地ではなく、国営の乳牛会社の土地である。
建物は自分達のものだけれど、土地を押さえられているために、販売価格、販売先についての交渉する権利はなく、昨今、牛乳の価格が圧迫されていて家計が苦しい。こちらの土地を購入して、自立したいのだ。」
と、こういうことだった。

 乳牛農家はある程度裕福と思っていたけれど、小規模農家は苦しいんだなあ。ことに経営の裁量権がほぼないので従属状態を強いられる。頭に来ることも多々あるのだろう。
 経済性が悪くなると、国営会社は農家に負担を強いて、自分たちの利益を確保しようとする。
 大企業が下請けの中小企業にコストダウンを強いる関係に似ているが、土地を押さえられた農家は販売先が国営会社のみになるので、より自由がない。
「乳牛だけでなく、できれば果樹や野菜もやりたい。家では、自家用に農薬を使わずに野菜もつくっているので、こちらに越してきたら協力して野菜もつくってみたい。」

 ありがたい話。バンホー農場、自分たちもまだまだ利益が出ていない状態なので、なかなか「よし、いっしょにやりましょう!」とは言えないのが、辛いところ。
 しかし、隣に乳牛屋さんが来てくれたら、堆肥の原料になる牛糞が手に入りやすくなるし、堆肥の作り方を伝えてその場でつくってもらえれば、何かと便利になる。

「僕たちもまだまだ、モデルをつくってる途中なので、どの野菜をつくると生産性もあって、販売もちゃんとできるのか模索中です。がんばって成功させたいので、そのときはぜひ協力してほしいです。」
と、控えめに応える。

 ようやく本題の排水管の話に進む。一番低いところに排水ポンプを設置して、そこから200m先の旧道6号線まで直径80cmの排水管を伸ばす考え。
工事費や資材費込みで200,000,000VND(100万円近く)かかる。
1人では、出費できないので共同で出せないかという話だった。

 うちの会社も、余分なお金がない。直径80cmは大げさではないかと思ったり。もっと経費を安くできる方法はあるのではないか?大雨が降るのは、年に2ヶ月程。そのときだけ稼働させればいいのだから。頭の中でごちゃごちゃと思案していたら。とりあえず、今回はあいさつだけ。お昼ご飯の時間なのでと、乳牛屋のおっちゃんは帰って行った。

「自由と独立ほど尊いものはない。」(ホーチミンさん独立宣言の際のことば)しかし、自由を獲得するにもお金が必要だなあ。

5月31日

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