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【決定版】家庭向けステーキの焼き方 - 火入れの定量化

こんばんは、今回はステーキのレシピです。

みんな大好きなステーキ。お肉料理の定番で、お肉の調理としてはただ加熱するだけ。
それだけに食材そのもののクオリティと火入れの方法で大きな違いが出る料理で、そのシンプルさに反して、調理は決して簡単ではありません。
実際、ステーキに自信があるホームシェフは意外と少ないのではないでしょうか?なぜでしょう?

さきほど、ステーキは食材と火入れ云々と書きました。
前者は仕入れの問題なのでさておき、問題は火入れの方です。

本格的な火入れ技術やノウハウをテーマにした書籍等の情報源もありますが、私の知る限りどれもプロ向けです。(提供までのスムーズさを意識した)業務用ならではの高火力や、立ち上がりが早く加熱能の高い業務用のオーブン等、一般家庭にはないものの存在を前提としていて、一般家庭のキッチンでは再現できません。

かといって、ご家庭向けのステーキの焼き方的なものは、過度に簡略化されていたり、そもそも大雑把過ぎたり…。一定のレベルを超えたホームシェフを満足させるレベルのものは見つからないのではないでしょうか。

流行りの低温調理などの湯煎加熱でステーキを仕上げることの難しさは以下の記事に書いたとおりです。

では、ご家庭で絶妙な火入れのステーキを味わうことはできないのでしょうか?
もちろん答えは「可能」です。
頼れる情報源がないなら研究して手法を開発すればいいのです。
それを紹介するのが本稿です。

普段から家庭で料理の研究をし、イベントでシェフと組んで皿を出し、業務用の厨房でも家庭のキッチンでも試行錯誤を繰り返した私の研究成果です。

ほとんどの工程を数字に落とし、調理工程において主に3つの定量変数に着目してそれらを通して加熱を制御するので、一般的なレシピに比べてマニュアル作業の色が強くかつ再現性が高いものになっています。実際、多くのキッチンでこのレシピで調理して再現性の確認を取っています。

本稿で自宅のステーキのクオリティを跳ね上げてください。

目指す状態

表面→ムラなく綺麗な焦げ色が付き、香ばしい香りとカリッとした食感
内部→ジューシーで歯切れのよい(ミディアム)レア

ひとまず、この状態を目指して方法論を書きますが、仕上がりを微調整する手法も後に補足していきます。

3点の課題の整理

復習として、後編にも書いたものを引用。

ステーキと言えば、両面をフライパンで焼くだけのシンプルな調理。しかし、あの方法で表面に綺麗な焼き色を付けつつ(ミディアム)レアに仕上げるのは決して簡単ではありません。
フライパンでの加熱温度、肉の初期温度、肉の厚み(や水分量)などを計算に入れ、ソテー中の(あるいはソテーした)肉の表面の高熱が内部に伝わっていくスピードを感覚的に覚える必要があります。
肉の厚みによっては肉を休ませる時間やタイミングも調整が必要ですし、肉を触った感触から火の入り具合をチェックしたり、経験を要する作業のオンパレードです。
特にステーキは、加熱温度が高い(そうしないと綺麗な焼き色が付かない)割にローストビーフなどと比べて肉のサイズが小さいため、加熱の'止め時'を逃すとあっという間に過加熱状態になってパサパサの肉が出来上がります。

念のため補足すると、レア~ミディアムレアとは中心温度にして54~58度くらい(人によってはそれ以下。ただし、その場合は殺菌強度がガクンと落ちる)、焦げ色と香ばしい香りを発生させるメイラード反応が顕著に進行するのは150~160度くらいからです。せいぜい4~5cmの厚みの1つの肉にこの適度な急勾配を付けるのは曲芸っぽさがありますが、それをなんとかするのが本稿の役割です。

この適切な温度勾配を実現するにあたっての主な難しさは、肉内部の情報を得づらいことに起因します。表面の焦げ色は見れば分かりますが、内部にどれくらい火が入っているのかを知る手段はかなり限られます。

代表的な例である肉の弾力の変化(※)はその情報を得る貴重な一手段ですが、これだけではやや頼りないと感じる人が多いでしょう。実際、一定以上の加熱が進んで初めて弾力が出るので、「火が入ったことを確認する」手段としては弾力チェックは有効ですが、「あとどれくらい焼けば狙った仕上がりになる」といったような予測系の情報は与えてくれません。

特に、ステーキなどのサイズが小さく火の通るスピードが早いケースでは、弾力チェックのような現時点の状態確認の有効性は相対的に低く、むしろ予測系の情報が欲しいところです。
(※補足:肉は50度くらいを超えるとミオシンというタンパク質の変性によって肉の弾力が変わり、以降連続的に肉に堅さが出てくる。)

ただし、仮にそのような焼き付け工程とリンクした予測系の指標があったとしても、焼き付けの工程は使用する器具によって大きく加熱条件が変わってしまう定量化し難い部分であるため、そこでのブレが仕上がりのブレに直結しやすいという弱点があります。つまり、焼き付けへの依存度の高い調理方法は再現性に危うさを持ちます。
よって、再現性に拘るなら調理工程全体における焼き付け工程の重要性を(相対的に)下げたいところです。

最後に、そもそも十分な焦げ色を付けられるか、という根本的な問題もあります。業務用のガステーブルなどであればまず問題にはなりませんが、家庭用の火力の弱いガス(IH)テーブルを考えると、残念ながらこの可能性も排除できません。ご家庭の火力を想定して焦げ色を付ける、という点もオマケで加えます。

まとめると
(a)ご家庭の火力で肉表面に十分な焦げ色を付ける
(b)肉内部の状態について予測系のガイドを見出し利用する
(c)調理工程全体における焼き付け工程のウェイトを下げる
の3点が家庭用ステーキにおける主たる課題です。

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