「人生、人と比べてもしゃーない」

 僕の幼友だちに元借金魔だった人がいます。僕も10数年前に相当彼には貸し込み、もう行方が分からないし取り立ては無理だろうと思っていました。

 ところが、掃除をしていると彼と交わした借用書が見つかりました。そこで一計を案じ、住民票で彼の現住所を追跡できるのではないか。もしそうなら内容証明郵便を送って請求しよう。そう考え古巣の役所に行くと案の定可能とのことで、移転先の役所に住民票を請求してはまたその先に請求するという作業を繰り返し、遂に彼の居場所を突き止め、当初の案通り内容証明郵便を送りました。

 梨のつぶてかなと思っていたら手書きの返事が。「一度には払えないが分割で払いたい。あの時は本当に申し訳なかった」との一文と住所が書かれていました。さっそく電話し、近況や今後のことを語り合いました。

 「ふるさとにはもう一生帰れない。たくさんの人に金を借りて踏み倒してしまったから」という彼に底知れぬ悲しみを感じました。親族に追われるように地元から出て行った彼と、親に頼られるあまり都会に出たくても出られない僕。幼い頃から全てが対照的な我々でしたが、大人になってもやっぱりそうやなぁと思ってしまいました。

 ある時、僕が「金持ちはええのぉ」とぼやいたときのこと。彼が、「そんなこと言ったってしゃーないよ。今の状況を受け入れそこに生きる他ない」。確かに彼の言うとおりです。天を見上げて生きる傾向がある僕にとっての警句にすら聞こえました。

 冒頭の「人と比べてもしゃーない」。彼が苦悩の中で悟った言葉だと受け取っています。

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