yukakoさん1

ありがとう、紺色のまるい投影機。

 大阪には、大阪市立科学館というそれはそれは由緒正しい科学館がある。誰が何と言おうと、日本で一番最初に「科学館」を名乗り、戦前に東洋初のプラネタリウムを導入した大阪市立電気科学館を前身とする大阪の自慢の施設である。そんな科学館の現行プラネタリウム投影機が引退を迎えることになった。引退にあたって電気科学館時代を知らない一ファンとして思い立ったことなどを気ままに書き綴ることにする。

・最新鋭のプラネタリウム
 現行の投影機の名前は「INFINIUM L-OSAKA(以下、L)」。コニカミノルタの投影機である。(ここで枕詞に"最新鋭の"と付け加えたくなるのを我慢…)
 導入されたのは2004年7月7日のこと。私自身当時中学生であり、もうずいぶん前の話になるが、それでも導入されたときにはスタイリッシュな"シュッとした"都会のプラネタリウムだなあと子供心に思ったものだった。先代の「INFINIUM α(以下、α)」投影機時代から科学館にはお世話になっていて、ジュニア科学クラブでは毎月その星空を見ていたものだから、新しくリニューアルされたプラネタリウムにずいぶんわくわくしたものだ。
 α時代はプラネタリウムホールへ向かうエントランスは外の光が入ってくる明るい場所だったのが、L導入とともに雰囲気がガラッと変わり宇宙船に乗り込むような、暗めのエントランスに変わった。そして中に入ると”フランス製の椅子”が並ぶ。うとうとしながら眺める星空もまた格別だった。

・控えめな満天の星

今ご覧の星空は街明かりがあるため、見える星の数がずいぶん減っています。今日はプラネタリウムに来ていただいたので、街明かりのない満天の星を楽しんでいただきましょう。それでは皆様、目を閉じてください。

(ここで街明かりがすべて消される)

3、2、1・・・どうぞ、目を開けてください

このような演出は全国津々浦々多くのプラネタリウムで目にする。そしてプラネタリウムの一番の魅せ場といってもよいかもしれない。時には流れ星を投影したりと趣向を凝らして盛り上げるものだったりするのだが、Lの星空は期待しすぎると拍子抜けを食らう。下手をしたら先々代のカールツァイスⅡ型とほぼ同じ投影機を今も使っている明石市立天文科学館のほうが星がより明るく見える気がする。なぜなのか。

・リアルさを追求した投影機
 Lの投影できる星の数は9000個である。人間が肉眼で見ることのできる星の数より少しだけ多いぐらいだ。つまり本物の星空を忠実に再現した投影機といえる。昨今は高性能な投影機が多い。星の数で言うと100万個の星や1000万個の星を投影することも可能となった。しかしLは設計や開発段階から学芸員さんの「リアルな星空」へのこだわりにより敢えて星の数は9000個に抑えたという。一見すると物足りなく感じるが、15分ほど眺めていると、星の数の多さにハッと驚く瞬間が来る。目が慣れたときに山奥で見た星空と何も変わらない、誇張されないやさしい星の光を目にすることができる。人間の目の暗闇への順応のすごさも体感できる機械といえよう。

・朝夕焼けの美しさ
 プラネタリウムは星を映し出す場所だが、単にいきなり「はい、今夜の星空です」となるのではなく、昼間の空から星空へいざなう演出をすることで、時間の経過や星の見つけ方をリアルに感じさせてくれる。
 多くの投影機には「朝夕焼け投影機(下写真)」という赤やオレンジの明かりを地平線近くに投影する照明が付いている。Lにもそれはきっちり設置されている。
 私はこの朝夕焼けの演出が特に大好きでたまらない。なぜなら解説者の個性が一番出るところだからだ。解説者によっては投影機を使わずにドームの照明で直接夕暮れを再現することもある。ドーム照明と投影機の合わせ技をする人もいる。朝夕焼けの表現は一期一会といってもよい。

夕暮れ時、太陽が沈み西の空が真っ赤に焼けて、ふと東を見ると薄紺色になった天井にいつの間にやら月が出ていることに気づく。前に広がる大阪の景色が夜景へと変わり、見上げると、ひとつ、また一つと星が瞬き始める。星々は少しずつ西へと弧を描きながらその数を増やしていく。そしてすっかり夜の帳がおりる。 

そんなプラネタリウムの夕焼け、朝焼けの表現。控えめなLがちょっとだけ感情を出す瞬間だと私は思っている。

・新しい投影機への期待
 次の導入される投影機は「インフィニウムΣ-OSAKA」だ。同じコニカミノルタのインフィニウムシリーズの最新機である。今回も大阪仕様の特注品となる。サッカーボールのようなちょっとだけメカっぽい出で立ちはLよりもさらに垢抜けた感じがする。月食の再現など今までできなかったことも投影できるという。既に東京では同機種が導入されている館もあり、迫力満点というから期待に胸が膨らむ。

・さよならインフィニウムL-OSAKA
 Lの投影は2018年11月30日に無事フィナーレを迎えた。大きくしんみりすることなく、Lの星空を堪能した楽しいフィナーレだった。中学生から社会人になり星カフェスピカで星空案内をする仕事に携わるようになるまでの自分にとっても大切な14年間、酸いも甘いも数えきれないほど様々な場面でこのプラネタリウムにはお世話になった。それをこのドームの真ん中でずっと見守ってくれていたのがこの投影機だ。
 そして実際自分がこんなに星空や天文学、地球惑星科学にのめりこむきっかけになったのが他でもない大阪市立科学館である。

 紺色のまるい姿が見られないのはさみしい。けれど大阪にプラネタリウムの灯がある限り科学館に通い続けるだろう。新しいプラネタリウムにたくさんの人が訪れそして大阪が星が見える・星をもっと楽しむ街になることを夢見ながら今夜もベランダから空をそっと見上げている。

大阪市立科学館 2019年3月29日まで休館中
2019年3月30日にリニューアルオープン予定
http://www.sci-museum.jp/



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