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短編小説 スノードーム

あの日、私は声をあげて泣いた

彼は泣いている私を抱き締めた

一番辛いのは彼なのに

泣きつかれていつのまにか寝ていた私は、過去に戻っていた

タイムスリップしていた

これは神様がくれたチャンスだと思った

でも、実際は悪魔が作った罠だった

私はずっともがいている

何度も繰り返して

理想の世界を作る為に

朝日がカーテンのない僕の部屋を照らす

光の刺激で目を覚ました僕は簡単に目玉焼きとトーストを作りながらテレビをみる

今何が流行っているとか街頭インタビューなんかをボンヤリ見ながら口を動かして、腹を満たす

インターホンが鳴る

無言でドアの前に行き、一呼吸

ドアを開くと隣人が

「御早う!!今日はいい天気だね!!」
僕は無言
「御早う!!今日はいい天気だね!!」
僕は無言
「御早う!!今日はいい天気だね!!」

僕は無言でドアを閉める

いつもの日課
そして、もうひとつの日課

テーブルの上にあるスノードームを覗く
中に一人の女性が映る

彼女は泣いていた

彼女の泣き顔を何回見ただろうか
スノードームを覗く度に彼女は泣いている

理由は知らない
知るすべもない

だから僕はスノードームを一回ひっくり返して元に戻す
すると場面転換する

雪が降り始め、彼女は立ち上がる
繰り返し、繰り返し

仕組みも知らないスノードーム
さらさらと降る粉雪のなかに答えはないようだ

ただ彼女は立ち上がる
降る粉雪の中で
何回も泣いているのに

その姿に少し勇気をもらって
今日も僕は
仕事に行く

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