短編小説 だし巻き

朝食を食べる時くらい、私の話を聞いてほしい。
料理に対して何も言わないあなたは黙々と食べていて、話をする雰囲気など微塵も出さない。
そんな毎日を繰り返して張り合いのないを通り越したくらいにふと感じた愛情。
あなたはだし巻きが好きなのだ。口に出したことはないだろうがいつも食卓に出すとすぐ食べてしまう。失敗すると少し悲しそうに食べている。飲みすぎた次の日は食べるのが遅い。トイレが長い。ネギを入れたものよりも何も入っていないほうが好き。私のだし巻きがあなたは好きなのだ。買ったお弁当に入っているだし巻きを食べた時、あなたはちょっとがっかりしているのを私は気付いている。これは私しか知らない。ふとそのことに気づいた時、出会った頃の気持ちが蘇ってきた。そして私は思い出している。あなたは無口だけど、大切な事はちゃんと言う人だと。
ほら、ご飯をもっている私にだし巻きを見つめながら……
「いつもありがとね。」
本当にずるい男。

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