短編小説 人生

明日の12時に僕は死んでしまう。
知ったのは一週間前だった。
知った時から僕の人生が始まった気がした。
死を怖がって泣きたい気持ちもなく、ただ、したいことを始めた。
明確な区切りは安心をもたらしてくれる。
人生の終わりに気づいたのはそれくらいだった。
食べたいものを食べて、笑いたい時に笑う。
殴りたい奴を殴って、むかつく奴に大声で文句を言った。
僕は人間から解放されたモンスターになった気分で町を歩いた。
きらきらしたネオンが昼間の町に現れたみたいに人間が廻っている。
世界は廻っているというのは本当なのだろう。
ぐるぐる廻って僕は死を受け入れた。
僕のほかにもたくさんの死が世界を廻っているだろう。
愉快な気分で顔が熱い。

………

気がつくと目の前に女子高生が立ち、僕の顔を覗いている。
「大丈夫ですか?救急車呼びますか?」
僕はいつの間にか座り込んでいた。
彼女に答えないと…
心配してくれている。

笑いながら

大丈夫だと

気分は最高だと

言わないと

言わないと


…僕は



…僕は


「大丈夫じゃないです。死にたくないんだ。だれか助けてくれよ……」

あぁ世界が廻るのを止めた





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