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短編小説 豆腐

ある長屋に

一人の男の子がいた

男の子は最近あることが気になって仕方がなかった

それは豆腐であった

毎月決まった日に長屋の前に

一丁の豆腐が置かれる

父親も母親も

「「親切なお方もいるもんだ!」」

と言ってたいして気にしてはいなかった

しかし、男の子は違った

気味が悪いし、いったいどんな人が置いているのだろうか

気になって、気になって仕方がなかった

そして、ついに男の子は

豆腐が置かれる前日に寝ずに待っていた

父と母はあっという間に寝てしまい、風と虫の声しか聞こえない

夜が深まるにつれ、眠気に負けそうになる

うつら、うつらしていると外からタッタッタッと人の走る音が聞こえてきた

こんな夜中に誰かが走っているなんて!?

きっと豆腐を置く人だ

そう思ったらばっと目が覚めて、静かに戸の前に立ち、息を殺して待った

すると、タッタッタッと足音が近づいて来て、戸の前で止まった

そして、カタッと何かを置く音がした瞬間

バン!

男の子は力一杯に戸を開けた!

すると、目の前には

肌がまるで豆腐のように白い、傘を被った頭の大きな小僧が茫然と立っていた

男の子は驚いて うわぁ と声をあげると

傘を被った小僧は、ハッとし、

「ワーーーーーーーーーーーーーー!!!」

と物凄い声をあげて、煙のように消えてしまった

大きな声に驚いて、長屋に住む人達が飛び出してくる

男の子は今、あったことを一生懸命説明したが、大人達は信じず、男の子のイタズラだと考え、男の子はこっぴどく怒られてしまった

ちなみに

父親も母親も、小僧の大きな声でも男の子が大人達から大きな声で叱られて起きなかった

夜が明け、男の子は自分が通う寺子屋のお坊様に相談することにした

誰にも信じてもらえないのが悔しいからであった

さっそく、お坊様に夜中にあったことを説明すると

お坊様は優しい笑顔で

「豆腐小僧にあったんだね。」

と言った

豆腐小僧が、どんなものなのか聞くと

「豆腐小僧というのは妖怪でね。豆腐を運んだりする小間使いみたい存在なんだそうな。人に悪さはしないよ」とのこと

ではなぜ長屋に毎月豆腐をおいていたのだろうと気になった

「さぁ?そこまではわからないねぇ、もしかしたら君か、君のご両親が何か良いことをして、そのお礼なのかもしれないよ」

父親も母親も人の良さが唯一の取り柄みたいなものだから何かあったのかもしれないと男の子は考えた

そして、もう一つ

あの豆腐小僧を酷く驚かせてしまい、悪いことをしてしまったなとも思った

その事をお坊様に伝えるとお坊様はまた優しく笑い

「そうだねぇ、ちょっと悪いことをしたのかもしれないねぇ。そうしたら来月、豆腐を置いていく日に文を置いて置くのはどうだろうか?文で謝れば、また豆腐小僧を驚かせずに済むだろう?」

男の子は、お坊様の言う通り、習ったばかりの字で文を書くことにした。

でも、妖怪が人の字を読むことができるのだろうか?

そう思うとお坊様が

「妖怪はたくさんいるんだから、一人のくらい人の字を読むことができるのがいるだろう」

と笑った

そして、次の月

夜が深まる頃に男の子は書いたばかりの文と今日、お坊様から貰った金平糖を戸の前に置いた

そして、ちゃんと読んでくれるか気になったので寝ずに待つことにした

更に夜が深まり、うつらうつらしていると遠くからタッタッタッと走る音が聞こえてきた

来た!と思い、戸に身を寄せて耳を済ませた

タッタッタッという音が近づき、戸の前で止まった

そして、カタッと何かを置く置く音とガサッガサッと文と金平糖を包んでいる紙を開く音が聞こえた

男の子は息を殺して、耳を澄ます

ぽりっ ぼりっ ぽり ぼりっ

金平糖をかじる音が聞こえる

男の子は嬉しくなって、戸を開けようと思った

でも、驚かせたら可哀想だと思い、我慢した

必死に我慢していると気配とタッタッタッという足音が離れていった

戸を開けてみると金平糖と文が無くなっており、豆腐が一丁置かれていた

男の子は一息ついて、豆腐を取ろうとした瞬間

後ろから

「美味しかった!」

と大きな言われ、男の子は

うわーー!!

と大きな声をあげて振り返ったが誰もいない

でも、どこからクスクス笑う声が聞こえた

男の子はやり返されたことに少し腹を立てたが、次第に可笑しくなり、少し笑った

その後も月に一度、豆腐が置かれ、男の子は時折、文や食べ物を置いておくことが長く、長く続いた。

しかし、お互いを驚かすことはもうなかった。

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