にぎた/BA

『子鬼のつぶやき』という短編ミステリーを連載しています。たまに映画やカルチャーなどのつ…

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『子鬼のつぶやき』という短編ミステリーを連載しています。たまに映画やカルチャーなどのつぶやきも。

マガジン

  • ひまつぶし

    • 419本

    「クラブBA」会員による個性豊かな投稿を集めました。 ジャンルは様々。音楽、料理、サーフィン、スニーカー、電車、競馬、ペット、写真etc. 内容は、ライトなものからディープなものまで。 是非、ひまつぶしにどうぞ~。

  • 『子鬼のつぶやき』

    • 12本

    「クラブBA」会員、にぎた/BAがお届けする短編ミステリー小説。中学3年生の主人公、半田圭司が進める”推理”の行方は—

最近の記事

『子鬼のつぶやき』 第十一話

(→第十話) アパートに着くと、順子はいつも通りパートに出掛けていった。  今日は祖母の家ではなく、サニーハイムに帰って来たのだが、家の中が少しおかしい。浦島太郎ではないけれど、母も少し窶れた顔をしていて、居間にはゴミが散らかっていたりした。  今回のは、きっと大戦だったのだろう。  圭司は、そんな戦の傷痕を引きずる母を見送ると、「いなくて良かった」と一言こぼしてから、自室に向かった。  窓が閉まっていて、ムワリとした粘っこい熱気が襲う。この家には圭司一人だけ。冷房

    • 『子鬼のつぶやき』 第十話

      (→第九話) 「ひとつ思ったんだけどさ」  まだ鼻声であったけれど、しょうちゃんは元気に部活へ来ていた。  朝、顔を見るなりこちらへ駆け寄ってくれた友人は、まずは昨日の欠席を律儀に謝った後、自身の調査について述べた。  結果は白紙。喜ばしいことだけど、クラスメイトたちが事件や事故に巻き込まれたことはなかった。  圭司も告げた。家族には変わりはない。引っ越した先のサニーハイムにも、何も手がかりはなかったこと。  それから、お化けからなにも返事がないと言ったところで、

      • 『子鬼のつぶやき』 第九話

        (→第八話)   晩ご飯のメインは豆腐ハンバーグだった。  歯の悪い祖母でも食べられるよう、ヘルパーさんは柔らかく作ってくれた。  まだ日は沈みきっていない。ヘルパーさんは料理を作り終えると、「お孫さんがいるから」といつもよりも少し早めに帰っていった。  さて、祖母との二人きりのディナーなんていつぶりかしら。  歳のわりには元気な祖母は、アクティブシニアと世間では呼ばれるのだろう。身なりは綺麗に、人前に出るときは必ずお化粧をするし、言葉や態度も上品さを感じられる。

        • 『子鬼のつぶやき』 第八話

          (→第七話) 祖母の家 「ごめんね。気を遣わせて」  ゴホンゴホン、としょうちゃんの声が電話越し聞こえた。どうやら夏風邪は本当らしい。ひどい鼻声だった。 「もう熱は下がったんだけど……ヘックション! ごめんごめん。まだ咳と鼻がでるんだよぉ」  練習が終わり、祖母の家へ向かう道中、圭司は彼に電話をかけたのだ。2コールほどでしょうちゃんは出てくれた。きっとゲームでもしてたのだろう。圭司はどことなくホッと胸を撫で下ろした。 「見舞いにいこうか?」 「本当にもう大丈夫だよ

        『子鬼のつぶやき』 第十一話

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        記事

          『子鬼のつぶやき』 第七話

          (→第六話) 呪い「今日はお祖母ちゃん家に行くよ」  翌朝。運転する順子に、圭司はそう伝えた。 「……そう」  バックミラー越しに感じた母の視線を、圭司は代わり映えのしない窓外を見ることで避けた。  結局、昨日はしょうちゃんから連絡が来なかった。お化けの正体を突きとめるための、最後の道しるべ。きっとしょうちゃんも行き止まりにぶち当たったのだろう。  ぼくはころされた――。  お化けがわざわざメッセージを残すなんて、きっと身近な人に違いない、と、しょうちゃんは助言

          『子鬼のつぶやき』 第七話

          『子鬼のつぶやき』 第六話

          (→第五話) 小さな争い  帰り際に、男性社員が圭司を呼び止めた。 「どうして事故物件だと思ったの?」  圭司は喉元まで出掛けた「お化け」のことをグッと堪えて、「夏休みの自由課題」と嘘をついてみた。  男性社員もそれ以上は突っ込まなかった。圭司が何かを隠していることくらい、気づいてるに違いない。だから、「何かあったら連絡して」と最後に名刺を渡してきたのだ。  滝川ホームズ営業部   服部雅司――  その下には、会社の代表番号と、彼の携帯番号とメールアドレスも書か

          『子鬼のつぶやき』 第六話

          『子鬼のつぶやき』 第五話

          (→第四話) 小さな冒険  バスに飛び乗ったところで、圭司は冷房を消したのか不安になってきた。  外は茹だるような暑さだった。陽炎が揺れ、「よくこんな中を走りまわっていたな」と、自分でも不思議に思えた。  目的地へは、バスでおよそ二十分ほどのところだ。さすがに車内は涼しかった。人も少ない。運転手さんの後ろに座るおばあちゃんひとりだけ。圭司は一番後ろに座って、窓の外を眺めた。  田んぼに挟まれた道をバスが行く。どこまでも続いているように見える水田の先には、彼の知らない

          『子鬼のつぶやき』 第五話

          『子鬼のつぶやき』 第四話

          (→第三話) 推理  部活は昼過ぎに終わった。  校門の前で、母の車を圭司はひとりで待っていた。  他のチームメイトたちは「この後どこで遊ぼうか」と、駄弁りながらさっさと帰ってしまっていたのだけれど、タイミングを見計らったようにして、しょうちゃんが声をかけてくれた。 「じゃあ……帰ったら調べてみるね」  自分たちの他に誰もいないか確認してから、用心深く言った。真っ白なヘルメットに太陽が反射して眩しい。 「うん。ありがとう」 「言っとくけど! 僕は圭ちゃんが犯人だっ

          『子鬼のつぶやき』 第四話

          『子鬼のつぶやき』 第三話

          (→第二話) 名探偵 「どうしたの? 調子悪いじゃん?」  寝不足?   休憩中、そう言って圭司の隣に座ったのは「しょうちゃん」こと、上内正平だった。チームメイトであり幼なじみの彼は給水ボトルをくれた。 「ありがとう」  今時珍しいスポーツ刈りに、昔から小太り気味だったしょうちゃんは、それでいて走るのがチームで一番速いのだから、「爆走戦車」の異名も持っていた。明るい性格のおかげか災いか、彼自信もその二つ名をえらく気に入って、監督までも時に「爆弾戦車」と茶化すこともあ

          『子鬼のつぶやき』 第三話

          『子鬼のつぶやき』 第二話

          (→第一話) 部活  目が覚めると、圭司はすぐさま昨晩のノートを見直した。  数学の宿題のノート。その隅っこに書かれた一言。 ――ぼくはころされた  僕は殺された、とつぶやいてみる。それからようやく、圭司はホッと胸を撫で下ろした。いつの間にか書かれていたそれは、また消えてしまうのではないかと、正直ヒヤヒヤしていたのだ。  けれど、確かにそれは見間違いではなかった。  季節は夏の盛り。昨日の雨は嘘のように、暑い朝日が部屋の中を照らす。土の地面には水溜まりと車のタイヤの

          『子鬼のつぶやき』 第二話

          『子鬼のつぶやき』 第一話

          (→あらすじ) 発見    半田圭司がお化けを見たのは、実は2度目のことであった。  1度目は彼が小学五年生のとき。苦手な社会の時間中、ふと――本当にたまたま窓の外に目を向けると、反対の校舎の屋上に立つ、1人の人影を見つけたのだ。  ドキリとした。その人影は、フェンスを乗り越えて飛び降りたのだから。気がつけば立ち上がり、授業もお構いなしに教室を飛び出していた。「戻りなさい!」という先生の声も無視して、一目散に。しかし、いざ校庭に出てみると、誰かが飛び降りたであろうその場

          『子鬼のつぶやき』 第一話

          『子鬼のつぶやき』 あらすじ

          はじめまして。 にぎた と申します。 小説連載を中心に、たまに映画やカルチャーのつぶやきもします。 小説第1弾は短編ミステリーの『子鬼のつぶやき』です。 毎週更新しますので、よろしければお読みになられてくださいね。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― ~あらすじ~ その言葉の秘密は、決して知られてはいけなかった中学三年生の夏休み。半田圭司は、数学の宿題ノートの片隅に、見慣れない文字を見つけた。 ――ぼくはころされた いつの間にか、知

          『子鬼のつぶやき』 あらすじ