寒候期を振り返る(2022年〜2023年)
半年に一度、地元贔屓で天候を振り返る第三弾。まずは気象庁の解説から。
寒暖差の激しい冬だったが、個人的にいちばんのトピックは何と言っても2019年11月の運用開始後、初めてとなる顕著雪こと「顕著な大雪に関する気象情報」が発表された12/15〜23のドカ雪だ。
クリスマス寒波を振り返る(1)
「平地で40cm」だから何⁈
気象そのものの前に事前の呼びかけについて触れておきたい。
この時の荒天は事前の予測が安定していたこともあり、国交省と気象庁が合同で緊急発表したほか、地元気象台も同様に記者会見を開くなどした。
それらを踏まえて前日夕方に山形県庁が投稿したツイートを紹介したい。
率直に言って右から左へ情報を流しているだけで目新しさは無く「だから何?」なのだ。
まず予想降雪量、平地で40-60cmと言うのは数値としては並の部類に入る。普段からドカ雪に慣れている人間からすれば、一種の安心材料とさえ受け取られてしまう可能性すらある。
次にツイートの時間。ツイートの元ネタは12/22朝に気象台から発表された府県気象情報と思われるが、同日の昼と夕方に更新されている上に、お昼の気象情報で重要な変更がなされている(大雪警報の可能性を「高」に引き上げ)。いろいろ段取りがあるだろうが、それにしてもこの「重要変更」をスルーしているのは、残念ながらイケてないと感じてしまった。
具体的に何がヤバいのか、問題はそこだ
事後の呟きではあるけど、12/23-24のドカ湯に関して自分のツイートも引用しておく。緊急発表したからヤバいではなくて、具体的に何がヤバくて緊急発表に至ったのか、気象台担当者に齧り付いて根掘り葉掘り聞き出すくらいの根性は見せて欲しいものである。
県庁担当者らの奮起に期待したい。
なお、余談だが類似の事例として2010/12/31鳥取県のドカ雪事例を挙げておく。極渦の落下、低気圧通過後の昇温など共通点が多い。
不幸中の幸い
降雪のピークが夕方の帰宅ラッシュと重なるなか、大規模な交通障害への緊張感が高まったが、幸いにして車両数百台と言った規模での長時間の立往生や交通途絶は避けられた。
無論、大事にならなかっただけで事故が相次ぎ、後日地元メディアが報じたように予定外に車両の中で一夜を明かした人もいたようだ。
メディアの報道を総合すると降雪量が特に多かったR113小国町やR112月山道路よりも、R287やR348とその周辺で立往生が相次いだ事も興味深い。
1週間降り続いたドカ雪
ここまで12/23-24の大雪を振り返ってきたが実際に生活している人間の感覚としては、12/15頃から続く一連の寒波として捉えた方がしっくり来る。地元山形県小国町では2/1発行の広報誌で豪雪の特集を組んでいるが、町内で停電が発生した12/18に主眼を置いている。
(https://www.town.oguni.yamagata.jp/site/kouhou/1242.html)。
なお、同広報誌の中で町内の観測所(実質、現在の小国アメダス)で、三八豪雪を上回って同時期の最多の積雪量を記録したとあるが、これはやや誇張した表現に思われる。三八豪雪当時は委託観測所だったのではないかと思われるが、いちおう自動観測(地域気象観測所)に移行した1976年以降で見ても1984年12月30日が12月の極値とされている。
以下、12月23日~24日のドカ雪が県内に残した記録を書き留めておく。
クリスマス寒波を振り返る(2)
記録にすら残せなかったドカ雪
これまでは12/23〜24のドカ雪を降り返ってきたが、ここからは肘折アメダスのデータを使って12/18~19のドカ雪を振り返りつつ、気象観測の大変さを確認してみたい。何を言っているのかと思うかもしれないが、気象を記録に残すと言うのは実は想像を超える苦労を伴う。
唐突だがここで降雪量の定義を確認しておこう。
この「正の値」というのがミソで、どれだけ雪が降っても積雪が増えなければカウントされない、記録にすら残せない。
降雪量はそんな宿命を背負っている。
それを踏まえて以下のグラフで肘折アメダスの状況を確認してみよう。
肘折アメダスに関して言えば特に19日未明から昼前にかけて、氷点下の降水に反して積雪がわずかに減少している。つまり自重で雪質が締まる圧密化が、新雪による積雪の増加を上回っていたと言える。先に紹介した小国アメダスでも同様に日付が12/24になってからと言うもの、氷点下の降水にも関わらず積雪の増加が鈍り減少に転じている。
楽観も悲観もなくちゃんと捕まえたら
19日の朝時点での12時間降雪量は32cmだが、実際のところは雪水比からの逆算などで推し測るほかに術はないものの、この倍は降ったと考えられる。ちなみに19日朝の山形県気象情報で伝えられた肘折の24時間降雪量は92cm。圧密化による降雪量の過小評価を避けるには、十分なインパクトがあったのではなかろうか(もちろんこれでも少ないのだが)。
積雪の圧密化による降雪量の過小評価とは、少なくとも特に本州の豪雪地帯に生活している人間ならば「あるある」で済むが、気象や防災を齧っている人間として記録にすら残せないことほど辛いものはない。
この時の肘折アメダスに関しては、24時間降雪量が1976年の観測開始以来の最大(101cm)を更新したが、それでも最低限、拾い上げる事が出来たのがこの量なのだ。
気象庁を始めメディアが伝える数字を鵜呑みにせず、気象状況を自分で確認する姿勢が求められる。
降雪量の測定の難しさについては、ウェザーニューズさんも記事にしているのでぜひご一読頂きたい。
積雪深と降雪量の違い
「予想される降雪量120cm」の正しい意味は
3年続いたラニーニャな冬を振り返る
MJOに振り回されたシーズン
はじめに引用したように今シーズンの日本付近の天候は約1ヵ月の周期で大きく変動した。その要因として、今年の3月に開かれた異常気象分析検討会の配布資料ではMJOを挙げている。現象としては常に存在するものではあるが、その東進が今シーズンは明瞭だった。同じくラニーニャの冬だった昨シーズンと比較してみると、熱帯の対流活動にメリハリがあったことがわかる(資料省略)。
ラニーニャ現象の影響でもともと海水温が高めだったインド洋東部からインドネシア付近の海域に、MJOが差し掛かったタイミングで特に対流活動が活発に。亜熱帯ジェットの波束伝播と重なるなどしてシベリア付近の強い寒気が日本付近にまで南下する要因になったようだ。
クリスマス寒波はどれくらい前から予測されていたか
また、同配布資料では12月後半の低温傾向について、11月末からのテレコネクションパターンによって徐々に日本付近に寒気が流れ込みやすい環境場になっていったことが示されている。また「西回りでの寒気流出の強さ」や「日本海での気団変質の強さ」も示されているが、12月として1981年以降の最大強度を上回るほどではなかったようだ。
予測の場面ではどうだったか。具体的に最初に低温の可能性(寒気が流れ込みやすい状況)に言及されたのは12月1日発表の1か月予報。その次が12月7日の週間天気予報解説資料「14日頃の北・東日本は冬型の気圧配置が強く、日本海側で風雪が強まる可能性や降雪量が多くなるおそれがある」。3番目が翌8日の2週間気温予報(早期注意情報)。
同じラニーニャでも異なる、過去2シーズンとの違い
異常気象分析検討会では昨シーズン(2021-2022)の特徴として「一冬を通して寒さと雪がダラダラ続いたこと」を挙げた。シーズンを通して熱帯の対流活発域があまり動かなかったことで、日本付近にダラダラと寒気が流れ込みやすい状況が続いた。3ヶ月平均の天気図でも日本の北にあるブロッキング高気圧が今シーズンよりも南に位置していることがわかる。ダラダラと変わり映えのない気圧配置が続いたことでプラネタリー波の成長も弱く、成層圏極渦の破壊(成層圏突然昇温、SSW)の大幅な遅れにもつながった。
一方で2022-23シーズンは、1月下旬に日本付近に流れ込んだ強烈な寒波を足がかりにプラネタリー波の振幅が増大、成層圏の突然昇温(SSW)につながった。加えて今回の異常気象分析検討会の資料では、対流圏由来のSSWが成層圏極渦の崩壊を通じて対流圏自身にフィードバックされる点についてもよく触れられている。
2020-21シーズンの特徴は「前半寒冬と後半暖冬とメリハリが大きかったこと」。1月初めに発生したSSWがユーラシア大陸上で寒帯前線ジェット気流を強化。他にもインド洋の海水温分布も変化し、暖冬傾向への変化に寄与した。2022-23シーズンと比べてSSWのタイミングが早く影響が長引いたことが、メリハリの強さに現れる結果となった。
ひとことラニーニャ現象と言ってもMJOを含む熱帯の対流活動だったり、SSWだったり、シーズンごとにまったく異なる天候となった。
エルニーニョ現象と正のインド洋ダイポールモード現象へと変化した2023-24シーズンはどんな天候になるだろうか。