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高齢者に運転させてはならない、は本当に正しいのか?

   ここでも何度か取り上げた池袋の事故の後も、高齢者による交通事故は度々、マスコミで報道されていて、先日はついにこんな社説を掲載する新聞まで現れた。

      あの池袋の事故でのプリウスというクルマの問題は別にしても、高齢者による運転はそんなにも危険なことなのだろうか?

    そもそも高齢者の運転手による交通事故は本当に多いのだろうか?

  この警察庁のデータを見れば一目瞭然だが、交通事故を起こすことが多いのは20代、40代、30代、60代の運転手の順で、70代、80代の高齢者は年齢層でいえば逆に少なく、80代はもっとも交通事故を起こさない運転手の年齢層なのだ。

  勿論、80代になれば運転する人も減るし、20代から60代ぐらいがもっとも運転する人数が多いのだから事故が多いのも当たり前、という理屈も成り立つので、全体ではなく免許保有者10万人当たりの交通事故の件数も見てみる。

  これでも80代は増加するものの、圧倒的に多い10代、20代に続いて3位。60代、70代の運転手も30代~50代とほとんど変わらない以上、決して「高齢者の運転による交通事故が多い」という言い方は出来ないのではないだろうか。

   では、なぜ私たちが「高齢者の運転による交通事故が多い」と思うかと言えば、この理由は簡単。マスコミが報じるからだし、私たちが全ての交通事故を知ることがない以上、マスコミが高齢者による交通事故を報じる頻度が高ければ、私たちが「高齢者の運転による交通事故が多い」という印象を抱くのも当然なのだ。

 これにも、上に紹介した産経新聞の社説のように、“マスコミがそれだけ報じるということは高齢者による悲惨な事故が多いからだ”という反論は出来るかも知れないので、その悲惨な事故、つまりは死亡事故に限ったデータを紹介しよう。

 ただ、これもデータを見れば一目瞭然。死亡事故を起こすことの多い運転者は40代、20代、50代、60代の順で、70代や80代の高齢者の運転手は逆に死亡事故を起こすことの少ない年齢層なのだ。

   また、全体の数ではなく割合、免許保有者10万人当たりの死亡事故の件数で見ても、確かに80代は増えるが、10代とほぼ同じだし、60代や70代の高齢者も他の年代とほぼ変わらない。

 ( 因みに、10代と80代の死亡事故が異常に多いのは、この死者には運転手自身も含まれる為に10代は原付による自損事故死、80代では体力が弱く、自損事故なども含めて交通事故で自らが死に至るケースが多い為)

 こうやってデータを見てくると、「高齢者の運転手は重大な交通事故を起こすから危険」とか、「悲惨な交通事故を防ぐ為に高齢者には運転させてはならない」という今の世間一般の常識や考えが単にマスコミの報道に感化された“印象”に過ぎないのは明らかだろう。

 また、そもそも「高齢者の運転の特徴」などについても誤った報道やそれに基づく間違った印象が植えつけられているように感じる。

 こういうツイートも先日したが、加齢に伴ってクルマの運転が下手になるのは事実。私のように地方に在住していると、実際、毎日のように高齢者、それも杖をついているような高齢者の運転するクルマと遭遇するし、その危なっかしい運転ぶりもよく目にする。

 ただ、ここで目にする高齢者の運転による危うさもTVや新聞でよく報じられるような「アクセルとブレーキの踏み間違いによる暴走事故」とは全く違う、例えばハンドルを切り返すのが遅くなったせいで車庫入れが下手になり、駐車場で擦られるとかいった危うさなのだ。
ブレーキを踏むのも、周囲や信号を見るのも、全ての動作や反応が遅い運転、その代わりにスピードは出さずに異常にゆっくりな安全運転で逆にクルマの流れに乗れずに危ないような運転…そう、それは猛スピードや暴走といった危うさとは真逆、高齢者に日常よくある「モタモタした感じ」による運転の危うさなのだ。

 実際、この警察庁発表の最新データ「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」を見ても、75歳以上の高齢者の運転による死亡事故にはそうではない年代との大きな違いがある。圧倒的に「車両単独」の自損事故が多いし、それも工作物にぶつかったり、道路から逸脱したり、ハンドル操作の遅れやミスが多いのだ。

    ついでに言えば、池袋の事故のような「人対車両」の事故の割合は高齢者の方がそれ以外の年代の運転手よりも逆に少ないという事実もよく知っておくべきだろう。

 また、同じデータで事故の詳しい原因を見ても、やはり「操作不適」、つまり操作ミスが多いし、それも圧倒的に「ハンドル操作の遅れなどのミス」が多く、18%を占めているのが判る筈。

     池袋の事故も含めて、よく問題にされる「アクセルとブレーキの踏み間違い」は、プリウスのケースなどマシンエラーの可能性を調べもしない警察庁の数字でも6.2%に過ぎず、その件数も75歳以上の高齢者が26件、それ以外でも24件と、実際は高齢者だけに起きる問題でもないのだ。

   また、上の最新のデータでも判る通り、そもそも75歳以上の高齢者の運転による死亡事故の割合は、全ての死亡事故の内の12.9%に過ぎない。

    悲惨な交通事故死を防ぐ対策は必要だが、それを高齢者の運転の危険性だけに落とし込むのは、逆にマシンエラーの可能性を調べる事なども含めて、他の対策を見えなくするだけではないだろうか。

    勿論、認知症を発症した運転者による事故などは、高齢者でしか起こり得ないのだから、その対策は必要だが、それは高齢者だからと言って運転免許を取り上げ、クルマ社会から排除するということとは全く別の話の筈なのだが…。

                                                           ※photo by pixabay

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