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「象徴の務め」とは何なのか?


    平成天皇が退位して、新しい天皇が即位した訳だが、この一連の大騒ぎの中でもまるで耳にタコが出来る程に聞かされ、どうしても気になる言葉がある。それが「象徴の務め」なる言葉…

「日本国憲法」第一章 天皇
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く

  勿論、この「象徴」というのはここに書かれている通り、憲法に定められた天皇の役割のことなのだが、ではその「象徴」の「務め」とは一体何なのだろうか?

  先日、毎日新聞が掲載して、twitterにも流した記事なのだが、この図表を見て欲しい。この中の「活動の分類」や「主な活動」が、それこそ「象徴の務め」の具体的な内容になる訳だが、三通りある中の左側、渡部昇一や日本会議などの極右が主張する「宮中祭祀」などは、単に国家神道や大日本帝国下の天皇の役割を踏襲しているだけで、現行憲法20条の政教分離の原則にも反するし、論外。

    ただ、右側の平成天皇が主張する「象徴の務め」もやはりおかしいのだ。というのも、公的存在である以上は、その役割や活動には全て法的根拠がある筈なのだが、毎日新聞の言葉を借りれば、“地方や被災地の訪問、慰霊の旅などで国民と交流することで、象徴として受け入れられる”という行為には明確な法的根拠がない。あくまでも上にも書いた憲法第一条を拡大解釈したものに過ぎないのだ。

  更に言えば、天皇の活動や役割を具体的に定めた条文が、それこそその憲法上には存在する。

「日本国憲法」第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。

 これが天皇の「国事行為」であり、上の毎日新聞の図表で言えば真ん中の説ということになる。本来はこれだけが「象徴の務め」であるべきで、“地方や被災地の訪問、慰霊の旅などで国民と交流すること”などの活動に関する規定などは全く入っていないのだ。

    昔、大学時代、憲法が専門の教授に“天皇はハンコだ”と教えられたことがある。天皇は憲法によって法律の公布や議会の招集や解散など重要な仕事を国事行為として任されているし、天皇なしではこういったことが憲法上も出来ない。ただし、全ての国事行為に「内閣の助言と承認」が必要とされる以上、天皇本人としては言われるまま、何一つ決められない訳で、天皇は政府が決めた証拠として最後に捺すハンコ、印鑑に過ぎないというのだ。事実、法令や条約、詔書などの公文書に御璽や国璽といった印鑑を捺す事こそが、天皇にとって最大に重要な仕事と言ってもいい筈。

    ただ、天皇は戦後、「神様」でも「統治者」でもなく、政治的権力を持たない「象徴」となったとはいえ、生身の人間ではある訳で、それが単なる「ハンコ(印鑑)」だとされては自身もたまらないのは事実だし、ある意味、これほどの人権侵害もない。だからこそハンコとしての天皇の役目である「国事行為」にとどまらず、天皇自らが憲法に書かれた「象徴」の意味を拡大解釈。天皇という個人、「象徴」としての役割や活動を「象徴の務め」として押し広げていったのだろう。

  その結果、マスコミも憲法は勿論、法的な根拠も何もないというのに、“地方や被災地の訪問、慰霊の旅などで国民と交流すること”を天皇のもっとも大切な役割や活動として報じるようになったし、同じく何の法的根拠もない「公務」などという言葉を、それも天皇だけではなく、皇族にまで広げて平気で使うようになっていく。

   そして、それを国民の多くも何の疑問も持たずに、受け入れていく…これこそが平成天皇がこの三十年、行って来たことの全てだし、それは大成功したと言っていいだろう。

   「象徴」という、謂わばハンコでしかない形骸化した立場を憲法で強いられた天皇が安倍などとは違って一切の政治的権力もないまま、その「象徴」という空っぽの中身に様々な行為や言葉を詰め込み、「象徴」と名乗る天皇自らを実体化していった大変な作業にはそれなりの敬意を払わざるを得ないが、それは一種の解釈改憲である事実は忘れてはならない。

   そして、この天皇の「象徴の務め」なるものは、新しい天皇の下でも行われていく訳で、安倍のような政治家や権力者による政治利用の問題も含めて、もう一度、私たち国民が原点、つまりは日本国憲法に立ち戻って考えることは必要だと私は考えるのだが…。


                                            ※phot by 宮内庁ホームページ

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