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きっと、うまくいく(その2)

キットパスとチョークをつくる日本理化学工業の大山です。
noteをはじめて1か月がたちました。フォローやコメント、閲覧もありがとうございます。
自分の思いを発信できる場所であり、かつ、つながりを持てる場ということで、定期的に日本理化学工業という会社について、また経営者として私が感じることなどを発信してまいります。

さて今回は、前回に続く「きっと、うまくいく」をテーマにキットパス発売に至るまでのこと、キットパスを通して発信してきたいこと、についてお伝えします。



キットパス誕生までの長い道のり

日本理化学工業は粉の飛散が少ない「ダストレスチョーク」を製造し、チョークという部門の中ではシェアナンバーワンをいただいています。
昭和60年代までの、子どもたちが多く、小中高、大学、予備校、塾など、多くの教育現場で黒板とチョークを当たり前に使ってもらえる環境ではチョークに専念して製造販売することで、町の小さなものづくりの企業として社員を雇用し、ある程度利益を追求することができていました。
しかしそれが長くは続かないであろうことは明らかでした。
これから来る少子化の時代。
私たち製造メーカーとしては、常に危機感がありました。
学校でも『チョークと黒板』、から『マーカーとホワイトボード』へと大きく変化していく時でした。

キットパスの前身「ボードチョーク」


そうした中で考えたのが、まず「ボードチョーク」という商品でした。
ホワイトボードに書くチョーク、というコンセプトです。
しかし、チョークを作る自分たちメーカーが、対抗するホワイトボードに書けるチョークを作ることで黒板とチョークの使用機会を自ら減らすことになってしまうジレンマもありました。
粉の飛散が少なく、揮発臭のしない「ボードチョーク」への挑戦は、つるつるとした平滑面に文字を書く、という日本理化学の新しい挑戦でした。

時期を同じくし、世の中にはポケベルから、次第に携帯電話(ガラケー)、スマートフォンが一気に普及していきます。学校などの教育現場でも、ホワイトボードに次いで電子黒板も普及し始め、ますますチョークが使われない時代になっていきました。 

文房具?画材?子ども用?

「ボードチョーク」の開発、販売に動く中で、どうしても消去性などの課題も明確になってきました。ホワイトボード用のペンであれば専用のクリーナーで簡単に消去が可能ですが、「ボードチョーク」の場合、筆感がクレヨンに近く、水で濡らしたクリーナーで消去することも、時間がかかりました。黒板とチョークを超えて普及するような商品になるのは、版面への色ののり、書き味、消去の手軽さ、簡易性…と様々な課題をクリアしなければなりませんでした。
そこで方向転換になったのが、「窓ガラスに描ける」商品の開発でした。
画用紙やノートに絵を描くとき、当たり前のことですが机の上に紙などを用意して描きます。
お絵かきが自宅の窓ガラスにできたらどうでしょうか。自宅の窓ガラスをキャンバスに、空や外の景色を見ながら腕を大きく使って絵を描くのです。
ずっとのびのびした、創造力の広がる大きなキャンバスになるのでは、と「窓ガラスに描ける」商品の開発が始まりました。
キットパスを作るにあたっては、産学連携ということで川崎市や早稲田大学の先生にも多大なるご協力をいただきました。
商品化に向けて試行錯誤を繰り返し、2005年、ついに窓ガラスに描ける、というこれまでの筆記具(マーカーやクレヨン)にはないコンセプトの絵具(えぐ)がこうして誕生しました。

販売を開始したものの…「売れたら持って来て!」

窓ガラスに描ける?
水拭きで消せる?
全く新しい絵具であるキットパスは、発売当初は店舗に置いていただくことも難しい商品でした。
一般的なクレヨンと比べた価格から、「“子ども用のクレヨン”がどうしてここまで高いのか」と、価格を理由に扱っていただけない、
文房具の展示会で説明をしても「キットパスねえ、売れたら持って来て」と悔しいお言葉もいただきました。

文房具の業界はメーカーが作り、問屋さんに卸して、そこから販売店さんに流通していく業態であり、まず問屋さんにご理解いただかない限り、まったく商品が動いていかないのです。
新商品を問屋さんにご紹介し、取り扱っていただくための文房具の展示会でまったく受け入れられないー
正直心が折れそうな毎日でした。

ドイツの展示会が転機に

そのころ、親しくさせていただいているメーカーさんからお声かけいただき、海外の展示会に出展できる機会を得ることができました。
それがドイツの展示会でした。
キットパスの持つ意味や商品、会社のこと、ドイツでは当たり前の環境配慮についてもお客様にじっくりと説明をすることで、大変好意的に受け入れていただくことができたのです。
この時私は思いました。
歴史ある有名な老舗文房具メーカー(万年筆のモンブラン、ステッドラー、スタビロ、ラミー、世界最古の筆記具の老舗ファーバー・カステルなど多数)が揃うこのドイツの地で認められたらきっとキットパスはうまくいく、と。
日本でなかなか商品が認められない中、ドイツでの反応は私に勇気を与えました。

「キットパスは、きっとうまいくいく」と信じて20年。
おかげさまで少しずつ認知いただけるようになり、私たちが継続してきた障がい者雇用の取り組みや経営理念とともにメディアにも取り上げていただける機会が増えました。
キットパスがもつ自由さや、評価をしない「楽描き(らくがき)」ということも、少しずつ共感いただけるようになったと実感しています。

私たちがものづくりの会社として大切にしてきた
・障がい者雇用を絶対に続けるという思い
・環境に配慮し、ひとにも地球にもやさしいものづくり、を発想のベースにしてきたこと
これらがキットパスという商品に集約されています。
 2023年、そのドイツでキットパスが世界3大デザイン賞といわれるiFデザインアワードを受賞。私にとっても感慨深い受賞となりました。

キットパスへの思い

2024年2月に発売したkitpas by ARTIST


約20年、自分たちの思いを貫いて成分やパッケージの改良、お風呂で使用できるシリーズやフェイス&ボディペイントなどの展開をしてきたキットパス。
いつも感じているのは「キットパスは人と人とを不思議とつないでくれるもの」ということです。
机に向かって描くことでは得られない体験、ガラスに立って描くということで、自然と人が集まってくるー
キットパスは不思議な力を持つ画材だと感じてきました。

キットパスはきっとうまくいく。
このことを一貫して発信してきました。
そして今、このキットパスを世界ブランドにするという思いとともに、誰もが働く幸せを感じられる社会の実現や、仕事をする場所での障がいの有無による区別のない社会を目指すことなど、私たちが発信したい思いがますます強くなっています。
 
みなさんが信じること、叶えたいことはどんなことでしょうか。

与えられた一度しかない人生です。
どんなことも「きっとうまくいく」と信じて、まず行動してみませんか。
一歩踏み出した先に見える景色を、自分自身で楽しんでみてほしいという思いが、キットパスという商品を通じて一人でも多くの方に伝わればと思っています。

「あなたに1本の自由を。」
「自由へのパス。キットパス。」

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

日本理化学工業(株)
大山隆久

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