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平成を映す小説ベスト30に村上春樹作品の『1Q84』『ねじまき鳥クロニクル』が選出

村上春樹作品をちゃんと読み始めたのは高校生の終わり頃から大学生に入った頃だった。ちょうど『ねじまき鳥クロニクル』が刊行された頃で、当時の僕には難解すぎた。『ノルウェイの森』でひどく心が揺さぶられたのは、自分が主人公と同世代だったかもしれない(今もなお大学生の内に読むべきだと若者に伝える作品の一つである)。

自分はいわゆるハルキストではない。
作品の好き嫌いもあるし、村上春樹の考え方には共感する部分もあれば理解できない部分もある。そういう部分も含めて、この時代に必要な作家であるとは強く感じている。

冒頭の記事にもあるように平成の30冊の1位に選ばれたのは『1Q84』である。2009年に刊行されたこの作品は、10位に選出された『ねじまき鳥クロニクル』と近しい部分がいくつかある。ごく個人的には、「平成を映す」という点においては『ねじまき鳥クロニクル』の方が適しているのではないだろうか、と思った。
しかし、細かなシーンを比較してみたり、思い起こしたりすると、このどんよりした空気をまとった平成という時代を象徴しているのは、なるほど『1Q84』なのかもしれないと納得したのも確かである。

人生のもっとも輝きある時間を平成の30年間で過ごした身としては、自分が選んできたことにも、人生で出くわしたできごとにも、時代の空気というものは常に側にあった。
インタビュー内で村上春樹が「不穏なバイブレーション」と表現したような ”漠然としたいやなもの” がそれなのかもしれない。

どちらが良いか悪いかが言えない場合、大事なことは何かを考えます。
(略)善なるものや正しい意識に動かされる人も多いけれど、悪と善が入り組んでいる時もあって、とても難しい。

コミュニケーションというごく日常的な行為の中に潜む様々な感情。

"青いティッシュペーパーと、花柄のついたトイレットペーパー" について説明しようとしても "説明しなくてはそれがわからんというのは、つまり、どれだけ説明してもわからんということだ" ということに収束していく。

できるだけ清く、正しく生きたいと願いつつ、自らが信じる正義とやらが誰を導き、守るものなのか、誰を傷つけるものなのか、僕たちはわかっているようでわかっていない。

平成という時代が過去になろうとしている。昭和の空気をまとったまた平成の30年間で大人になった僕は、次の世代に対してどのような言葉をかけ、態度を示していくべきなのか。それもまた物語によって見つけ出していかなければならないのだろう。



小説や新書、映画や展覧会などのインプットに活用させていただきます。それらの批評を記事として還元させて頂ければ幸甚に存じます。