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沈黙は金なり

高次脳機能障害によってワーキングメモリーが少なくなってしまった私。
今回それを"強みですね"と言われる場面がありました。
自分では気が付かなかったけれど、もしかしたらそうなのかも?
そんな出来事を綴ってみました。



声の大きい人が勝ち?

声の大きい人や多くの情報を放出する人が印象に残るせいか、大声でまくし立てるように話す人をテレビや実生活で目にすることが多い気がします。
でもそれが果たして"勝ち"なのでしょうか?

会話をしていてテンポよくレスポンスが返ってくる人に出会うと、
「この人は頭がいいんだな」
「羨ましいな」
くも膜下出血を起こす前からそう思うことが多々ありました。

もともとそんなに頭の回転が早くない私。
高次脳機能障害を負って更に速度は遅くなり、人と会話をするときに相手が不快になっていないか不安を感じるようになっていました。

でも、本当にレスポンスの速いことが全てなのでしょうか?

慎重な人に出会って

今担当してくださっている療法士さんはとても慎重な方だという印象があります。
何か質問をしたときに一呼吸置くような感じがあり、しばらく考えた後にお返事されたり、リハビリが終わってからメッセージで下さることもあります。また、
「次回までに調べてお返事します」と仰られたりもします。

その姿勢は慎重かつ真摯だなといつも関心しています。
そしてそれだけに、この方の言葉なら信頼できると感じられます。

物静かな方なのでもちろん大きな声で仰られることもありませんし、多弁な方でもないと思います。
でもその言葉には重みがあるという印象を受けています。

だからレスポンスが速いだけが全てではないのかもしれない、そんな風に思いました。

人の話を聴いてみて

私は病気になる以前、一対一で人のお話を聴くという仕事をしていました。
傾聴のような仕事というとわかりやすいでしょうか。

この時にも即座に適切なレスポンスが出来ないことが私の悩みでした。
相手は一般企業の方が多いため、ビジネス書を読んでみたり啓発本を読んでみたりしましたが、今一つしっくり来ませんでした。

相手の話を聞きながら「なんて返すのがいいのだろうか?」
頭の中はそんなことをぐるぐる考えていた気がします。

ワーキングメモリの低下した頭で

くも膜下出血となり高次脳機能障害を負ったため私の頭はワーキングメモリが低下した状態となりました。

最初は高次脳機能障害とわからなかったため、気にも止めずに仕事をしていました。
実際にやって"あれ"と思ったのは以前のように聞きながらスラスラメモが取れないことでした。取れるのは単語がやっと。それよりも話を聞くことに専念しなければなりませんでした。

でも、意外にも"話が聞けた"という感触が私にはあり、相手の方の感想でも"聞いてもらえた"と評価して頂けていました。

高次脳機能障害とわかって

日常生活で感じる異変から高次脳機能障害とわかり、手帳を取得しました。不思議なことにそうとわかると
ちゃんとメモが取れなくて大丈夫だろうか?
大体きちんとレスポンス出来るのだろうか?
急に仕事をすることが怖くなってしまいました。

そんな訳でしばらく仕事からは遠ざかっていました。
その代わりという訳ではありませんが、何度か対話会のようなものに顔を出したりしてみました。
仕事はダメでも、そういうものならば上手くレスポンス出来なくても問題ないだろう、そう思ったからです。

そうしたところ、ある時同じグループのメンバーから
「なんの問題も無いと思う。みんなの話も理解し発言できている。何より人の話をちゃんと聴けてるのが素晴らしいと思う」
そんな風に言ってもらえました。

ちょっと勇気をもらえたこともあって、顧客とでは無く、"社内の人の話を聴いてみよう"というプログラムに参加してみることにしました。

プログラムに参加して

すでにある方のお話を3回ほど聞き、先日4度目のセッションがありました。
話しを聞くことに集中しないと以前のようには出来ない。
その思いからメモはキーワード程度。次に自分が何を言うかより、
"相手が何を言っているのか・言いたいのか"それを聞くことに専念しました。

そして私のレスポンスといえば、ちょっと考えてからとタイムラグのあるものとなっていました。
私の側としては"妙な間がが出来てしまった…"だったのですが、セッションが終わった後に送られてきた感想は意外なものでした。

それは
"沈黙の時間が考えを整理する時間のように思えて信頼へとつながっています。"というものでした。正直ほっと胸を撫で下ろしました。

それと同時に、沈黙の時間が信頼につながることを療法士さんを通して実感出来ていたので、その言葉を素直に受け取れたそんな気がしています。

言われて気付くこと

施術中に、この経緯を療法士さんにお話をしたところ
"それは強みですね"そう言って頂けました。
高次脳機能障害が強みになるなんて思ってもみないことでした。

でも、確かにそう言われると、余裕がなくなったからこそ聞くことに専念でき、聞くことから聴くことにシフト出来るようになった気がします。

そして何より自分では気がついていなかったこと、それが"強み"であることを教えて下さったことがありがたいと思いました。

これから仕事に復帰できるかどうかは別として、速いレスポンスだけが素晴らしい訳ではないこと。多くはないとは思いますが、高次脳機能障害を強みにでき得ることもあるのだ、と知ることが出来たことは大きな収穫であるそんな気がしました。