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「&So Are You」第一話

《あらすじ》
一九六三年ミズーリ。代々トウモロコシ農家を営むベンの住む田舎町へやって来たハンナは、初対面でズケズケものを言う嫌味な女だった。母親を亡くし、フィラデルフィアでの美術教師の職を辞めてきたという。ベンたちのさぼり場である湖の景観の美しさに心を奪われたハンナは、そこをアトリエ代わりに通うようになる。絵は心で描くものと熱く語るハンナにベンは惹かれていくが……。(★R15指定)

プロローグ


 照りつける太陽の光が、僕の背中をローストターキーの表面のようにこんがりと焼きつける。
 目前に広がる湖面には零れんばかりの光の粒が溢れ、宝石箱を埋め尽くしたダイヤモンドみたいに煌めいていた。

 この場所で共に長い時を過ごした僕たちは、なにひとつ色褪せることなく同じ輝きを放っているはずだ。
 すべてあの頃のままに。

 そうして君も、あの日のキラキラした笑顔のままで……。

 耳を澄まさなくても今でも聞こえる。酷い耳鳴りと張り裂ける悲鳴が、銃声や爆撃音のように僕を襲い続けている。

 常に気持ちを集中させていなければ、僕の意識なんてあっという間にバラバラになって、悔悟かいごと深い孤独の穴に閉じ込められてしまうよ。

 この退屈な町から抜け出せるなら、なにを失っても良いとさえ思っていた僕は、文字通りすべてを失って帰ってきた。

  Roses are red, バラは赤い
  Violets are blue, スミレは青い
  Sugar is sweet,  お砂糖は甘い
  And so are you. そうして君も

 君と過ごした思い出だけが今も鮮明に色づいていて、そしてお砂糖のように甘い。

 ねえ、ハンナ。

 僕はあの頃の君のように、真っ白なキャンバスに君が大好きだった湖の風景を描いている。
 町の子供たちは、そんな僕を見て驚いているよ。まるでピカソのような絵だって。

 僕はその人の絵を見たことはないけれど、町の子供たちが名前を知ってるほどに有名な画家なら、きっと才能に溢れる素晴らしい人なんだろうね、君のように。

 君の目にも、そんな風に刺激的に見えているかい? 

 初めてこの町で君を見つけた、あの頃の僕と同じくらいに刺激的に……。

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