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アゲリシャスなキウイブラザーズを生んだのは2児の母だった

「次の日経を考えるチーム」では記事連載企画「U40の匠」をはじめました。活躍する若手社会人の働きぶりに迫ります。ぜひ読んで感想を聞かせてくださいね。
今回は「キウイをスターにした女」ゼスプリの猪股可奈子さんです。

もしあなたの会社が「好調」だったら、もっとチャレンジするだろうか。その状況に安住してしまわないだろうか。ゼスプリインターナショナルジャパンのマーケティング部長、猪股可奈子の場合は前者を選んだ。そして大ヒットキャラクター「キウイブラザーズ」を生みだす。

「U40の匠」とは 各界で活躍する40歳未満(Under40)の若手社会人を「匠」(たくみ)と位置づけ、彼らが残してきた足跡に迫る連載企画です。

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「キウイは酸っぱい」とリンゴやバナナにからかわれたキウイが涙を流す。2016年に誕生した「キウイブラザーズ」のテレビCMの一幕だ。驚くことに、猪股がゼスプリに入社した15年当時は、会社の認識は全く異なっていた。「世の中の人は皆キウイ好きだよね」が社内の常識だったという。

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日本人の果物消費量が減少傾向にある中、実は国内のキウイ市場はほぼずっと右肩上がり。しかもゼスプリは高いシェアを誇っている。その現状に不満を抱えている社員はいないようだったが、猪股の考えは違った。「伸びしろたくさんあるじゃん」

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入社して最も違和感を感じた点は、会社で消費者の観点から話している人がいないことだった。ゼスプリは株主全員がニュージーランドのキウイ生産者。社員にとってもキウイは「神様」のような存在だ。会議で「消費者にキウイはどう思われているんですか」と発言すると不思議な顔をされたという。

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「キウイのことなんて消費者はそんなに考えてないですよ」。猪股はここに切り込む。当時、社内では日本市場は年間販売量2000万トレー(1トレーは約3.5キロ)には届かないとみられていたが、猪股は「まだいける」と踏んでいた。そのためには会社に消費者を理解してもらう必要があった。

ほぼ一人で消費者調査を始め、「日本でキウイを年1回以上購入している人は全体の半分以下」などの「証拠」を積み重ねた。社内理解を得ながら、ステージを消費者とのコミュニケーション戦略へと移していった。

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調査を重ね、キウイは世間から「見た目が地味」や「何で食べないといけないかわからない」「酸っぱい」などとみられていることも明らかにしていく。芸能人を起用したCMを長年放映し知名度は上がったが、キウイ自体のおいしさや栄養はあまり伝わっていなかったのだ。

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「消費者の印象に残ってるのは芸能人ばかり。コミュニケーションの中心にキウイ自体を据えるべきでは」。半年弱、社内で消費者理解の啓発活動を続けながら、ようやくキャラクターでキウイの魅力を伝える構想にたどり着いた。

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400以上のキャラクターをチームで研究し、キウイを主役にするならどういう見せ方が最適か考えた。「大人にも子供にも愛される」「中身が見える」など、調査結果からポイントを定めた。キャラの候補はいくつかあったが、「キウイブラザーズ」がチーム内では満場一致で選ばれる。

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最大の壁はここからだった。「今まで一流の芸能人を起用していたのにキャラクター?」外国人上司の理解はなかなか得られなかった。猪股は日本の「カワイイ文化」についてや、消費者調査の結果でもブラザーズの評価が良いことなどを多方面に説明、ようやく説得にこぎつける。

上司の心配をよそに、ブラザーズはたちまち人気者となる。人気は海を越え、韓国やオランダ、ドイツでも採用されるなど異例ずくめだ。18年度の販売量は、過去最高の約2800万トレーとなった。

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目覚ましい成果を上げても、猪股はいたって冷静だ。これ以上急激な成長は逆によくないと考え、「持続可能な成長」を探る。農業という自然をコントロールできないビジネスの場合、急激な成長にはリスクも伴うからだ。「持続可能性」はチームのマネジメントにも表れている。常に「7割の力で仕事をするように」呼びかけており、なるべく残業はさせない。

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一方、部下の水谷かやのによると猪股自身は、「いつ寝ているのかわからないほどのスーパーウーマン」だ。その原動力は「常に現状に満足しない」こと。「世の中が変わっているのに同じことをやっていても仕方ない」という。実はもうすぐ産休に入り3児の子育てが待っているが、「仕事はどこでもできますよ」とさらりと話す。このあたりがスーパーウーマンのゆえんだろう。

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