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元プロ野球選手の小林至氏が教えるプロ野球ビジネスの要とは

皆さんこんにちは。昨日はプロ野球のドラフト会議がありましたね!!注目の佐々木選手はロッテでした。皆さん、予想は当たりましたでしょうか。今日はそんなプロ野球のビジネスについての秘蔵インタビューを公開しちゃいます。

8月末から9月にかけて日経電子版で連載した「U40の匠」、皆さんご覧になっていただけましたでしょうか?その中でご登場いただいた元プロ野球選手で、江戸川大学教授の小林至氏のスペシャルインタビューをお送りします!!

小林

インタビューのポイント
①プロ野球ビジネスの要はチケット!!
②チケット営業は選挙と同じ。支援者の名簿をつくろう
③属性をとって顧客が喜ぶ施策を打とう
④満員のスタジアムを演出

あ、「U40の匠」まだ見ていない人はぜひチェックしてくださいね!!小林さんが登場する回はこちらになります↓↓

それではインタビューをどうぞ!!

チケット収入は全体の約3割

――プロ野球ビジネスの要とは何でしょう?

もちろんチケットビジネスです。もともと、チケットはスポーツ興行の原点。日本のプロ野球の場合でも今も大きな割合を占めています。私の推定では収入全体の大体33%、米メジャーリーグではほぼ4割を占めています。野球興行は毎日やるので、入場料というのは金額としても大きいですしね。
プロ野球は、世紀の変わり目くらいまでは巨人戦を核としたテレビ放映権ビジネス、コンテンツでした。しかし、しだいに地上波で映してもらえるコンテンツではなくなってしまった。テレビに映らなくなった結果、当然試合を見に来る人は減っていきました。

――プロ野球経営はどのように変わっていったのでしょうか。

そんな放映頼みの状況に変化をもたらしたのが、ダイエーホークス(現ソフトバンクホークス)でした。親会社の経営がかたむく一方、球団は、九州唯一のプロ野球球団として地域の認知が高まっていました。地域密着を掲げて誕生したJリーグの影響もあったでしょう。来場した観客に満足してもらい、また来てもらうという戦略をとりました。

コンシューマー・ビジネスの原点に立ち返ったということですが、ホークスの地場戦略は見事にあたり、ローカルコンテンツとして野球が根付きはじめたのです。その成功を見て、日本ハムファイターズが東京から札幌に移転し、楽天が本拠を仙台に構えるなど、パリーグを中心に地域密着路線の輪が広がっていきました。

地域密着というのは、チケットの営業でいうと選挙と同じような仕組みです。例えば、選挙では地域の支援者をつくって組織化し、名簿化して支援の輪を広げていきますよね。プロ野球ビジネスも同じです。スタジアムを満員にできるように地元企業や地域の関係者の名簿をつくって、チケット販売の営業をかけます。手間がかかりますが、名簿がたくさんあればチケットの売れ行きが悪い場合でも、名簿にある企業などに購入をお願いして売り切ることができます。

地元の企業との関係が築けているからこそできることで、欧州サッカーのようなグローバル展開をしているスポーツでも、来場客の中心は地元の住民ですからね。まずはビジネスの範囲をローカルに絞り込んで、足場を固めるのが重要です。選挙でも、地方選で首都圏の討論をやっても意味がないですからね。地域密着、地域の方々に愛されることが大事です。

ビジネスの基本は子供と女性

――名簿をつくっただけでは、球場に来てもらうことは難しいですよね。

名簿を作る際、CRM(顧客関係管理)の観点を持つことも重要です。単なる名簿でなく、属性を取る。メールアドレス、性別、年齢、収入、嗜好など、個人情報の取り扱いに注意しながらですが、属性に合わせた案内を、メールやファックス、SNSなどを通じて地域の顧客にリーチできるようにするのです。

野球は来場客をカスタマーとしたBtoCのビジネスです。来場客が何を不満と感じ次は来なくなるのか、何に喜んで来てくれるのかを分析します。顧客の満足が得られれば、次は友達を誘って来てくれます。

どういった層を狙うかは球団によって違いますが、ビジネスの基本は、子供と女性です。子供については、三つ子の魂百までの格言通り、子供の頃の嗜好は長きにわたりますし、ライフタイムバリュー(LTV)の観点からもそうです。子供が行きたいといえば、親もついてきますしね。女性については、家族における消費の決定権を持っている場合が多いのと、消費性向は男性よりも高い。広島カープのカープ女子は、女性にささる施策を通じて女性の来客を促しています。

面白いのはべイスターズで、立地の関係から来場客はサラリーマンが多いという調査に基づき、そこにフォーカスした。ビール開発などにも取り組んでいますよね。顧客の顔が見えれば、あとは満足を得られるように施策を打つ。やることはどこも基本的に一緒です。

チームが弱くても熱気は作れる

――野球ファンではない場合、最初から「よしチケット買うぞ」とはならないような気がするのですが。

これも選挙と同じで、支援者の輪を広げることですよ。面白いから一度行ってみようよ、と言われて来てはまるというパターンが王道です。そこで重要になるのが、スタジアムの雰囲気づくりです。

演出も大事ですが、なんといっても満員のスタジアムが醸し出す熱気が一番です。お客さまは、がらがらのスタジアムに価値を感じません。お金出してまで行く必要はないと感じたり、いつでもチケットとれると思ったりすると「買わなくていいや」と感じてしまいます。そうならないようにスタジアムを常に満員の状態に持っていけば、「あそこのチケットをとるのは簡単ではないぞ」となり、前売りチケットを買ってもらいやすくなります。

では、どうやって熱気あるスタジアムをつくるか。ベイスターズが証明したように、チームが弱いから熱気あるスタジアムがつくれないということはありません。満員のためのしかけが、例えば企画チケットです。ホークスでは毎年「鷹の祭典」という期間を設けています。

「鷹の祭典」では、観客にレプリカのユニフォーム配って、選手も観客も皆で着ることで、福岡の町が一つの色に染まるんです。野球ファンでなくても、皆で同じことをわっしょいわっしょいとやっていると気持ちがよくなる。要はお祭りですね。「鷹の祭典」チケットは通常よりも高いですが、瞬間蒸発するほどの人気です。今では12球団全部で企画チケットを販売していると思います。

運営・営業権取得は重要

――全球団で取り組んでいるということですが、球団によって成否にばらつきがあるように思います。

そうですね。上手くいっていない球団は、球場の運営・営業権の問題を抱えている場合があります。例えば、ホークスには「タカガールデー」という企画もありますが、その際には広告看板、電光掲示板なども全部ピンクにしてしまいます。こういったしかけは、球場の運営・営業権がないと難しいんです。運営・営業権がないと、球場の蛍光灯一本かえることもできないような場合もあり、非常に不便です。

ベイスターズは横浜スタジアムの経営権を取得したので、それができるようになったことは非常に大きかったと思います。日ハムの札幌ドームやヤクルトの神宮球場はそれができず、歯がゆい思いをしているようですね。

このように、スポーツビジネスは、ゲームを面白くすることだけが成功の秘訣ではありません。特にプロ野球は、球団が地域や球場と密接に関わってこそ上手くまわっていく。興味深かったのが、改革が東京発ではなく、福岡や北海道といった通常のプロセスとは全く逆の辺境から起きたことです。地元のお客様を大事にするという観点を持ったからこそできた改革でしょう。

小林 至(こばやし・いたる)
江戸川大学教授・博士(スポーツ科学)。92年、千葉ロッテマリーンズにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌94年から7年間、アメリカに在住。その間、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)を取得。2002年より江戸川大学助教授(06年から教授)。05年から14年まで福岡ソフトバンクホークス取締役を兼任。テンプル大学、立命館大学、桜美林大学、サイバー大学で客員教授、一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)理事。1968年生まれ。神奈川県出身。
近著『プロ野球ビジネスのダイバーシティ戦略』(PHP)など著書、論文多数。家族は妻と2男1女。


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