CIIDのデザインリサーチを学びながら、シンガポールの交通サービスを考えた話

CIIDというデンマークにあるデザインスクールが主催する勉強会がシンガポールであったので、興味本位で参加してきました。3日間かけてデザイン思考に基づいたリサーチ、分析、プロトタイプ、テストを学ぶワークショップでした。

〜 目次 〜
1. 概要:参加理由、プログラム、リサーチテーマ、チーム構成
2. デザイン思考:定義、マインドセット、プロセス、タッチポイント
3. リサーチ:リサーチ手法、Tips
4. 分析:Synthesis、How Might We、CRAZY 8S
5. プロトタイプ:Concept Development、Experience Prototyping
6. テスト:チェックリスト、プロトタイプ検証
7. まとめ:Service Blueprint、グループプレゼン
8. 感想:理想と現実、異文化理解

1. 概要

なぜ参加したのか

今年はフィリピンでユーザーインタビューしたり、海外オフィスのUI/UXデザイナーと協業する機会が増えてきて、もっと英語でデザインすることに慣れたいという気持ちが強くなっていました。

また、座学だけではなく、街でインタビューしたり、CIIDの講師からフィードバックを受けながらリサーチや分析を学べるプログラムが魅力的だったので申し込んでみました。

プログラム

・1日目:デザイン思考、フィールドワーク
・2日目:インタビュー分析、プロトタイプ作成
・3日目:プロトタイプ検証、グループプレゼン

デザイン思考やリサーチ手法のレクチャーを受けつつ、お題に沿ってグループワークをしたり、街に出てインタビューをする内容でした。

リサーチテーマ

2025年までに、シンガポールの民間交通機関の利用率を減らし、かつ生活の質を改善するためのプロダクト / サービス / システムをデザインする。

自然環境にも市民にも優しい持続可能な社会をつくりたいから、交通事情を改善できないかを考えていく感じ。↓英語原文だとこんな言い回し&背景。

チーム構成

広告代理店のアートディレクター2名、マーケティング会社のコンサルタント1名、そして私(教育系事業会社のUIデザイナー)の計4名で取り組んでいきました。みんなシンガポール人の女性で30代後半くらい。

2. デザイン思考

デザイン思考とは

まずはデザイン思考の定義についてレクチャーを受けました。

サービスづくりにおけるデザイン思考は、「作れる」「儲かる」起点ではなく、人々・生活を調べて理解した上で「人々が抱えている問題や望んでいるもの」をみつけて、サービスに落とし込んでいくという考え方をします。

「人はそれを欲しがるだろうか?それは人々の生活に重要なものだろうか?(中略)人々の欲求から考えるからこそ、人々の潜在ニーズを見つけ、デザインすることができるのです。」
引用:IDEO Designing Human Experiences

デザイン思考は、Desirability・Feasibility・Viabilityからなっており、イノベーションはこれらが重なる部分で起こるとされています。

「まずはユーザーにとって、つまらないか / 価値があるかどうかという視点で判断してみる。デザイン思考は、デザイナー以外の人達と一緒に、クリエイティブなアプローチを考えられることに意義がある。」と講師が話していました。

人々と対話・観察して得られたヒントが、問題定義したり、意思決定するときの良き判断材料にできそう…という解釈でいいのかな。

(参考:People-Centered Design を活用するために大切な事

マインドセット

次に「デザイン思考ではどう物事を捉えていけばいいのか」について話していきました。

・Holistic(全体的)
個別・局所的すぎる視点ではなく、全体最適・構造的に捉えていく
・User-Centered(ユーザー中心)
人々の行動、コンテキスト、モチベーションや願望を理解する
・Visual Thinking(視覚的思考)
図解、イラスト、写真&動画などを活用して視覚的にアイデアを共有しあう
・Co-Create(共創)
デザイナーだけでなく、スタッフやユーザーと一緒に解決案を考えていく
・Reframe(再構成)
Whyを何度も考え、関連情報&優先度を整理して、問題定義する
・Test & Iterate(検証&反復)
過去や失敗から学び、検証⇆改善を繰り返していく

…要するに「ビジュアルでアイデアを分かりやすくしたり、検証・改善を繰り返して、視野広く考えていきましょう」な感じっぽい。

デザインプロセス

続いて「デザイン思考をどう実践していくか」の流れを把握していきました(引用:People-Centered Design by Arvind Sanjeev

1. Research(調査)
インタビューやフィールドワークなどをして、データを集める
2. Analysis(分析)
データからインサイトを抽出し、そこからニーズや課題の方向性を設定する
3. Ideation(観念化)
アイデア出しあい、解決案のコンセプトを考える
4. Prototypes(プロトタイプ)
コンセプトを元にシナリオやプロトタイプを作成する
5. Testing(検証)
実際にユーザーにプロトタイプをさわってもらって、改善点を見出していく

具体的にどうやっていくかは、この後テーマを交えながら述べていきます。

タッチポイント

リサーチに入る前に、ユーザーとサービスとの接点(タッチポイント)について学びました。ユーザーの行動が、サービスにどう関わっているかを理解し、体験設計するときに役立てていきます。

(引用:タッチポイントを正しく理解し、インタラクションを設計する

3. リサーチ

リサーチ手法

今回紹介された手法は以下4つ。状況に応じて組み合わせて活用します。

1. In-Depth Interview:1対1で時間をかけて深く掘り下げて聞く
2. Intercept Interview:街頭で通りかかった人に話しかける
3. Participant Shadowing:ユーザーの背後で行動を観察する
4. Immersive Experiences:サービスを実際に体感して、ステークホルダーのニーズを理解する

リサーチ中に意識しておくべきこと

①サービス体験
・すべてのタッチポイントに注目する
・聞いた & 見たものを記録しておく(ex. 写真、動画、録音、メモ)

②様々な視点を聞く
・ユーザーのモチベーションを理解する
・少なくとも6人はインタビューする

③質問の仕方
・Yes / Noで答えられる質問は避ける
・自由回答式の質問(Open-ended question)をする
・過去にやった行動、ストーリーを引き出す

シンガポールの交通事情を調べる

リサーチテーマ

2025年までに、シンガポールの民間交通機関の利用率を減らし、かつ生活の質を改善するためのプロダクト / サービス / システムをデザインする。

事前に用意された資料から、調べたい交通機関を1つ選んでいきます。

1. Uber / Grab
2. Taxi
3. Public bus
4. MRT(地下鉄)
5. Bike sharing

私のグループでは「1. Uber / Grab」を選択し、以下3つを考えてからフィールドワークへ。

①場所:どこで調べるのか?
人が多そうなショッピングセンター、スーパー、タクシー乗り場

②対象者:誰にインタビューしたいか?
若者、ビジネスマン、お年寄り、家族連れ(男女&年齢をバランスよく)

③質問ポイント(3 key questions)
・利用シーン:どんなときにUber / Grabを使ったことがあるか
・満足度:使ってみて快適だったか
・代替手段:公共交通機関(MRT / バス)、自家用車との使い分け

Uber / Grab

シンガポールではGrabが人気とのことなので、実際にアプリをダウンロードして使ってみました。乗車中には運転手にインタビューしてみました。

タクシー降りたら、ショッピングモールや道行く人に声をかけていきました。

私たちは「Grabを使う人は、テクノロジーに明るい若年層や、移動が大変そうな子供連れの家族利用が多いのでは」と推測していたので、まずはビジネスマンに声をかけたり、子連れのお母さんにインタビューしていきました。あとは年配の方や店員など、時間の許す限り、声をかけていきました。

Bike sharing

Grab担当でしたが、せっかくなので後日シェアサイクルに乗ってみたり。

4. 分析

フィールドワークで得られた定性データを、各フレームワークに応じて、分析していきます。アイデアを広げたり、分類したり、違う視点で考えることを繰り返して、リサーチテーマの解決案を見出していきます。

(引用:What’s the value of design for businesses? Here are the hard facts

Documentation(リサーチデータをダウンロードする)

インタビューやフィールドワークでのインプットを、ドキュメント化していきます。事実(話したこと&見たもの)と推測を、各カラーのポストイットに書き分けていきます。

User Journey Mapping(ユーザージャーニーマッピング)

タッチポイント(ユーザーとサービスとの接点)を、イラストで表現していきます。ユーザーが、サービスについて感じる可能性のあるインタラクションを洗い出していきます(オンライン・物理的なやりとりがないものも含む)

・Human:人間同士 / ステークホルダーとの関わり
・Physical:身体的 / 物理的なやりとり
・Screen-based:Web / アプリを活用しているとき

上記3つの体験を、サービスの利用前・利用中・利用後ごと書き分けます。

それぞれの利用シーンごとにPositive / Negativeに曲線を描きながら、どんな感情を抱いたのかをチーム内で話しあっていきました。

Synthesis(グループ分けして、インサイトを抽出する)

Documentation(会話・観察・推論)で書き出した内容から共通パターンを見つけて、テーマごとにグループ分けします。

各グループごとの内容を洞察しながら、インサイトを考えていきます。
インサイトを考えるときは、Whyを何度も繰り返し、なるべく具体的かつ一般的な文章に落とし込んでいきます。

悪い例:
地下鉄には駐輪スペースがあまりない。

良い例:
多くの旅行者は、視覚的な許可が分かりやすい&乗り換えがしやすい交通手段を好む。ただほとんどの旅行者は、観光客がめったに来ないエリアと市内中心部との行き来に関しては、複数の交通ルートを使うことを考慮していない傾向にある。

(参考:Design Research From Interview to Insight: Part Two, Synthesising Insight

How Might We Question(解決案の方向性を考える)

「私たちはどうすれば◯◯できるだろう」というフォーマットに当てはめて、解決したい問題を定義していきます。ゴール、制約、ターゲットユーザーをそれぞれ分けて考えることで、問題設定をすりあわせていきます。

(参考:デザインにおけるHow Might Weとは何か:具体例とその効果

CRAZY 8S(ブレスト)

次に解決案のアイデア出しをしていきます。1分間に1つアイデアを考え、紙にイラストを描いていきます(参考:Diverge Stage: Crazy 8's - Design Sprint | Udacity

紙に書き出したアイデアは、壁に貼って共有し、テーマごとに分類をします。その後、解決策として進めていきたいアイデアを、1人3票で投票して選んでいきます。

5. プロトタイプ

Concept Development

CRAZY 8Sで選んだアイデアを元に、サービスコンセプトを考えていきます。A3サイズの紙1枚に、以下のポイントをまとめていきました。

・タイトル
・短めの説明文
・イラスト
・タッチポイント
・ステークホルダー

私たちのグループでは、Google Map + モバイルSuicaのようなサービスに行き着きました。目的地までのルート検索ができ、交通機関を利用するときにはスマホで電子決済できるといった感じ。

Experience Prototyping

今回はWebサービスだったので、デバイス(ダンボール)+画面(ポストイット)でプロトタイプを作ってみました。このフェーズではあくまでコンセプトを表現・検証することを重視しているので(low fidelity)、UIはあえて作り込まないようにしました。

最初は、もっと画面数が多かったり、フロー図を用意してたのですが、講師から「UIや仕様を設計しすぎると、ユーザービリティに目がいってしまって、サービスの提供価値を考えることがおろそかになる。今はそのサービスを使うことで、ユーザーや社会に対してどんなインパクトが与えられるのか、どんなリアクションがありそうかを想像する時間にした方がいいよ。」とフィードバックをもらいました。…改めて振り返ってみると、もっと機能削ぎ落とせばよかったなぁ。

6. テスト

リサーチから抽出した仮説、解決策、プロトタイプを検証していきます。

テストするときのポイント

・なるべく早く、できるだけ多くテストする
・検証したい仮説 / 問いは何かを明確にする
・リアリティのある状況で、実際のユーザーに近い人達でテストする
・そのテスト結果次第では、自分のデザインを変えることを受け入れる

テスト向けのチェックリスト

1. 機能理解:ユーザーがプロトタイプをみたときに、何ができるものだと期待するか、どうやって使うものだと想像するか
2. 課題:そのプロトタイプでどんな課題に取り組めそうか
3. 需要:ユーザーはそのサービスを必要だと思うのか、欲しいと感じるのか
4. 期待値:ユーザーの期待値をどうやって測ればいいのか
5. 見落とし:どの機能を見逃したか
6. 改善箇所:違和感があったり、必要性が感じられないところはあるか
7. 感情:プロトタイプ使用中ユーザーはどんな反応・表情をしているのか
8. 代替案:もしそのユーザーが魔法を使えて、そのプロトタイプを何にでも変えられるとしたら、どんなものにしたがるのか
9.利用可能性:もしリリースされたら、実際にサービスを使う可能性はありそうか

ユーザーテスト

街に出て、実際のユーザーになり得そうな人達に声をかけて、プロトタイプを使ってもらいます。

サービスの目的・価値を理解できているか、プロトタイプをどのように使ったか等、チェックリストをアレンジしつつ、反応を伺っていきました。

競合サービスの使い方を観察する

自分たちのプロトタイプだけではなく、もしそのユーザーが似たような既存サービスを使っている場合は、そのサービスを使っている様子もみせてもらいました。交通機関を使って目的地に行きたいときには普段どのような行動しているか、現状の不満などを引き出していきました。

7. まとめ

最後にリサーチでやってきたことをまとめて、グループプレゼンしました。
Service Blueprintというまとめ方も紹介されたのですが、あまり準備時間がなかったので、私たちのグループは紙芝居形式でやることにしました。
ある意見を主張する根拠として、iPadを使ってインタビュー中の動画を流したりしました。

他のグループは以下みたいな感じでやっていました。

8. 感想

どう実務に活かすのか

日本に帰国してデザインマネージャーにこのワークショップの感想を聞かれたとき、こんな回答をしました。

今回学んだことは魅力的ではあったものの、実際の現場で活用するには、チューニングが必要そうだなぁというのが本音です。新しい知識やキーワードは知ることができたので、それらを参考に状況に応じて使い分けていきたいと思いました。

このワークショップでのインタビューや分析の過程は楽しめたので、以前よりは身構えずにやってみようという気持ちになれたかな。

浅いブレストになっていないか

ただワークショップでこんなに手間かけて調べて考えた割には、結論は大したアイデアにならなかったのではと正直感じました。既存サービス(SuicaやWink)をとりあえず組み合わせただけの付け焼き刃感が否めませんでした。

その原因は自分の英語レベルや思考力が足りなかったからか、知識や経験値でどうにかなるものなのかと悶々としていたところ、たまたまTwitterでCIIDのサマースクールに参加していた方々と似たような課題感を話すことができました。

ちなみにこのもやもやに対しては、CIID出身のKiuraさんが「アイデアを選ぶとき、それがどれぐらいincrementalなものかradicalなものか、そしてどの辺りを選ぶのかを事前にチーム内で握っておいたほうがいいよ」とコメントくれました。皆さん、ありがたや。

異文化理解

今回私がデンマークではなくシンガポール開催の勉強会を選んだのは、仕事柄東南アジアの文化や社会を理解したかったという背景があります。
発展が著しい中国ITへの憧れ、日本と似たような社会問題(交通 / 都市 / 高齢化 / テクノロジー)を抱えていて、色々勉強になりました。

あとフィールドワークで中国系のおじいちゃんにインタビューしてたら、いきなり会話が中国語になったことがありました。

中国語分からないので一瞬泣きそうになりましたが、表情や身振りを観察しながら「大体こんなこと言ってるのかな」と想像し、インタビュー後にチームメンバーが翻訳してくれた内容と答え合わせするといった愉快な経験をしました。

最後に

こうした社会人プログラムやサマースクールで学ぶのは結構ありだなと楽しめた機会でした。海外旅行をご褒美に、ここ1ヶ月ぐらいは準備のために、デザインリサーチの文献をよく読むようになれました(ユーザーテストの記事もその一環で書いた)

今回をきっかけにこの分野は今後も学び続けていければと。

それでは〜

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ガリガリくん食べます!

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Yoko Nishida

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