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整理と収納とデザインと

ここ数年、お片付けブームが続いていて、雑誌も本も整理収納の特集であふれている。書店ではライフスタイルの本棚だけでなく、ビジネス書にも領域をのばし、育児書や心理学にまで進出している。整理収納とデザインは似ている、とかプログラミングでも重要だ、とかよく言われるようになった。

何でもかんでも「デザインだ」と言っておく、みたいな風潮に辟易する人もいるかもしれない。しかし、似ているどころか整理収納はデザインそのものだ。


散らかったデスクとキレイなデスク

デスクが散らかっているか整頓されているかは、いつも相対的に評価される。
誰々のデスクは書類が散乱していて汚いとか、ゴミまである、とか。多くの場合、見た目の雰囲気で判断されがちだ。

確かに衛生面の話であれば、汚れてないか、清潔か、という観点で、ある程度見た目のでの判断が可能だ。
しかし、その人しか使わない個人のデスクなら、散らかっているかどうかはその人による。人によって、処理できる情報量が異なるからだ。
資料が山積みなったデスクでも、お目当てのファイルをすぐに見つけることができる人はいるし、数枚の書類でも必要なものが見つけられない人もいる。

見た目の雰囲気ではなく、真にその人と物の関係を考慮し、散らかっているか、整頓されているかを判断するフレームワークがある。整理の基本領域図  ( ※1 ) というものだ。

これはハウスキーピング協会による民間資格、整理収納アドバイザー ( ※2 ) の理論の一つだ。最近、お片付けブームで、様々なお片付け関係の民間資格が登場しているが、整理収納アドバイザーはその中でも比較的ロジカルなメソッドか多く存在する。

整理の基本領域図では、物をそれを所有する人との関係から4つに分類する。

1. アクティブ領域:毎日使う物
2. スタンバイ領域:使われるのを待っている物
3. プロパティ領域:なんとなく所有している物
4. スクラップ領域:ゴミ

1. アクティブ領域:毎日使う物
ペン立てにある、いつも使うボールペン。デスクの付箋など。
毎日必ず使い、物と人の関係が活発な状態。

2. スタンバイ領域:使われるのを待っている物
毎日は使わないが、すぐに使える状態の物。
たまに使う色鉛筆、ボールペンのストックなど。使っていなくても把握できていて、使いたい時にすぐに取り出せる物。

3. プロパティ領域:なんとなく所有している物
1 でも 2 でもない物。
ゴミではないけど、すぐに使える状態ではない物。たとえば、芯の入ってないシャープペンシルとか。あることを忘れていたメモ帳とか。
なぜ  プロパティ とよぶのか、私にはよく分からない。
全然別のイメージがついている言葉なので困る...。

4. スクラップ領域:ゴミ
明らかなゴミ。なんとなくペン立てに入れてしまったレシートとか、ノートに挟んだ期限切れのクーポンとか。もう接続する本体がないケーブルとか、ゴミとして出すのが面倒で捨てていない、壊れたハードディスクなんかもそうだ。

4つに分類したら、 3. プロパティ領域 4. スクラップ領域 にどれくらい物があるかで、散らかっているか、整頓されているかを判断する。
どんなに混沌としたデスクでも、少ない程整頓されていることになるし、どんなに整然したデスクでも多いと散らかっていることになる。

いわゆる、ミニマミストは 1. アクティブ領域 が極端に多い状態だ。2. スタンバイ領域 が多いのは整理収納上手。熱心なコレクターなんかが該当する。

散らかってるな、なんかデスクが使いづらいな、と思ったら 3. プロパティ領域4. スクラップ領域 の物を減らすようにすればいい。
減らすといっても、捨てるという意味ではない。 1. アクティブ領域 と 2. スタンバイ領域 に物を移動させるのだ。そのためには物の整理が必要だ。


整理の前に収納なし

よく「片付けは苦手なんです」とか「片付けが面倒で」という話を聞くが、片付け は難しいものでも、面倒なものでもない。片付けは、物を元の位置に戻すだけだからだ。

難しくて面倒なのは、整理と収納 だ。片付けが面倒になるのは、整理と収納がうまくできていないからだ。逆にこれさえできていれば、片付けは簡単にできる。

テレビや雑誌の片付け特集を見て実践してみたけど、うまくいかなくて、すぐに散らかった状態に戻ってしまった、という経験がある人は多いと思う。

それは、テレビや雑誌では特集の見栄えを良くするために、整理よりも収納をクローズアップしてしまっていることと、そこで紹介されている収納が全ての人に合うものではないことが原因だ。

重要なのは 収納の前の整理 なのだ。

整理収納アドバイザーのフレームワークに、整理収納のステップ図 というものがある。これは整理から収納完成までのステップを図にしたものだ。

1. 所有の意味を考える
2. モノの本質を知る
3. 整理のねらいを明確にする
4. ねらいからグループ分けする
5. 使用頻度でさらにグループ化
6. 収納を分析する
7. グループと収納を重ねる
8. 指定席の完成
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1. 所有の意味を考える
なぜそれを持っているのか、どういう目的で所有したのかを思い出す。

2. モノの本質を知る
もっている物の機能について考え、それが活かされているかを確認する。
たとえば、2 年間一度も着ていなくてずっとクローゼットにある服はその機能を活かされているか?死蔵させておく方がかえって物を大切にしていないのではないだろうか。

3. 整理のねらいを明確にする
整理によってもたらされる具体的な効果はなにか、どのような効果を求めるための整理なのか。整理はじめる前にまずその目的を明確にすることが大事だ。
自分一人が使うデスクなら、自分のことだけを考えたらいいけれど、たとえば家族みんなが使うリビングなら、家族それぞれにインタビューをし、それぞれのねらいを知る必要がある。自分だけの整理を家族におしつけてはいけない。

4. ねらいからグループ分けする
仕事をしているとき、家事をしているとき、どのように物を使用しているかを観察し、ねらいに沿った分類をしていく。分類は積み上げ式分類のようにボトムアップだったり、割り付け式分類のようにトップダウンだったり、あれ、これ情報設計の本で読んだな...。

5. 使用頻度でさらにグループ化
使用頻度は重要な要素だ。使用頻度の高いものはすぐに手に取れる位置に置かなければ片付けるのが面倒になる。そのためにあらかじめ使用頻度に物を分類しておく。

6. 収納を分析する
やっと収納がでてくる。取り出し易い位置、取り出しにくい位置を把握し、寸法を測ることはもちろん、その収納の特性 ( ※3 ) を理解する。

7. グループと収納を重ねる
グループ化した物を収納に配置していく。このとき、そこに存在しない物についてもイメージするようにする。たとえば荷物が届くことを想定して、玄関にハサミを置いておくなど。物とアクションを常に考えるのがコツだ。

8. 指定席の完成
物の指定席を維持するために、収納にラベリングをしたり、適正量を維持するルールを決めたりする。

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そして、暮らしは変化していく。新しい家族が増えたり、物が増えたり、新しい趣味をはじめたり。何だか収納が使いにくいな、片付けが面倒になってきたな、と思ったらステップ 1 に戻ってこれを繰り返す。変化にあわせて、整理収納も変えていかなければならない。


どんな散らかったデスクでも、このステップに沿って整理収納をやっていけば、整頓され使いやすいデスクにすることができる。( ※4 )

クリエイティブなアイデアがどんどん湧くデスク、にもできるし
心が安らいで、話がはずむデスク、にもできる。片付けだって簡単だ。

整理のねらいを明確にして物を分類し、収納することで、自分の目的に合ったデスクになる。雑誌やテレビでみた誰かの収納を表面だけ真似しても、整理収納の効果は得ることができないのだ。


分かれない分類

整理とは分類して、その場所から不要なものを取り除くことだ。デザインでも、とくに情報設計ではとにかく分類をする。

デスクの整理をしていても、UI デザインの情報設計をしていても、分けることが難しいもの、というのは必ずでてくる。
そういうときは、たとえば使用頻度とか、アルファベット順とか、必ず分けられる明確な基準をもってそれを分類する。

でもそうすると、無理やり型にはめていっているような、妙な気分になる。意識した嘘 ( ※5 ) をついているような。特に「捨てる」という行為は、心理的抵抗が強くてしばしば整理をはじめる妨げになる。

しかし、整理は「捨てる」こととイコールではない。これはとても誤解されやすいことだが、明確に異なる。

実際に整理収納をした後に感じるのは、物と人が活性化されて一体となっているイメージだ。自分にとって不要な物は、その物がもっと活きる場所に循環させる。自分が所有することで眠ってしまっていた物の力を、新しい誰かとの関係の中で取り戻す。

それはもともと、デスクならデスク、部屋なら部屋にあった物だ。
その中で物の位置を、それを使う人との関係がもっと活発になるように配置していく ( ※6 ) 。分類は物を分けるのだけれど、分けながらもパズルのピースを合わせていくのだ。

そしてそれはまた、生活に合わせて絶えず変化していく。

だから、新しく買ったものが割り付け式に分類できないからといって、無理にその物のラベルを貼り替えてはいけない。そんな時はステップの最初に戻るのだ。整理の前に収納はないから。


 お家でできるデザインプロセス

整理収納は、お家でできるデザインプロセスだ。

本やネットの記事で、UI デザインの理想的な情報設計とか、デザインのプロセス何かを知っても、実際の仕事ではそんな風にできない、活かすどころか試すこともできないじゃないかと思う人は多いと思う。

でも実は、それは身近な自分のデスクや家のリビングでそれを試すことができる。だから気負わずやってみたらいい。

まずは、自分のデスクから、引き出しの一段目から。


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( ※1 )
「モノと人との関係の基本領域図」ともいう。

( ※2 )
ちなみに私は整理収納アドバイザー1級の資格を取得している。
整理収納アドバイザーのメソッドを習得するには 2 級講座の受講が
必要だか、テキストは一般販売もされている。
『一番わかりやすい整理入門 【第3版】』澤 一良 (著)
 
 資格取得方法について
http://babyfood.hatenablog.jp/entry/2017/06/07/084919

( ※3 )
湿気が多い、とか高いところなので重いものを置くと危険、とか。

( ※4 )
とはいえ、このステップの概要だけでは少し説明不足だ。整理収納アドバイザーの理論は他にもあり、各ステップでそれらのメソッドを組み合わせることでより効率良い整理収納が可能のなので、興味がある人は講座を受けてみてほしい。

( ※5 ) 

一番正確だとしてある数学方面で、点だの線だのと云うものがある。
どんなに細かくぽつんと打ったって点にはならない。
どんなに細くすうっと引いたって線にはならない。
どんなに好く削った板の縁ふちも線にはなっていない。
角かども点にはなっていない。点と線は存在しない。
例の意識した嘘だ。
しかし点と線があるかのように考えなくては、幾何学は成り立たない。
あるかのようにだね

『 かのように 』森鴎外 ( 著 )

( ※6 )
現実の物は色んな場所に存在できないから、それが必要な場所すべてにボールペンを配置したりもするが、アプリケーションの UI デザインは、たとえばスマートホルダとかタグ付のような概念を作り出すことができるので、より自由度が高い。

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