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驚いたな、まだ『仮面ライダー龍騎』を見ていなかったのか(初見感想)

見出しは1話「誕生秘話」にてまだ何がなんだか全く分からない状況でミラーワールドに入ってしまった龍騎ブランク態に仮面ライダーナイトが「驚いたな、まだモンスターと契約していないのか?」と呆れつつ聞くシーンより。少し前のネットだとその後の「折れたァー!?」の方が流行ってた気がするけど最近はこっちの方がソシャゲのガチャのチュートリアル導入っぽいせいかよく見かける。あれからもう20年……

・お前ニチアサ追っててまだ龍騎見てなかったのかよ!?


みなさんは日曜朝にテレビ朝日系列にて放送されるキッズ向け番組の並び通称『ニチアサ』はご存知であろうか。自分もかれこれ10年以上見続けてる、まさしくいい歳こいて子ども向け番組追ってる人間であり、ここnoteにおいてもちょくちょく同じニチアサの並びにあるアニメのプリキュアシリーズについて色々書いてたりしているものだ。そんな自分が今回書くニチアサ作品は仮面ライダー、それも大人気作である『仮面ライダー龍騎』である。

2002年に放送された平成ライダー3作目(昭和平成令和となぜか元号で区切ってる変なコンテンツ)であり、去年にはとうとう放送20周年を迎えてもなお未だ強い人気を誇る今作。実際に自分もTwitterでフォローしてる人の中に「一番好きなライダー作品は?」という質問に龍騎を挙げる人はかなり存在する(ちなみに自分はOOOオーズ)しかしフォーゼから見始め過去の平成ライダー作品をレンタルなり配信なりで見てきた自分はなんというかタイミングが悪かったのか2022年にもなってまだ龍騎を見たことないライダーオタクという逆に珍しいだろう存在になってしまっていた(あと響鬼もまだ見てない)

そして迎えた2022年…20周年でもあり同じく多人数ライダーものである『仮面ライダーギーツ』開始と合わせてYouTubeの東映公式チャンネルで龍騎が毎週2話ずつ配信されたのだ。これを逃せば下手すりゃ一生見なくなるかもしれない……ということで放送20周年を機についに自分も龍騎を見ることになり、そしてここに初見感想を書くことにした。それでは始めていこう……しゃあっ!

・誰もがみな『仮面ライダー』である


この龍騎といえば放送当時としては非常に斬新である作風……ライダー同士の争いを主軸に描いた作品というのが有名であろう。いや言うて自分も悪のライダーとの戦いなんてのは他作品でよく見かけたし『龍騎』がライダーバトルのエポックメイキングとなった作品とはいえ……とは思っていたのだが実際に目にするとなかなかに特異的。悪のライダーというのはなんかしらの野望や信念を行使する為に専用のベルト使って変身とかだが、今作は主人公サイドと同じ変身システムを用いた平等なスタートラインの上で各々の欲望を満たすために戦うのだ

6話「謎のライダー」より。この後の結末はみなさんご存知のとおり……

そんな多種多様のライダーの先陣を切ったのは仮面ライダーシザースに変身する須藤雅史。表面上は優しそうな刑事さんだが裏では犯罪者と繋がり報酬で揉めたので殺し壁に埋めたり、その犯行がバレた際には追ってきた警察仲間を契約モンスターのボルキャンサーの餌にし逃げた極悪刑事。こんな純粋に悪い奴が仮面ライダーになりやがり、そして契約モンスターに喰われてしまうえげつない最期を序盤に見せてきたのはまさに「今作はこういう話ですよ」というのをこれでもかと分かりやすく示してきた偉大な存在であろう…

19話「ライダー集結」にてエンドオブワールドの弾幕の盾にされたガイ。この後もちろんライダーキック叩き込まれて……

続いてはサイ型ミラーモンスター・メタルゲラスと契約した仮面ライダーガイこと芝浦淳。いいとこのボンボン息子な大学生で、人々が現実でも殺し合うよう洗脳するゲームを作り拡散しようとするなど命を奪う行為もゲーム感覚としか思ってないかなり邪悪な奴。自身にトドメを刺せない蓮を根性なしと嘲笑ったりもした彼に待つ最期は、人を殺すことに全く躊躇しない真に戦いを楽しむ浅倉からの一撃であった……

44話「ガラスの幸福」より。俺は…幸せになりたかっただけなのに……

そして最期があまりにも印象に残った仮面ライダーインペラーこと佐野満。芝浦のように社長の息子だが勘当されフリーターとして媚びへつらう日々…金で雇われる傭兵感覚で戦い仕事だからと優衣ちゃんを殺さんとする悪どさはあれど、東條を助け友達と扱う(上二人よりも遥かに)人間みある一面も備えてる……そんな彼だろうとライダーが辿る末路からは逃れられなかった、親の会社を継ぎもう満たされ尽くしたのに多数契約したメガゼールはじめレイヨウ型モンスター達に餌をやるために戦いを継続しなければならず、そして友達だと思ってた東條の凶刃に刺され……

改めて見てもこんなやべー奴らが主人公たちと対等に立ってたというのかと考えてしまう今作、しかしコイツらはまだマシな方でさらなるやべー奴が出てくる……20年経った今でも「こいつらよく子ども向け番組に出せたな!?」を感じざるをえない二人の真の狂人……仮面ライダー王蛇こと黒き悪の浅倉威と仮面ライダータイガこと白き悪の東條悟は見ていて本当にヤバかった。たぶん今だと無理またはなんとか出せたとしても完全なる悪役としてですよコイツらは……


23話「変わる運命」にて車の窓ガラス割ってる浅倉威。こわい…

「ずっと誰かに殴られてたから殴るか殴られるかしないとイライラする」で人を殺せる連続殺人犯浅倉威。こんなん死刑待ったなしだろと思うがあろうことか仮面ライダーに選ばれ脱獄し、誰にも咎められずずっと暴れられる「終わらぬ戦い」を求める。そして彼は既に何人も殺してるのでライダーの命を葬るのに一切の躊躇をせずに退場させられるという役者さんのスケジュール調整として都合いい特長があるのだ…

25話「合体する王蛇」にて絶句してしまったシーン。ウィザードのグレムリンかな?

さらにはこの浅倉威が恐ろしいのは凶暴なだけでなく狡猾で執念深い一面もあるのだ……彼には弟・暁がいたのだが火災で両親ともども死んだと思ってたら実は生きていた。それを令子の取材経由で知った彼は会いたそうに振る舞い彼女は感動の兄弟再会の場を用意するが……そもそも家に火をつけたのは自分だし、あの時に気に入らないお前を殺し損ねてたとベノスネーカーに食わせた。感情移入すらも食い物にする、真の怪物よ……

そんな怪物そのものである浅倉だが最終回「新しい命」まで生き延び、無罪にしろと言ったのに懲役10年止まりだった北岡(むしろ終身刑もおかしくないのにがんばった方だろ)を執念深く恨み続け、ライダーとして戦っていた彼を自分の手で葬ってやろうと意気込みライバルとして扱い愉しんでいた節すらあった……しかしその因縁を果たすことは叶わなかった。彼の願った「終わらぬ戦い」は「永遠につかない決着」という歪んだ形で叶った。怪物と成り果てた者が人間らしく絆を感じてただろうが、こんな輩が報われるなんざ許される訳ない。そして己には結局こうでしかないといわんばかりに駆除すべきけだものとして突撃していった……


42話「401号室」より恩師の死で涙を流す東條。本当に尊敬していたから泣いてるんですよ……
44話「ガラスの幸福」で友達だと言ってくれた佐野に助太刀したと思ったら……ごめん、君は大事な人だから

物語も後半戦に突入し、ミラーワールドの真実を知ってしまい神崎の蛮行を阻止するために立ち上がった香川教授に追従する東條悟。元々自信を持たない彼は英雄的行為を決断する教授に心酔し「英雄になればみんな好きになってくれるかも」とかわいらしい自己肯定感を欲しており、それもあって神崎に選ばれデストワイルダーと契約し先生に協力していたのだが……香川教授の「多くの人を助けるために大切な人だろうと犠牲にできる覚悟がある者こそが英雄」を曲解し、自身が大切な人を自らの手で殺めてこそ英雄になれると信じ、教授含めた「自分にとっての大事な人たち」を殺す狂人と化してしまった。英雄ってのは英雄になろうとした瞬間に失格とは北岡が言ったが……極端すぎるだろ!?

そんな英雄願望が倒錯しきった東條に待つ最期…46話「タイガは英雄」にて描かれるラストは……己が命を犠牲にしてでも(香川親子を彷彿させた)親子を助けたという、事切れる寸前にも勘違いを続ける彼の承認欲求を決して満たせない、新聞の小さな記事に載り当事者以外は覚えられないだろう「真の英雄」になれる結末だった……

…これ子ども向け番組で出していい奴らなの!?(再確認)しかもこれ、テレビ局側から「『クウガ』や『アギト』のように複雑じゃなくて善悪の区別が明瞭なヒーローものにしてくれ」と依頼されたのにも関わらずですよ。明瞭さ皆無。いやなんてったって我らが白倉伸一郎プロデューサーが「『子どもに本当の正義を教えたい』と言うなら、子ども達の信じてる正義は偽物で我々番組側が本物を知ってると主張するようなもの」と返し、このような悪人だろうと変身できる作品にしたのだ。それ屁理屈つけて言いくるめてる風にも聞こえるんですが…?(白倉P、フィクションの製作者になってなければ一流の詐欺師になってたと思う)

特に浅倉に対しては当然のように親御さんといった大人の視聴者から苦情が殺到したのだが、31話「少女と王蛇」〜32話「秘密の取材」において浅倉が少女をモンスターから守る(ように見せかけモンスターを釣るためのエサにしていたに過ぎない。結果的に救ったとはいえ)話を見せたらそれ以降苦情は一切来なくなったそうな。……そういう文句言う人間は今も昔もいるけど、そいつら物語の表面上しか見てないから案外簡単に騙せるもんだと皮肉ってるように感じるのですが……

そう……『正義』。このように悪のライダーもいれば、正義と例えうるようなライダーも存在する。しかし彼らもまた……

・生きるということは、別の誰かの希望いのちを奪うということ

そもそもこの『龍騎』において出てくるライダー達は浅倉みたいに戦いそのものを欲してる為に戦ってる訳ではない。基本的にはライダーバトルに勝利した先に待つ「願い」を叶えるため……そしてそれは主に命を助けるため……仮面ライダーゾルダこと北岡秀一のように自分の命のためもいれば、仮面ライダーナイトこと秋山蓮のように恋人の命のためもいる。


13話「その男ゾルダ」より。なんかどこかで見た構図で撃ってるなこれ。
25話「合体する王蛇」で突如倒れそうになる先生。思った以上に深刻…

どんな裁判でも逆転無罪にできるスーパー弁護士で有名な北岡秀一。その性格はなかなかに気取っており嫌味も言うしでややダーティに捉えられてもおかしくない存在だが本質的にはなんだかんだで優しい……とまぁ今作の脚本を担当した一人である井上敏樹がいかにも書きそうなキャラクター造型していると言えばわかりやすい。そんな彼は現代医療では治療不可かつ致命的な病に蝕まれており、それを克服できる永遠の命を欲するためにギガマグナと契約し戦いに参加しているのだが…


12話「秋山蓮の恋人」より。恋人を助けたいから戦うなんて普通なら真っ当にも程がある理由なんですよね。でもね、この番組はそれを許さない……

そして今作の2号ライダーポジションである秋山蓮。クールで皮肉屋な部分もありしょっちゅう喧嘩を売られてしまうが、根は優しく思いやりをつい遠回し気味に言ってしまうツンデレ君といったところで平成2号ライダーとはこうあるべきというテンプレイメージを作り上げたと言っても過言ではない
そんな彼の恋人・小川恵里が怪物の攻撃を受け意識不明のままになってしまい、さらには獲物として狙われ続け……彼女を助けたいという願いのために蓮は原因であるモンスター・ダークウイングと契約しライダーとして戦うのだが……

自分が生きたいため、大切な人を助けるため、そう考えるのは至極真っ当な願いであり、後者は特にヒーローとして……『正義』としてありふれた理由になっている。しかし今作はその『正義』……否、「願い」を叶えられるのは唯一人。そのために別のライダーと戦い、そいつ倒さなければならない。先ほどやれ浅倉がヤバいだの東條がヤバいだの言ったが、彼らもどれだけ真っ当に見える理由を掲げようがたどり着くために行うのは他者の「願い」を潰すこと。命を奪うこと。奴らのように「人殺し」になることだ。今作はそれを対象が怪人に変質したとかで誤魔化さず、あくまでずっと人のままとして延々とその事実を向き合わせてくる……しかも戦いを拒めば契約しているモンスターに喰われるという強制力もセットでだ。ここまでテレビ局の意図をガン無視してる作風にしてるとよく企画通ったなとすら思えてくる。

39話「危険のサイン」より。良き夫であり良き父、しかしそれでも一人の命を奪うために戦う。人は信念で矛盾を押し通せる生き物だから……

『正義』で語らなければならないのは東條に盲信されていた香川英行教授だ。偶然にも神崎の企みを知ってしまい、彼なりのライダーシステム「オルタナティブ」を開発しミラーワールドを閉じるために……大勢の命を助けるために少数の犠牲は厭わないと根本的要因である神崎優衣を抹殺せんと襲いかかる。彼は妻・典子と息子・裕太を愛する人格者でもあり、非情なる行いを執行できる覚悟を持っている……たとえその家族の命を脅かされても捨てる選択肢を取ろうほどの「英雄」たる覚悟を(なお東條がヤバい方向に勘違いした模様)

23話「変わる運命」より。神崎士郎は戦う動機がある者だけを意図的に選んでいる……

一方で「願い」を叶える残酷さが印象に残ったのは作中では貴重な良心的キャラである仮面ライダーライアこと手塚海之…ではなく彼の友人である斉藤雄一のシーン。ピアニストとしての才能があるものの理由なく暴れてた浅倉の暴行で指を負傷し演奏できない身体にされてしまった雄一。そんな彼にデッキが渡されるのだが……戦って(誰かを殺して)まで指を治したくないという人間としての良識で拒否した。そしてモンスターに喰われてしまった……こんな悲劇を起こしたくない手塚がライダーバトルを終わらせると代わりに戦うが彼もまた浅倉によって……

この今作を司る戦いの構造が非常によくできてるなーと自分はよく感じた。なぜなら仮面ライダーというコンテンツは初代から敵組織に改造された戦闘兵器が反旗を翻す土台が存在し、それに倣ってか平成以降のライダーはその「敵が用いるシステムをこちら側も流用する」という部分をなにかと強く感じがちだ(もちろん例外もあるけど)
そして今作「龍騎」ではミラーモンスターという怪物と契約し力として行使する形に落とし込んでるんだなーと見る前から思っていた。たしかにそのとおりであるのだが、見ていく内にもう一つの見解が自分に浮かんできた……彼らが自他関わらず生きてほしいという「願い」を叶えるために他者を殺すというのは、飢えを満たすという生存本能のために無差別に人を襲い食い殺す怪物ミラーモンスター達とやってることはあまり変わらないということに。まさしく彼ら仮面ライダーはミラーモンスターと紙一重なのかもしれない。そういう方向でも落とし込んできたか。

この以前である平成ライダーの敵はゲゲルという儀式の側面が強い「クウガ」のグロンギ、人類が余計な進化するのを調整として間引く「アギト」のアンノウンと市民を殺すのに明確な理由が存在したのもあって、自分は見る前は他と比べて人語を話さない怪人なんて存在感が薄そうだなーと正直思っていた(翌年の「555」がそこらへんガッツリ割いてたのもあって)しかし見ていく内にあえてその理解不能な本能しかない生物“だからこそ”今作の怪物であるという納得がいった。上で触れたように25話で浅倉威が実弟を食わせ殺した際に蓮は「やつは人間じゃない!モンスターだ!」と拒絶するように叫んだが、自分だって彼のような「モンスター」になりうるのだ。それが望まぬ形かつ結果的にだろうと……

こんな自身の掲げる『正義』を貫くならば己の手を血に染めねばならぬという地獄の舞台、ミラーワールド。そしてそもそもそんな残酷な舞台を用意し願いのために戦えと殺し合いを促す今作の首謀者・神崎士郎もまた妹の優衣を救うためであった……


キィィィィン…(例の音)
戦え…

33話「鏡のマジック」で北岡の元に現れ持病による彼のライフリミットを煽る神崎士郎。ちょうど放送当時は夏休み明けというのもあって(夏休み中は行事等で見れない視聴者に配慮してか)最近あんまライダー同士が争わなかったのを早く戦えとわざわざ煽りに来るメタ的な事情をうまく話に組み込んだ描写である
同じく33話で城戸にサバイブ烈火のカードをあげる神崎士郎。環境にテコ入れして流動を促す販売側のの鑑

鏡の中から「戦え…戦え……」と意味深に囁くことでおなじみ神崎士郎。叶えたい願い…言い換えれば強い欲望を抱くものにデッキを渡し、食うか食われるかのライダー蠱毒へ叩き落としてきた非情な人物である……ちなみにそんな命を賭けたゲームの主催者だが気に食わない結末が来そうなら仮面ライダーオーディン(彼が変身している訳ではない)のタイムベントを使用し最初からやり直し、そもそも最後に生き残ったライダーをオーディンに倒してもらって自分の願いを叶える算段という実質的な出来レースだったりする。クソゲー!!!

48話「最後の3日間」より。俺を一人にしないでくれ…!
49話「叶えたい願い」より。誰が死のうと淡々と進行を続ける運営としてでなく、大切なものを失いたくないというこれまで見せなかった「人間」としての感情……

そもそも神崎兄妹は両親から監禁やネグレクトを受ける地獄のような環境で幼少期を生きてきた。唯一の楽しみは妹と一緒に描く叶わない外の世界や自身を守ってほしいと生み出したかっこいいモンスターの絵……そんな折に優衣が限界を迎えたのか(児童向け番組なのでなんだかんだでリアルに描かない)死んでしまう。悲しみに包まれる士郎が見たのは鏡の中の優衣……「自分たちが平和に暮らせたらと描いてた世界のもう一人の優衣」が亡骸と一体化し、命を取り戻したのだ……20回目の誕生日までというタイムリミットつきで。彼は必死にどうすればそれ以上生きていけるか探した。そして彼自身の肉体も失おうとも、ライダーシステムという生贄を用いての復活手段を製作した。すべては妹・優衣が生きてほしいために……それのために欲望に惹かれた者たちが争い死のうとも、戦場であるミラーワールドを開いた副産物により解き放たれる「あの時描いた凶暴なモンスター」がどれだけの一般人を喰らおうとも

―この戦いに『正義』はない。そこにあるのは、純粋な「願い」だけである。―

(50話での大久保編集長の言葉より引用)

先ほど書いたようにテレビ局側は善悪の区別が明瞭なヒーローもの…言い方が悪けりゃ「いかにもな子ども向け作品」を求めていた。しかしその要望に対して白倉氏は上記のようにさながら「それは子供騙しではないか」のような返答した。そんなこと言ってしまう人が実際に生み出した作品は……これでもかとばかりに現実に存在する『正義』は決して単純なものではないとウソをつかず向き合い視聴者に伝えようとした。まさしく有言実行の権化と言えるだろう。
さらには当時2002年といえば前年に世界を揺るがす程の悲惨な事件が発生し、それに対し大義を掲げ争いが勃発したりもしていた。そんな情勢になってしまったからこそ……この番組は伝えたかったかもしれない、『正義』というのはなんなのか、それを行使するというのはどういうことかを。そしてTVSP版で高見沢逸郎が「人間はみんなライダーなんだよ!」と言ったように我々だってより良い生活のために他者と競争し優劣を決めたり、なんなら食事として他の生物を殺め食っている。「子ども向け」と「子供騙し」は違う(自分はここに書いてるのがすげーよく分かりやすいと思った)と言うように、子ども相手だからと決してナメずに、大人でも簡単に答えを出せないような代物…残酷なる世界のルールを前にどうすればいいかを子どもにも伝わるよう「仮面ライダー」という本質的に悪の側面も備わっているヒーローを通して大真面目に子ども向け番組を作った。なんだかんだ言われるが白倉氏は一見うまい具合に言いくるめてるだけに思わせてすごく考えてると自分は感じている(でも春映画の量産はな〜…)


テレビ放送だとここルイ・アームストロングの『What a Wonderful World』が流れていたそうだが円盤や配信だと著作権の都合かカットされ無音になっていた…彼の短き人生は素晴らしいものだったのだろうか……
「蓮……そんなとこで寝てると風邪引いちゃうよ?」
まるで最後まで生き残った彼の命を消費し蘇ったようにも捉えられる……

互いに50話「新しい命」より。北岡は己の死にゆく運命を受け入れて、蓮は願いを叶えることができたが自身の命も潰えたかのように目覚める恵里の前で倒れていた。まるで……どのような正当な理由を並べようとも、人を殺しうる可能性を秘めた選択肢を取った者は相応の報いを受けねばならぬと示されたかのように……


そしてその「大人でも簡単に答えを出せない」なる本作のテーマ、それに真正面から向き合った男こそが今作の主人公、仮面ライダー龍騎に変身する城戸真司だ。

・世界を変えるのは、いつだって大馬鹿野郎さ


3話「学校の怪談」より。いい歳してサイフがマジックテープ式。支払いは任せろー(バリバリ)あと劇場版では霧島美穂に盗まれバリバリされた。やめて!
16話「運命のカード」より。芝浦の殺人ゲームを妨害した報復とばかりに勤め先ハッキングからのランサムウェアされてしまい会社乗っ取られ、編集長と共に情けない格好でビラ配りするハメになってしまった哀れな主人公。
42話「401号室」より。城戸真司がバカだと思う人、手挙げて(満場一致)ちなみに浅倉はちょいとばかし期待させておいてから挙げやがる。コイツはそういう奴。

という訳でおまたせしました。今作『仮面ライダー龍騎』の主人公である城戸真司くん(演:須賀貴匡)。OREジャーナルの新米記者として元々は連続行方不明事件を追ってたら妙なカード入れを拾ってしまい……と手塚と同じく神崎士郎のスカウト無し、いわば本来なんとしてでも叶えたい夢のために他者を殺せるポテンシャルを秘めた欲望ギラギラマン達ばかり集う戦場にうっかり迷い込んでしまったということである(余談だがメイン構成した小林靖子氏はこういう「本来主人公でない者が流れの都合で代打的に主人公になる」というシチュエーションが大好きなのだ)。しかしそんな彼も戦う理由はあるっちゃある、それは助けるため……ライダーの願いとは無縁ながらも副産物として解き放たれた捕食者ミラーモンスターから人々の命を守るため。まさしく至極真っ当な理由でヒーローに変身した男。そしてその「ヒーローらしい」決断の先に待っているものが何なのかを知らずに後に引けない選択をしてしまった者

劇中で真司は様々な人物から「バカ」と扱われる。実際に彼は短絡的で思い込みが強く、リップサービスでおだてられれば鵜呑みにして調子に乗るし、それに気付いたら途端にプンスカ怒る……まさしくバカと例えられて当然なキャラだ。こんな微笑ましい部分としてのバカキャラだけならどれだけよかったのだろうか………今作は決して甘くなんかない、願いを叶えるためにライダー同士が互いに殺し合うのが推奨されてる世界観なのだ。そこに人々の命を守るためだけに戦い、更にはそんな殺し合うまでに争う彼らまでも止めねばならないと(なんも間違ってない理由で)戦場に立つ方が異常というべき……いわば本質を分かっちゃいないおめでたい「バカ」だ。見る前からバカとは聞いていたが実際見たらこういう笑えない愚かさ的な意味でのバカも突きつけるのかよ!?

2話「巨大クモ逆襲」より。ディスパイダー・リボーンに食われそうになってたナイトを助けたら逆に斬りかかってきたでござる
8話「4人目ゾルダ」より。あろうことかそんな男と同じ屋根の下で同棲生活に…

そんな戦いを止めろと叫ぶバカと最もぶつかった男といえばみなさんご存知の通り秋山蓮、上記でやれ言ったが実のところはモンスターに喰われそうな一般人を見たら率先して助ける城戸真司と同じように真っ当なヒーローらしさも持ち合わせており(契約モンスターに餌を与える建前もあるがそれ以上に元来の優しさもある)モンスター相手なら彼との共闘も辞さないスタンスだ。しかし唯一にして最大の違いは「願い」のために龍騎含めた他のライダーの命を奪わねばならぬ使命があること……そこからの覚悟もあって蓮はライダー同士の争いを止めようとする真司の声を認める訳にはいかんと彼をバカと扱う……それがどれだけごもっともで正しいか当然知っていながらも。恋人を助けるためとはいえ他者を殺すというのがどれだけ間違っているかを知っていながらも。普通でない世界にいるならば普通である人間を否定しなければならない。そして彼は普通の人間、そこに苦悩・葛藤は存在し…

17話「嘆きのナイト」でガイの命までは取らなかった蓮に対し「お前は間違ってない、というより見直した」と人として一線超えなかったのを褒めた真司。……取らなかったんじゃない、“取れなかった”んだ……。
20話「裏切りの蓮」より。躊躇なく芝浦を殺した浅倉を見て自分もこうならねば…と彼の元にいるべきと逃走を幇助してしまう蓮。子ども向け番組なので子ども向け番組とは思えない凶悪犯もちゃんとシートベルト着用してるのはご愛嬌

それに対して散々いろんな人にバカだバカだと扱われる真司もまた蓮のように、むしろ蓮に対して悩んでしまう……彼がなぜ戦いに赴くのか、その理由の重みを知ってしまったから。大切な人を救うために戦うという行為を妨げるのは正しいのかと。戦いを止めてほしいと思う自身は間違っているのかと。今作は『正義』というのは単純なものではないと伝えているのだが、人の命を失わせたくない為に戦うという真っ当な行いにすらもそれを問いかけてくる。真司くんの見せてくる正義はまさしくメイン視聴ターゲット層であるお子さん達も真っ先にイメージするだろうヒーロー像である。それでもなお、いやきっとだからこそ、彼のごもっともな正義が必ずしも皆に伝わるとは限らないとこの番組は伝えている……世界は本当にそうあるものだから。子ども向けと子供騙しは違うのだから。

21話「優衣の過去」より。浅倉なんぞに加担する蓮の暴走もあってか彼の抱えてた理由の重さを知ってしまい悩んでしまう真司…自分のやってたことは正しいかどうか、それに対し大久保編集長はジャーナリストらしく「真実は一つだが、正義は一つじゃない」とアドバイスし…

「お前とどうしても戦わなきゃいけないなら、俺は相手になる。俺が全力で戦う。お前の戦いの重さを受け止めるには、今はそれしか思いつかない」



俺は絶対に死ねない。1つでも命を奪ったら、お前はもう後戻りできなくなる

34話「友情のバトル」より。昏睡状態の恵里の命が残り僅かしかないと告げられ蓮は覚悟を決めて城戸に戦いを挑む。対して真司は……炎の中で龍騎サバイブ初変身する今作の名シーンである(でもあくまでイメージであり実際はどこかの橋の上です)

「1つでも命を奪ったら後戻りできなくなる」とあるように、真司が迷いつつもなんとしてでも蓮を食い止め続けていたから彼もギリギリの所で留まれていたのだろう。それの裏付けとして本編内で話が進んでいく内に距離は取りつつもなんだかんだで仲良くなってた北岡先生だって全く通じ合わなかった世界線のTVSP版では完全に敵として容赦なく命を狙い続けていたし、ジオウのスピンオフであり今作の後日談として書かれた『RIDER TIME龍騎』においてはまさかのキャラがまさかの理由(ここでは言えないくらい)で一線を越えてしまっていた。いやほんとアイツがあんなことするなんてね……

悩み、迷い、それでも心の中に確かに存在する戦いを止めさせるという気持ちで前に進み続けた城戸真司。ある時は手塚なる同調者と出会えたも自身を庇ってくれたせいで亡くなってしまい、ある時は優衣ちゃんの命を狙おうとしていたにも関わらず香川教授の妻子を助けたり、さっきまで戦ってた筈の佐野を突如として襲いかかってきた東條から逃したり……こういうお人好しくんはなんかしらの形で報われてほしいものだと当時の視聴者さんもきっと想っただろう。自分もそうだった。しかし彼に待つ運命はあまりにも残酷で……




「決めたのに……結局 俺…迷ってるのか……」

47話「戦いの決断」より。蓮だって無理だったのにお前ができるわけない。そうに決まっている…

ライダー同士の戦いを食い止めようと頑張り続けた者の前に待ち構えていたのは優衣ちゃんが消えてしまう運命……彼のこれまでの努力を「バカ」だと嘲笑うような残酷な真実だった。結局は自分自身にすらも「大切な人を助けるためには別の誰かを殺さねばならない」という残酷なる世界のルールが課せられていたのだった。当然焦って自分も覚悟決めようもできるわけない、いっそ考えるのをやめて北岡に挑もうにも逆に心配されて相手してくれない……(こういう時に限って浅倉は出てこない)これが子ども向け番組での仕打ちなのか?今まで何度も救えなかったのに、それでも諦めずにいたのに………


共に49話「叶えたい願い」より。靖子にゃんはどんな非道を用いようが生きようとする者に対し容赦ない末路を辿らせる……そしてそれは士郎へと向けられた……

そして優衣ちゃんは……新しい命なんかいらないと自ら死を受け入れて消えていった。自分をなんとしてでも助けたいからと兄は数多くの犠牲者と、欲望のために人が怪物と化す戦いを生み出した。その戦いの中で蓮は人でいられなくなりかける決断を迫られ続けた。戦いを止めたかった真司くんの純粋なる願いは何度も踏みにじられた……自分のせいで。

あまり考えたくないが優衣ちゃんだって本当の本当に、もしかしたら新しい命を得る選択肢だって取れたかもしれないと思う。しかしそれはしなかった…これについては自分は真司くんや蓮の悩む姿や葛藤を間近で見てきたからだと思ってる。小林靖子氏がシナリオ構成を手掛けた他作品でも「主人公が人間を辞めそうになるも仲間たちの絆で立ち止まれる」という展開が終盤に書かれるが、この優衣ちゃんの悲しき決断もそれに含まれているのではないかと。誰かを殺し別の誰かの死す運命を捻じ曲げれるという形で人が人を辞める理由がいくらでも見つけられる今作の世界観だからこそ、人のまま命を終える選択だってあるのだ……

そして小林靖子氏の書く脚本にはもうひとつの特徴がある。それは……消える寸前、優衣ちゃんはお兄ちゃんに“ある言葉”を託す。しかし士郎はまだ間に合うと聞く耳を持たず……様々な人の信念や事情を見続けた真司、そして令子らOREジャーナルの皆についにライダーであることがバレてしまい、これまで抱えてた悩みを大久保編集長に打ち明ける。そして彼は自分の中に存在する「答え」へと……

「考えてきたんだろ?その出来の悪い頭で必死によ。それで十分なんじゃねえか?俺は思うぜ」

ただしだ。なにが正しいのか選べないのはいいが、その選択肢の中に自分の事もちゃんといれとけよ

おまえが信じるものだよ。

いつもはチョーシいいがここぞという時に頼りになる先輩



俺さ…昨日からずっと考えてて…それでも分かんなくて……

でも、さっき思った…やっぱりミラーワールドなんか閉じたい……戦いを止めたいって……

きっと……すげー辛い思いしたり、させたりすると思うけど………それでも…止めたい。

それが正しいかどうかじゃなくて、俺も…ライダーの1人として……「叶えたい願い」がそれなんだ……

49話「叶えたい願い」より。最終回手前で主人公が死ぬというのは聞いて構えてはいたが、それでもなお衝撃的である……なおこれが配信したちょうど翌日に最終回手前で主人公が死んで視聴者含めみんなが喜ぶという展開があったもよう。そんなあんまりな奇跡ある!?
時に共に戦い、時に刃を向き合わせていた蓮も城戸の死に涙を……結果的にだが彼はオーディン以外のライダーを倒さず願いを叶えられた。人として踏みとどまることができたのだ

現実世界に進軍してくるレイドラグーンの大群から少女を守る際に致命傷を負ってしまった城戸真司、そんな彼がこれまでずっと戦っていた理由である「ミラーワールドを閉じたい」「ライダー同士の戦いを止めてほしい」……仮にそれを貫き通したならば北岡先生や恵里さんの死にゆく運命は変えられず受け入れさせてしまう、それによって悲しみを生み出してしまうのは分かってる……その事実から逃げずに向き合いつつも戦いを止めたい、それこそが城戸真司が他のライダーと同じように抱く「願い」と気付いた。彼もまた“仮面ライダー”だった。そしてそれは優衣ちゃんの悲壮なる自己犠牲のうえで覚悟した決意……小林靖子氏の書く脚本の特長に「たとえ命が尽きようとも、これまで紡いだ“想い”は消えない」というのがあるように。そして優衣ちゃんの“想い”は彼にも……

「今度絵が描けたら…モンスターじゃなく…二人っきりじゃなく…みんなが幸せに笑ってる絵を…お兄ちゃんと一緒に……ね?」
(神崎優衣が士郎に遺した言葉)

「お前は……きっと(新しい命を)拒む……拒み続ける……」


オーディンのタイムベントさえあれば時間を巻き戻し何度もやり直せる、神崎士郎は妹を救うために繰り返し尽くしたのだろう。しかし……妹が最期に伝えた“想い”は兄に届き、ついに受け入れ繰り返すことを諦めた。真司くんが蓮を人として食い止め続けたように、彼女もまた兄にまだ残っていた人としての心を動かしたのだ……



幼き頃の自分たちと絵を描く神崎兄妹。そこには恐ろしいモンスターなどいない、ふたりが…みんなが笑ってる幸せな世界…


仮面ライダーが存在しない世界線にて花鶏に置かれる神崎兄妹の写真。彼らは今どうしているのか?優衣ちゃんは無事に20回目の誕生日を迎えられたのだろうか?全てに答えられるわけではない。しかし……本来出られなかった外の世界での写真という事実はたしかに存在する

兄妹が描いたミラーモンスターが存在しない世界、つまり人々が理不尽に喰われず仮面ライダー同士が戦わなくていい世界。彼らの葛藤が、苦悩が、その中でも培われた絆がそもそも生まれない世界。それは平和であり、すべてを見てきた視聴者の方々には(不謹慎ながらも)寂しい世界かもしれない。それでも彼らがいたからこそ生まれた世界だったと思わざるをえない。その衝突は、痛みは、「願い」は決して無駄なんかじゃなかった。だから………


真司くんと蓮を忘れないでね。
(最終回放送終了後に流れたドラグバイザーツバイのCMにて挟まれた言葉より。)

偶然にも花鶏で出会った新米記者の城戸真司とつっけんどんな態度を取るバイカーの秋山蓮。もちろん彼らには接点なんざない、完全なる初対面だ……しかしふと頭によぎる。28話「タイムベント」にて時を戻された際に真司は記憶を維持していたのだから、ひょっとしたら……


・あとがき

これ本当に20年前にやった子ども向け作品なのか?(n回目)と思い知らされ、けれど子ども向け作品だからこそ伝えたいことを書いたという、まさしくすっげ〜作品だった。これリアタイで見てた人すごいな……間違いなく児童向け特撮への捉え方がガラリと変わるでしょこんなん……いやほんとすごいわ。

てか訳で配信終了して一ヶ月経ってようやく書けた初見感想でございました。龍騎という作品はそりゃディープなファンが長く且つ熱く感想を語り続けてる作品であり、まだ日も浅い一見さんである自分がこんな図々しく感想を書くのはおこがましいかもしれないが、それでもこのように文章という形で残しておきたいと思い執筆させていただきやした。拙い所もあるかもしれませんが可愛らしいもんだと思っていただきご容赦を……それでは!

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