抽象的な言葉、”パスが上手い”を、香川や本田ら、日本代表選手を題材に独自の指標で解剖してみた

 「今のパス…上手い!」

応援するチームのチャンスメイカーが、絶妙なスルーパスを通した時、思わず口にしてしまうことはよくあることだろう。

 パスが上手いーーー。

 よく使う言葉である。ただ、とても抽象的な言葉でもある。パスの上手さにも様々な意味合いがあるはずだ。

 日本代表にはパスが上手い選手が数多くいる。本田圭介や香川真司は様々な武器を持っているが、共にパスがうまい選手である。ただ、同じタイプのパサーかと言うと全く違う。では具体的に何がどう違うのだろうか。

 本記事では、”パスが上手い”という抽象的な言葉を、独自の6個の項目に分類。パスとは何か、本田や香川は何がずば抜けているのかを、図や画像を、13個使い、できるだけわかりやすく解説することを目的とした記事である。香川と本田がどんな選手かを改めて知ることにも使えるが、それ以上に、次回サッカー観戦する際のいいつまみになるはずなので、是非、ご賞味いただきたい。

 さて、まずはこの図をみて頂きたい。


これらは本田と香川のパスの能力を図表化したものである。

どうだろうか。この時点で何を言いたいかを察する人もいれば、ちんぷんかんぷんな人もいるはずだ。あるいは、「いや違うだろ!」と言いたい人も出てくるかもしれない。では順を追って、説明していきたい。

※ 香川選手の「状況判断」は一般的には、良いと思います。ただ、今回の指標というか、今回の【状況判断】という言葉の定義を、一般的な意味合いとは違ったものにしていることにより、悪い数値なってしまっただけなので、そこの誤解はないようにお願いしたいです。

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【目次】
1【パススピード】
2【パススピードコントロール】
3【視野の広さ】
4【コース&スペース認識力】
5【利き足のアウトor逆足】
6【状況判断】
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1【パススピード】

 シンプルに、強いキックを蹴れるか。また、その精度が高いかを示した指標である。日本人はこの能力が低く、英国系の選手はこの能力が高い傾向にある。これが高い選手は、非常に高い精度の「線のパス」を通すことができる。

 基本的に、受けての選手が止まっている場合、パスに求められるのはコースとスピードの速さだけだ。

 この場合、柏木が香川にパスを通すために必要なのは、(赤1)と(赤2)の間にボールを蹴ること。同時に、(赤1)と(赤2)と(赤3)が反応できない「速いパス」が求められる。香川がボールを止めれる範囲内でなら、スピードは速ければ速いほどいい。

 本田と香川でいうと、この能力は本田のほうが高い。というより、香川があまり高くない。イングランドの強豪マンチェスター・ユナイテッドに所属していた時に、結果を残せなかった理由として、体作りの失敗などが主因に挙げられるだろうが、英国人選手から要求される強いパスを出せなかったのも、理由のうちの一つであることは間違いない。

 一方で、この能力が高いだけだと、動いている選手に対しては綺麗にパスを通すことができない。狭いスペースに全力で走り込んでいる選手にパスを必要な能力が【パススピードコントロール】である。

2【パススピードコントロール】

【パススピード】と対をなす能力で、パスのスピードを調節するスキルだ。 

 この局面、FW岡崎は、ペナルティボックス内に走り込んで、パスを受けようとしている。(白いゾーン)はおよそ2秒後に相手選手が反応できるエリアの範囲である。理想を言うなら、香川は(赤のゾーン)ではなく、(青いゾーン)にパスを通したい。そちらのほうが、シュートコースがあり、シュートが入りやすいからだ。しかし、この(青いゾーン)にパスを通すには、スピードを調節することが求められる。

 言うまでもなく、パスが速すぎれば、2秒後、岡崎が青いゾーンに到達した際にはボールは通り過ぎており、逆もしかりである。これに関して、【パススピード】とは逆で、イングランド代表には優れている選手が少ない。スティーブン・ジェラードやフランク・ランパードのようなパサーたちは、速いパスを正確に出す能力は非常に高いは、スピードをコントロールする能力はそこまで高くない。

 また、【パススピード】と【パススピードコントロール】この二つを高いレベルで両立している選手は非常に少ない。個人的には、もう引退した元イングランド代表ポール・スコールズがその数少ない選手だったと思う。ピンポイントの低弾道サイドチェンジ。見る度に感動していた。

 また、この項目に関しては香川に軍配が上がる。本田も一定レベルを超えているが、武器と呼べるレベルには達していない。一方の香川はこの能力こそが、武器だと言えるだろう。

3【視野の広さ】

 次に説明したいのが、【視野の広さ】だ。これは簡単な話、誰がどこにいるかが見えて、かつ覚えているかどうかだ。首を振って見たとしても、脳内にぼんやりとでも覚えていないと意味がない。

香川が見えている範囲が広い場合と…

狭い場合では、もちろん「どのパスコースを選ぶか」の選択肢が限られてくる。

この【視野の広さ】は、セントラルMFでプレーする上での必須スキルであることは言うまでもない。【パススピードコントロール】が凡庸だとしても、誰がどこにいるかを正確に認識できれば、止まっているフリーの選手に「線のパス」を出せばいい。あるいは、パスとは関係ないが、誰がどこにいるかをある程度認識できる【視野の広さ】があれば、相手のプレスをかわせるので、ボールをキープすることができるし、守備の場面でもいち早くフリーの選手を認識し、潰すことができる。

 また、この項目に関しては、香川も本田もそこまで変わらない印象だ。この点で言うと、ガンバ大阪の遠藤保仁と宇佐美貴史を比較するとわかりやすいかもしれない。これについては、【コース&スペース認識力】の後に記述する。

4【コース&スペース認識力】

 次に説明するのは【コース&スペース認識力】。これは…

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