文献資料を探す方法のメモ

調べごとをする時、どうしても必要になるのが「参考文献」です。

鉄道趣味のなかで郵便車に興味を持ち、「いったいどのようにして郵便物は輸送されていたのか」ということが気になり、調べ始めたのが5年前。

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(上写真:能登中島駅で保存されている郵便車。2016年撮影)

郵便車が線路を走っていた時代、JRは国鉄でJP(日本郵便)も郵政省という政府機関(正確には国鉄は公共事業体)が事業を行っていました。

当然ですが、国鉄も郵政省もその根拠となる法律をもとに各種事業を経営していました。それぞれの事業の全容を把握しようと思ったら法律だけでなく政令・省令で定められる規則類も参照する必要がありますし、そしてそれらの運用を定める規程通達の類も…と、調べていくにつれて沼が深くなっていきます。

歴史的な流れを追うだけであれば「郵政百年史」「日本の郵便120年のあゆみ」などといった年史の類で用は足りるのですが、これらは全般的な事項を取り上げる傾向にあるため個々の事項を追うには不十分な側面があります。

では、どうやってそんな細かいことを調べるの、という前に…

まず法令の構造について把握しよう

国内で通用する法令の最上位に「憲法」があります。

その次に「法律」があり、その法律を施行するにあたって詳細を定める「政令」や「省令」が発出されます。

郵政事業の場合「郵便法」の下に省令で「郵便規則」「外国郵便規則」などが定められ、郵政事業で国が提供するサービスの内容が定められていました。

これと別に郵便局の改廃などは「告示」という形で発出され、これらの事項は「官報」に掲載されることで発効する…というものになっています。

しかし実際に法令規則を施行するにあたり、その取扱い方…例えば窓口で切手代金を収受したらどのように取り扱うか、などといった事柄を定める「マニュアル」が必要となります。これが「省令」や「告示」などの下位にあたる、いわゆる「通達」です。

郵政省では内部向けに「公報」を定期的に発行しており、官報への掲載内容のうち自業務に関連するものと様々な事項の取扱い方定める規程・通達類が掲載されました。

郵政省では規程通達類は上位から順に「公達」「達」「通達」「告知」「雑報」の形で発出され、主に「規程」が公達や達、「細則」や個々の事例に関する取扱い方が通達、その他の事項で省内で周知すべきもの(コンクールの募集など)が告知、これらにあてはまらないもの(公報号外の発行や官吏懲戒など)が雑報として掲載されていました。

一応付記しておくと規程や細則といった「ルール」が時おり改正されるのと同じようにそれらに関連して発出された「通達」も上位の規程類と同じように改正されますので、調べごとの際には注意が必要です。

まとめ:憲法>法律>政令>省令>告示>公達>達>通達>告知

法令・通達が掲載される書物

先に挙げた「公報」(郵政省は「郵政公報」)のほか法令が掲載される書物は何種類かあり、それらを調べることによってある時点での法令規程通達の様子を知ることができます。

ひとまず手っ取り早いのは「基本行政通達」を参照する、という手段でしょうか。

これは「法律の解釈・運用上又は行政事務執行上基本的な通知、通達、処理基準を収録」(国会図書館「リサーチナビ」内「訓令・通達・通知の調べ方」より)した加除式資料で、ある時点での基礎的な規程や関連する通達についてフルテキストで(図表は省略される場合もありますが)参照することが可能です。

国立国会図書館で所蔵しているものについてはその「目次」も公開されていますので、どの規程類が掲載されているか確認することができます。

なお「加除式資料」とは、書籍のうち法令などの改正に対応してページを差替えることができるもののことです。

続いて「郵政法規類集」を参照する方法です。

これも加除式資料で、ある時点で現行となっている各分野の法令・規程・通達類が一通り収録されているものです。

国会図書館に所蔵されているものは全29巻ありますが、郵政省の所管する郵便・貯金・簡易保険の3分野すべてについて現行の規程や通達類が収録されています。

郵政六法」という資料もありますが、これは法律・省令に限って収録されているものですからあまり細かな点まで確認する用途には向かないものです。

郵政省で発行する公報として「郵政公報」があり、国立国会図書館か郵政博物館で閲覧することが可能です。ただし国立国会図書館では全ての巻号を所蔵していない(号外や別冊に欠号が多い)点に、郵政博物館での閲覧は事前に申請が必要&市川の資料センターまで出向かねばならない、といった点にそれぞれ注意が必要です。

なお、昭和50年代ごろまでのものは「株式会社鳴海」さんで郵政博物館所蔵のものを電子データ化(画像データ化)されたものを購入することも可能です。(それなりのお値段はかかります。)

個々の規程通達を調査するうえで郵政公報の参照はとても有用ですが、「全文改正」される場合を除いてフルテキストでの掲載はされない(例えば「第何条中〇〇の部分を××に変える」などのように掲載される)ので、ある一時点での規程類を入手したいときなどはかなりの労力を要することもあります。

その他

上で挙げた「調べ方」は法律に加え郵政省本省(大臣および各部局の長)が定めた内容、つまり全国的に定められた規程・通達を調べることのできる内容です。

この他に各地方郵政局で措置した規則類を載せる郵政局報、そして郵便局によっては独自の内規を定めている場合もあったようです。

なお、残念ながら筆者は今のところ各地方の規則類について調べきれていません。

史料の所在

これまでに挙げた資料は基本的に国立国会図書館または郵政博物館に所蔵されています。資料によっては都道府県立図書館に所蔵されているものもありますし、古いものであれば(主に「郵政省」設置以前になりますが)国会図書館デジタルコレクションで閲覧することができるものもあります。

東京周辺に拠点がないとなかなか研究に厳しい部分を否定できませんが、これから研究を始めようという皆様のお役に立てれば幸いです。

2020年9月

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