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バイトと無実証明と人生と

「一斗缶を抱えて二階から転げ落ちた。」


一斗缶はこういうもの。
ウキペディアさんから引用させていただきました。


「一斗缶を抱えて二階から転げ落ちた。」

高級割烹料理店でバイトをしている大学生の娘は、わたしと電話でおしゃべりをするとバイトの話が必ず出てくる。

「もう、辞めたいわ」が口癖だが、そういうわりには、なんだか声が弾んでいる。

冒頭の一斗缶は、バイト先の大将に食物油を持って来てと頼まれ、二階の倉庫から油の入った一斗缶を運びだしたが、階段で足を滑らせた。

ドラマでよく見る幼子おさなごかばい……みたいなカッケー話ではない。相手は一斗缶。
抱えていたので破損なし、周りが油まみれにならんでよかったと言い、
その後、
うち、アクション俳優も顔負けやろ?」

とゲラゲラ笑うが、
あーたソレ、笑いごとやないですわ。


そうかと思えば、

お客さんに説明しながら、
「これは、この地方で有名な地酒で…」
と差し出したお酒がパック酒。

「えっ?」とお客さんがなんだかキョトンとしている。

高級割烹料理店でパック酒を片手に地酒の説明ってそりゃないわ、とわたしが笑うと、

「それが…料理酒やってん!」

と。

やってもうたな…



娘はお客さんの前でこっぴどく大将に怒鳴られた。


お客さんは、

「あぁ、もういいですよ、
そんなに叱らないであげて…」

となる。

まぁ、そうなるわな。

しかし、それ、大将の演技だというから、ぶったまげた。

「客にミスをしたら、客の前でわざと、いかりの演技するからね」

とバイトを始める前に言われてたらしい。
今の時代は、雇い主もなんやかんや、気ぃつかう世の中だ。
ほれ、セクハラだ、モラハラだと
なかなかややこしい。

最近のバイトの子は、すぐ泣くから困るという大将。
娘は、打たれ強いのか、
はたまた心臓に毛が生えているのか、
根性ある、と頼りにされているようだ。

「辞めたら、大学の寮までおしかけるからな」
と大将に言わているらしい。 


それモラハラ?セクハラ?
ストカー?
もろひっかかりますがな、
大将さん。


そういえばわたしも学生時代は、いろんなバイトをした。

コンビニ、ケーキや屋、郵便局、
茶店さてん

茶店さてんなんて言葉は、もう死語やな。
今は、

カフェ。
カフェや。

お洒落やな。
時代はイノベーション。

わたしは、高校時代に小さな茶店さてんでバイトしていたが、そこの女主人は、個性豊かなお方だった。

レスカレモンスカッシュの上に、ちょこんと鎮座ちんざする缶詰めの真っ赤なさくらんぼ。
それを客が食べずに残したら、次のお客に使い回しをするというびっくり行動をするお方であった。

壁を登る黒光したゴッキーをなんと素手で潰せるというたくましいお方でもあった。
あっぱれである。

が、少々恐怖を感じなくもない。

そしてわたしはそのお方にあらぬ疑いをかけられ、つらく、悲しく、
それはそれは暗い過去がありますねん。

レジのお金、2000円足りない!

と。

いや、わたし、少々やんちゃではあったけど、人のものに手を出すなんて曲がったことは断じてせん!!

断じて

せん!


がしかし、

"やっていないことの証明は難しい"

やったことの証明は、状況証拠から証明できるが、やってないことの証明は、不可能に近い。

法廷など法律の分野では、

これを

        『悪魔の証明』

と呼ぶらしい。




世の不条理を知りました。


まぁ、今となれば、いい思い出かな、たぶん。
女主人さんにも色々経験させてもらったことは感謝せなあきません。
社会勉強をさせてもらったんですから。

いろんなことを経験し、たくさんのことを体験し、今の自分がある。

少々臭いセリフだが。

いも甘いも、辛いも、悲しいも、悔しいも、もろもろの経験は

今のわたしの一部です。

一斗缶も、料理酒も、
娘の一部となって大人になっていきますねんなぁ。


今度こっそり、
バイト先に客として行くわ!
と娘に言ったら、

「時価やで?」

と言われ、

一瞬間を置き、

「か、かまへんで。そんなん全然や。行くで!」

と言ったわたしの声がかすかに震えていたことを、

娘はたぶん知っている。

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#一斗缶

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