ヒプノシスマイク『-Glory or Dust-』   独歩パート考察 独歩の中のくすぶる炎

 ”独歩は泌尿器系に疾患でもあるのか?”
 ”それとも腎機能が低下してるのか?”
 『-Glory or Dust-』が公開された時、Twitterが独歩のリリックで俄に沸きたちました。最初の一言が「残尿感」だったからです。
 ……んっ?こんなリリック前にもあったような……。

「残尿感」の意味するものは……

 独歩の「残尿感」、もと社畜営業の私から見ると凄く上手い比喩だと思うのです。
 残尿感は膀胱炎や自律神経失調症、前立腺系の病気の症状であり、ストレスや不摂生で免疫力が低下している人がかかりやすい病気です。そう、まさに深夜残業が当たり前で休みもろくに取れず、ストレス地獄に生きている独歩のような「社畜」がなりやすい病気。
 実際私も過去仕事が忙しく疲労困憊の時期に、膀胱炎を拗らせて入院したことがあります。だから私にとって独歩のリリックに「残尿感」だとか「血尿」とか出てくるのは全く違和感がなく、むしろ「あー、わかるわかる」と妙に納得してしまいます。

 でもこれ、実際に独歩が病気というわけではないですよね。もしそうなら怒るよりも先に病院に行った方がいいよ……。
 私が思うに、この「残尿感」っていうのは“出し切っても残ってる感じ”=“放出出来ないもどかしさ” を表現してるんだと思います。
 職種は違えど独歩と同じ「営業職」に何年か身を置いた者としては、独歩のストレスや息苦しさがよくわかります。
 営業って本当に自分を押し殺すことが多いんです。
 ARBのイベストみたいな暴力的なことは論外だけど、立場的に理不尽を受け入れなきゃいけなかったり、不承不承でも要求を呑まなきゃいけないことだってあるんです。
 「善処します……。」この言葉、独歩がドラトラックで言ってましたが日常語として使うことなんてほとんどない。でも独歩が使っちゃうの私には凄くよくわかります。営業って例え理不尽な要求をされようと、そう簡単に「NO」とは言えないんですよ。自ら「NO」って言ったらそこで終わりになっちゃうから……。本当に言いたい言葉を呑み込んで、その場凌ぎの曖昧な言葉で濁して持ち帰る……。ラップでもドラマトラックでもラジオでも、独歩の言葉の端々にいち営業社員としての悲哀が滲み出ていて切なくなります……。
「残尿感」=“もどかしさ” こんな風に表現出来るのは社畜の独歩しかいない、リリック書いた人わかりすぎてる……。

 でも、これはきっと仕事のことだけじゃない……。
 私は『-Glory or Dust-』の独歩パートはダブルミーニングになっていると考えています。
 表向きは会社への怒り。社畜の独歩が上司や取引先のセクハラ・パワハラ、理不尽な圧力に耐えて反骨精神を持って立ち上がり、いつかお前らを見返してやると息巻いている、そんなリリック。

 しかし独歩はもう一つ、明確に殺意にも似た怒りを持っているはずなんです。
 それは唯一無二の親友である一二三を女性恐怖症へと陥れた、中王区・言の葉党”邪頭院仄仄”への怒りです。


「怒りの業火」の行く先は……

残尿感、残業地獄(インフェルノ)
残酷過ぎん?  語彙ある韻減る脳 
デカい資本が   お偉い退廃(デカダンス)
Keep a distance   痩せ我慢する
それがマントル   約徒歩10分
怒りの業火   耐え抜くぜサウナ
押し付けんな   アンガーマネジメント
理不尽は拒否   あんたマジ締めんぞ!

 『-Glory or Dust-』独歩のリリックです。
 もし、独歩の怒りの矛先が仄仄に向いているとするならば、「残尿感」は間違いなく仄仄と一二三の因縁であり、2ndDRBのドラマトラックで独歩が仄仄に対して放ったリリックのひとつ「残ってるシコリ」だと思われます。そしてそれが永遠に消えない「(残業)地獄」。
 つまり独歩にはまだ仄仄との因縁、遺恨が残っており、今もその苦しみの中に身を置いているのです。

 「語彙ある韻減る脳」とは、“戦いたいのに戦えない”ことの比喩だと思われます。
 “語彙(単語の総体)”ある=言いたいことはあるのにラップが出来ない=”韻減る脳(韻を踏めない)”。
 そんな自分の状況を「残酷過ぎん?」と揶揄しています。
 いえ、もしかしたらこれは『Light &Shadow』で「アドレナリン欠乏」とうたった一二三のことも言っているのかもしれません。

デカい資本が   お偉い退廃(デカダンス)
Keep a distance   痩せ我慢する
それがマントル   約徒歩10分
怒りの業火   耐え抜くぜサウナ

 「デカい資本が   お偉い退廃(デカダンス)」
 これは中王区のことを指していると思われます。「退廃」と表現しているのは、言の葉党の中で言動に統制が効かない仄仄のことでしょうか。

 「瘦せ我慢」して距離を取っているのは、一二三がドラマトラック『過去からのCHASER』で仄仄を理解したいと言ったことを尊重しているのかもしれません。これはただの強がりにも聞こえますが、独歩は仄仄への許せない本心を押し殺して、怒りの気持ちに蓋をしていたのかもしれません。
 それが2ndDRBのドラマトラックでは仄仄自ら一二三のもとにやってきて、一二三が死に物狂いで作り上げた鎧をズタズタに引き裂き笑いながら帰って行きました。
 「マントル」とは地球内部のコア(核)と地殻の間の層をいいます。
 マントル、もしくはコアを仄仄とするなら、独歩にとっての怒りの対象にもうあと少しで到達するということです。
 因みに「徒歩10分」を不動産の対象物件への距離として考えると大体800メートル〜1キロ以内です。……近いですよね。

「怒りの業火」とは独歩自身のことだと思います。
 理解したいという一二三を尊重し、我慢しくすぶらせていた仄仄への怒りが、仄仄の方から独歩と一二三の前に現れたことで「怒りの業火」へと変貌を遂げたのです。
 独歩は今、仄仄に対する煮えたぎるような怒りの中に身を置いているのです。「耐え抜くぜサウナ」は、仄仄を倒すまでは絶対に倒れないという独歩の強い意志の現れではないでしょうか。

押し付けんな   アンガーマネジメント
理不尽は拒否   あんたマジ締めんぞ!

 「アンガーマネジメント」とは怒りをコントロールすることです。
 社会や会社に対しての不満や怒りをフローにのせる独歩にとって、怒りを制御されるということは戦う能力を奪われることと同じです。つまりそれは「語彙ある韻減る脳」の状態ということ……。
ですが、独歩は断固戦う姿勢を崩しません。「押し付けんな」「理不尽は拒否」と強く反発し抗っています。
 仄仄は中王区の人間であり、言の葉党の幹部でもあります。女尊男卑のH歴の世界において仄仄から下される言葉には、たとえそれが理不尽なものだったとしても絶対服従をしなければならないでしょう。いえ、もしかしたら独歩と一二三にとっては仄仄の存在自体がすでに理不尽なのかもしれません。
 もしくは今後の展開として仄仄が真正ヒプノシスマイクや、中央刑事局特殊部隊・隊長としての権力を傘に攻撃を仕掛けてくることを示唆しているのかもしれません。
 ですが、それでも独歩は、戦い、勝つことを決して諦めていないのです。

「あんたマジ締めんぞ!」
 最後のリリックは、そのままの意味でしょう。
 独歩の本心、むき出しの闘争心……独歩さん、本当にカッコいいよ。


独歩のアビリティーについて

 ここからはコミカライズを軸に考察をすすめます。
 まず、独歩のアビリティーはバーサーカー(狂戦士)です。そしてこの独歩のアビリティーのトリガーは今のところ一二三だと思われます。
 独歩は1stDRBの決勝で左馬刻に倒された一二三を見て忘我状態に陥り、「すみません」を連呼してバーサーカーのアビリティーを発動します。その時のリリックがこれです。

脅迫恐喝 跳ね除け 今日勝つ
羽の毛まで強奪 返り討ち

 →脅迫恐喝した相手を跳ね除けて今日こそは勝つ
 →お前を返り討ちにして羽の毛までむしり取ってやる
 というような意味でしょうか。
 これはMTCに向けてのリリックのようにも思えますが、違うようにも感じます。何故ならMTCとは正々堂々の勝負であり「脅迫」や「恐喝」など一切ありません。また「返り討ち」とは襲ってくる相手を打ち負かすという意味ですが、襲われたのは独歩ではなく一二三です。
 私が思うに、この時の独歩は明らかに目の前の敵を過去の何者かと混同しており、それは一二三が倒れた姿を見たことにより引き起こされたということです。
 独歩と一二三が麻天狼の一員になるストーリーの中で、ひふみがストーカーの女性と一緒に高層階から落ちた際に、独歩がエアークッションを用意して二人を助けるというくだりがありますが、その時に一二三は独歩に対し「大きすぎる貸しがまた出来た」と言います。
 もしかすると、独歩のバーサーカーのアビリティーが初めて発動したのは一二三がなんらかの原因で危機に陥った時で、独歩のそのアビリティーにより一二三は救われたのかもしれません。それが「大きすぎる貸し」というわけです
 だから独歩のアビリティーのトリガーは一二三で、一二三が危機に陥った時に発動されるのではないでしょうか。
 それがどのような危機だったのかは今は全く予想出来ませんが、恐らくそれに仄仄が関わっており、漏れなく独歩も巻き込まれていたのだと思います。
 また、アビリティー発動時に「すみません」を連呼していることから、独歩の謝り癖や自己否定の強い性格は、仄仄との因縁の中で否応なしにそのような精神状態に追い込まれてしまったからだとも考えられます。もちろん、元々の人間性や社畜として会社で人格否定され続けた結果もあるのでしょうが、それに加え、仄仄との因縁がそのような性格を作ってしまった可能性も捨てきれません。
 コミカライズ2巻で一二三が独歩の謝り癖に対し、それを直すのは「まっ、むりだろうけどねぇ」と意味深に呟くシーンがありますが、これは一二三が、独歩の謝り癖や自己否定の強い性格は自分の女性恐怖症に起因していると考えていて、自分の女性恐怖症が治らない限りは独歩の自己否定の性格も治らない。そう考えているからではないでしょうか。

 この考察は想像の域を出ないものであり、真実は全くわかりません。
 ですが、一二三と独歩の特殊な関係性と二人の病的な性格に関しては、今後ストーリーが進むにつれて明かされていく核心の部分だと私は思っています。
 それが明かされるのが半年以内なのか一年後なのか、はたまたもっと先なのかはわかりませんが、なんにしても私の心臓への負担が大きいので、出来るだけ早く明かされることを願っています。

※今回考察の参考にしたコミカライズはこちらです。


まとめ

 私は『-Glory or Dust-』で独歩のリリックが一番好きです。
 何故なら立ち向かっていく強い意志が感じられるからです。今までのオールディビジョンの独歩パートは、どちらかと言うとキレ散らかしてるみたいな投げやりな感じがありました。でもこれは違う、明らかにあと少しで手の届く怒りの元凶に対し、立ち向かい倒さんとする強い意志を感じます。
 『-Glory or Dust-』での麻天狼三人のリリック、寂雷先生は自身の存在意義や立ち位置に迷いを抱いているようにも感じます。一二三は自身の恐怖症を曝け出しワンランク上がったようにも見えますが、刹那的で文字通り消えてしまいそうな儚さがあります。
 そんな中で独歩だけは地面に両足を着けて踏ん張り、傷付いて荒く息を吐きながらも敵に対し真正面からマイクを構えて睨み付けている……。自らが先人をきって敵に立ち向かっていく……そんな感じの強さがあります。
 ドラマトラックやコミックでは、独歩はネガティブで精神的に脆い描写が多いですが、でも本当は誰よりも熱く強い意志を持った男だと私は思っています。(確か中の人もそんなことを言っていたような……。)
 今までネガティブに隠れていたそれが、寂雷先生と出会い麻天狼として戦う中で、麻天狼の一員としての自己が確立し本当の強さを出せるようになったのだと……。

 独歩さん、あなたは最高に強くてカッコいいよ!
 観音坂独歩として麻天狼として、どんな時も応援しています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?