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【実践】自宅でめっき加工



経緯

きっかけは2週間ほど前だったか、たやすく投げられたそのタスクは私に知恵と経験と絶え間ない疲労を与えようとしていた。
「この指輪、好きだったなぁ。もう錆びちゃってるけど捨てられないな…」と、引っ越しの荷ほどきを手伝っている私を尻目に指輪を眺めている人間が発する。(ゆるさん)
リングの中空から瞳を覗かせ「この錆びとれる?」と赤子の手をひねるごとく簡単に発せられた任務に、二つ返事で了承してしまったことで契約が発生した。ゆるさん。

指輪を磨く

シルバーアクセサリーはよく錆びたりするため、とりあえず簡単な方法から試す。
アルミホイルに指輪を内包し、重曹と熱湯を上からかけた。この際に発生する水素(H)が酸化した銀(AgO)と化学反応して、水(H2O)ときれいなシルバーアクセサリー(Ag)と相成るわけだが、一向に変化する様子はない。

この世のものとは思えない錆び(もとい指輪)

なのでコンパウンドとピカールで研磨するようにする。
楽しくなってきたぜ!
と、張り切って長い時間をかけて磨いたものが以下の物体だ。


ピカピカのゆがんだ指輪

ゆがんでねぇ??
店員さんに横柄な態度を取られる方くらいゆがんでいる。
その状態で身に着けるのはあまりにも哀れなため、工具を買って治すことにした。

叩きつけるものと叩かれるもの(なんか錆びてね?)

さぁ!ぶっ叩くぞぉ~!!
人から借りているものをハンマーで叩くというのは何かの法に引っかかるのかもしれないが、大丈夫!私は天然なので!!(法解釈◎)

丸くなった指輪

何とか指輪の尊厳を取り戻したぜ!と思ったのも束の間、また錆が浮いている。
色も赤っぽいのだが、磁石に充てても磁性が発揮されない。表面の銀(?)のコートが剥げて、鉄由来の合金の層が露出していると考えた私は油膜とめっきのどちらかが使えそうだとひらめいた。
アクセサリーの油膜はお皿洗いの洗剤で落ちたり、普段からぬちょぬちょのモノを指にはめたりするのは現実的ではないなと思うため、めっきを試す。

めっきに使う材料

今回電気めっきに使う材料はこいつらだ!

いかれたメンバーを紹介するぜ!
  1. 対象となる指輪

  2. サンポ〇ル(酸性の液体)

  3. 単三アルカリ乾電池

  4. 電池ボックス(単三×3→4.5V)

  5. ワニ口テストケーブル

  6. 真鍮ワイヤー(銅線のほうがいいよ!)

  7. グラス

  8. 脱脂用のアルコール(なくてもいい)

  9. マジック〇ン(アルカリ性の液体)

  10. 銅板、亜鉛板

本来は単三乾電池2本の3Vで十分であるが、今回は4.5Vで行うことにした。
なぜなら味が濃いほうが好きだから。
また、真鍮ワイヤーを使っているのは、家に細めの銅線がなかったから。
電気伝導率は大幅に劣るのでよい子のみんなは銅線を使おう!

めきめきめっきを塗布!!

さぁ、説明をするにはたくさんの写真が必要だとは思うが、今回は全然写真を撮っていない。なぜなら私は天然だから!(ホントだよ!)

手順(銅めっき)

  • まず、脱脂のために工業用洗剤(除菌も脱脂もできるJoy)を使い、ばちくそに洗う

  • サンポールと水を1:4の割合で撹拌(かくはん)し、グラスに注ぐ

  • 真鍮ワイヤーをめっきの対象物に通す

  • プラス(赤)に銅板を、マイナス(黒)にめっき対象物を付けてグラスに浸ける

Eのめっき加工

いきなりの本チャンはさすがに怖いので、皆様のご家庭によくある 
E(ステンレス)を使う。

フォントにEなぁ。

レツゴ!!!!!!!!!!!

しゅわしゅわ~!!

~40分後~

面倒ですが表面は真っ黒なので、研磨は浅くやって…

お!そんなに時間かけてないけどいいのでは!?

左:E 右:銅めっきE

指輪をめっき加工

希望が見えたため、いよいよ本チャン。
指輪にもしゅわしゅわになってもらうよ、例外はない。


なんか、しゅわしゅわじゃない…

微炭酸の飲料みたいなしゅわっと感…
私は強炭酸しかいやだ!!なぜなら濃い味のほうが好きなのだから。

切れた電池

電池切れだったよ!
写真撮り忘れたけど、お風呂に入れるバブくらいのしゅわしゅわだった。

銅めっき指輪

う~ん。これは銅めっきがついているのかわからん…
でも、きれいだし亜鉛メッキしちゃいますかねぇ。

銅めっきは変色が起きやすい。しかし、今回のケースでは露出させたくない面が広くあるため、厚みを出して鉄さびの層を隠せる銅めっきを下地にした。
一方で、亜鉛めっきは変色が少なく、金属アレルギーの兆候もありはするが実用的には他のめっきと差異がない程度だ。
最終的にメタルコートでそういったリスクを取り去ればいい。
亜鉛めっきは銅めっきと違い塗布厚が薄く、下地の銅めっきが見えない程度までしゅわしゅわさせたらいいなと考えた。

亜鉛めっき指輪

う~ん。亜鉛板と色が明らかに違う…
もっと時間をかけて塗布していくしかないが、疲れたので今回はここまでにする。

亜鉛めっき ~2日目~

ここで終わる私ではない。なぜなら好奇心と自己顕示欲が誰よりも強いため、逃げる選択肢を持ち合わせていないのだ。

早速ではあるが、前回銅めっき加工を行った指輪とEの状態を見ていこう。


変色している指輪とE

明らかに変色している。
1日もの時間を置いただけでこれだから、銅めっきを表層には出せない。
アンティークな装飾品には相性がいいが、今回のオーダーは「銀ピカ」なので、亜鉛めっきでの実用を進めていく。

また、前回は「本当に銅めっきが乗っているのか?」という疑問があったが、変色している箇所に金属光沢があったため、確実に銅めっきが塗布されていると考える。(鉄の赤さびは金属光沢がみられないため)

さて、それでは亜鉛めっきをする前に変色箇所をコンパウンドで研磨していく。
この際、重曹+アルミ箔+熱湯のさび落としは使えない。重曹はアルカリ性なので銅とアルミは腐食されるためである。


ピカピカな指輪と、くすんだE

役者はそろったため、前回同様サンポールの5倍希釈液と配線などを行い、めっき塗布を開始した。
前回は作業風景などが少なく、実験感がなかったため、以下のようなずさんな具材を掲載することにする。

割り箸で支えられるワニ口テストケーブル

今回は前回の反省点を踏まえ、電池二本でじっくりめっきを塗布し、真鍮ワイヤーからほっそい銅線に変更した。これらを支える割り箸も「こんなもののために生まれたんじゃない」と頭を抱えていることだろう。
(追記:割り箸に頭はない)

ちなみに横から見るとこういった具合だ。

めっき作業上から見るか横から見るか(おもしろい)

あわあわになっていて曇りがかっているが、左に見えるは亜鉛板、右に見えるは今回のターゲットである指輪だ。
変化が見え始めるのは意外と早く、10分くらい放置したら以下のようになる。

しゅわしゅわ~!!

グレーがかっている。
しっかりと反応が出ている証拠であり、うれしい限りだ。


~2時間後~

亜鉛板だったもの

亜鉛板が命を刈り取る形になったところで、指輪を救出する。

救出後、アルカリ性のマジックリンに漬け込んで中和する。

救出された後、マジックリン攻めされる指輪


指輪を漬け込むのにおちょこが最も優れている形状であったため、ひれ酒みたいなルックスになってしまったが、これもなかなか趣深くて千利休も驚くばかりだろう。(へへん)

指輪のひれ酒風

~12時間後~

なんかどす黒くなった。
この黒い外皮の内に銀色に輝く亜鉛めっきが確かに存在していることを考えると興奮してくるものだ。

カオナシが出してきた金の指輪だったもの

亜鉛めっきの研磨

一応確認のためにやすりで黒い部位分を削ってみると、銀色の肌が露出した。亜鉛めっきがしっかり乗っていることが理解できた。

亜鉛めっきの視認

突然だが、ここでモース硬さ(またはモース硬度)について話そうと思う。モース硬さとはダイアモンドの硬さを最大値10として、物質の硬さを1~10までの間で評価する指標である。亜鉛はモース硬さでいうところの2.5であるが、このダイアモンドやすりは数値としてはとてつもないギャップが存在し、削り切ってしまうことが容易に想像できる。
よって、研磨にモース硬さの近い銅ブラシ(モース硬さ:3.0)で研磨をしてみる。

銅ブラシでの研磨

外皮が取れてきているのはわかる。が、私はちゃきちゃきした江戸っ子でぇい。べらぼうに時間がかかるってぇんだ!
と、内なる江戸っ子が目覚めてしまう前に、別の手段を考えた。
それはプラモデルなどに使うリューターである。
これに研磨のアタッチメントを付け、外皮を剝いでみた。

丸裸になった亜鉛めっき

もともとあった傷を削ると、銅めっきが顔を出してきた。
傷を取り去り、再度亜鉛めっきを塗布することでマスキングする方法を取る。ある程度まで傷を取り去るようにリューターで削り続けた。それはもう歯医者さんのように。

銅めっきが露出した指輪


亜鉛めっきの再塗布

しゅわしゅわでかわいいね

また厄介な外皮をまとって帰ってきた。
手を動かさないと終わらないため、さっさと仕上げにかかる。

黒くなって帰ってきた~!

もう写真を撮っている暇なんてない。
リューターで外皮をめくり、腱鞘炎になるレベルで紙やすり(400, 800, 1500番)を使って傷を平面になるように努力し、コンパウンドとピカールで研磨する。
この作業はいつになっても苦痛であり、受刑者にでもなっている気分だ。

ピカピカの指輪

雨が降ったら虹が出るもので、晴れてみると先ほどの研磨も楽しくおもえ…ないよねぇ。いやなものは嫌である。
亜鉛は中毒しやすく体に毒であるため、表層にはクロメート処理というクロム酸に浸けることでどうのこうのして耐食性を上げる方法を取ることが一般であるが、私の家には六価のクロム酸を主成分とする処理液はないため、今回はメタルコートという樹脂をまとわせる方法を取る。

メタルコートした指輪

これにてすべての作業が終了した。正直、リューターで削って傷をなくす際にところどころ銅めっきの層が露出してしまったが、味ということにしてみようと思う。きれいじゃない?そう思うよね??

廃液について

この一連のめっき作業には副産物である廃液が存在する。
今回産まれた廃液は亜鉛、銅などの重元素であり、金属が溶け出している液体だ。これをそのまま生活排水としてシンクに流すことは簡単であるが、公害問題があるため、望ましくない。私は断固拒否だ。
なので、なるだけ蒸発させたのち、ゼラチンで固化して燃えるゴミに出す。

中和

最初に踏むべき工程として中和がある。
ゼラチンは賛成の液体の中ではなかなか固まらず、時間がかかるためだ。
今回は酸性の廃液を中和するためにアルカリ性のマジックリンを注入する。
ちなみに、中和できればなんでもいいわけではない。アルカリ性だからと言って塩素系の液体を入れてしまうと塩素ガスを発生させてしまい、死に至る場合がある。また、重曹を使って中和する方法もあるが、二酸化炭素が発生し、グラスからあふれてしまう恐れがあるため、マジックリンが手ごろだろう。

マジックリン先輩!


固化

その後、80度程度のお湯にゼラチンを想像の3倍入れて混ぜ、何重もの袋に入れて冷蔵庫にぶち込む。
個体でことを確認したら、ゴミに出す。

最後に

これにてこのめっき作業を終了する。
正直、危険な薬品になりうるものもあるため、推奨はしない。
この指輪に時間と労力と銭は確実に奪われたが、その指輪と依頼主の思い出は、時間をつかっても、どんなに苦労しても、いくらお金を使っても再現ができるわけではない。
今回はそんな思い出の保管に携われて本当に良かった。
と、思わないとやっていけないため、忌々しいこの作業を記したnoteはここで終わろうと思う。
駄文に長文、並びに知識不足を恥じるばかりだが、ここまで見てくれた方には感謝をしたいと思う。ありがとう!!!!!
それでは~

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