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小説「無日常」

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#小説

小説「無日常」を書き終えて

https://note.mu/nina_to_watashi/m/md55f504a8c69

少し修正して、タイトルをつけて、マガジンにまとめました。

小説を書くのは初めてでした。ずっと書いてみたいなと思っていたし、煮え切らない思いとかブログには書きにくいなっていう思いも、いっそフィクションにすれば成仏するんじゃないかと思っていて、それをnoteという場で試してみました。

私自身、双極性障

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1.私

1.私

は、見ている。

土曜、朝8時過ぎのマックで、対峙している彼の左手を眺めている。左手薬指のJustin Davisのスタッズの指輪。今日はしていないようだ。

「どうして指輪してないんですか?」

と、とぼけられるほど肝の座った女ではない。だから黙って見ているしか出来ないし、昨夜のいつ外したのかやどういう心情で外したのか、はたまた事情があって外してホテルに置いてきてしまったのか、など答えの出ないこ

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2.新宿

2.新宿

は平日も、休日も、朝も、昼も、夜も、人で溢れている。

土曜。18時。私はJR新宿駅にいた。見ろ、人がゴミのようだ。というもはや刷り込みにも似た言葉が頭に浮かんだが、行き交う人に混ざり煙のように消えていく。

南口を出て左に曲がり、LUMINE2を目指す。エスカレーターを上がるとすぐ、ISETAN MiRRORがある。今月号のMAQUIAで気になってたADDICTIONのリキッドファンデと、 Yv

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3.仕事

3.仕事

をしに、半蔵門線に乗る。月曜8時半。半蔵門線は、地方からの直通車両の乗らなければ、朝からガラガラの車両で、悠々と職場に向かえる。

東京は苦手だ。地元にいたくないから東京に来た。ただそれだけの土地に思い入れもクソもない。山手線や京浜東北線沿線の企業だけは外して下さい、そう転職エージェントに話した時、一瞬考え込んだ素振りを見せたのをよく覚えている。自我のある生命体がひしめき合っている場所など、気持ち

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4.メンヘラ

4.メンヘラ

は、彼と私の関係に気づいているだろうか。

社運をかけた大きな案件で、私をディレクターとして動かすということが朝礼で発表された時、その女の顔が大きく歪んだのを私は見逃さなかった。

なんで、わたしじゃ、ないの。

その言葉が全身から滲み出ていた。なぜあなたではないのか、それは誰もがわかっているだろう。ディレクターに足る器量がない。ただそれだけだ。

私より5つ上の、誰もが裏で「メンヘラ」呼ばわりし

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5.睡眠

5.睡眠

がうまくとれなくて、最近は夢で必ず誰かを怒鳴りつけている。

毎日のように、母親や部署の部下、元カレなどに腹を立て理不尽に怒鳴りつけている。時々、夢の途中でガバッと起きる。よくあるドラマのように、息があがっていて、夢か…と胸をなでおろしてまた眠りにつく。いい加減ヤバいだろ、と自覚はしているが、だからといってどうしていいかわからない。「寝られない」とググってみても、「ストレスを溜めないよう」に、とい

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6.いつの間に

6.いつの間に

と、寝ぼけ眼を埼玉の街並みに向けながら思った。

定時で上がって、下りの半蔵門線に乗って、あらぬことを考えてるうちに眠り込んでしまった。そして草加駅に着いた。もう20時を過ぎていた。めんどくせぇ。反射的に頭の中で悪態をつく。ゆっくり寝たいならベッドの中で眠ってくれよと自分に失望するものの、初めて踏み入れる土地に少し高揚感を覚え、お腹空いたし駅前にガストがあるっぽいから降りよう、と思い立ち、少し回復

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7.俺

7.俺

は、悩んでいた。

19時。オフィスを出て骨董通りを抜け青山通りに出る。今日も青山通りは賑やかで、誰もが洒落た服を身にまとい、各々が入りたい店に入り、欲しいものを買い、食べたいものを食べ、1日のフィナーレに相応しい場所を選択する。

早くこの場所を離れたい。無意識に歩みが早くなる。

家に帰りたいわけでもない。だからといってどこかで時間を潰す気分でもない。山手線を一周して時間を潰そうか否かと思考が

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8.明日

8.明日

話すからと、昨日彼に言われていた件について、共有したいから夜空けておいてとSkypeで連絡が来た。業務とは別に、業務中の私語はSkypeを使って連絡を取り合う。Skypeなら履歴を社内の誰にも見られないから。20時に渋谷集合で、と決めて、別々に退勤するのが常日頃の習慣だ。今日も、明日出来るものは明日に回して、さっさと会社を出た。

メンヘラは休職、ひとまず3ヶ月は休職させるという。その後のことは産

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9.絶対

9.絶対

に、寝る前に風呂を済ますのが常だというのに、今日は人生で初めてそれを怠った。

私にとってはオオゴトだった。私の絶対的な意志に反乱する分子が私の中に存在していて、理性的な私とは裏腹に感情を持って制することを企んでいる。そんな気がして、朝5時に居心地の悪さと共に目が覚めた。

お腹が痛くない、それだけを感謝すべき日だ。昨日は腐った肉を食べたのだ。一種の賭けを強いられ私は勝った。勝った?そうじゃない。

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10.同じ

10.同じ

毎日を過ごしていたつもりだったのに、なんてことのないズレに対して無頓着にやり過ごしているうちに、かかと数センチ分の地面が崩れ落ちていて、後ろを振り向けば恐怖、前を向けど不安、天を仰げば神がやってくる、わけでもなく、あっ、と思う間もなく奈落の底へ落ちていく。

彼をハンバーグ越しに怒鳴りつけてから、自分を縛り付けていた何かを解放させるように、エヴァンゲリオンが拘束具を突き破る衝動を身に着けたがごとく

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11.眩しくて

11.眩しくて

目が覚めた。久しぶりに、夢を見なかった。ぐっすり寝れたせいか、なんだか最低な気分からは脱却出来たような気になれた。昨日まではつまり、悪い夢だったのかにゃ?などと柄にもなくとぼけて、朝日のあたたかさと、自分のぬくもりが染み付いたふとんを全身で受け止めながら静かにしていると、少なくともこれから5日間は、自分の時間を漫喫出来るような気がした。

じっとしていることに飽きてベッドから起き上がると、顔がバリ

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12.また朝が来た

12.また朝が来た

と思った。思ったけど今日も会社に行く必要がない。会社に必要とされてない。それは、今の私にとってはいいことなのかもしれない。じわじわと、余裕が生まれるのがわかる。なぜ仕事に必要とされてないのか、その理由を理解し、どう行動すべきかをわかっている。

余裕は朝日と共にこのベッドに降り注いでいる。ベッドの上でフランフランのブランケットに包まる私は、今日を生きるために起き上がり、ご飯をチンしてのりたまをかけ

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13.土曜日

13.土曜日

になった、そうだ、今日は彼と会うんだな。そうか、そうか。などとでんぱ組のアップテンポな曲を聴きながら、ソファに座って何も映し出されていないテレビを見つめ、CASTERの煙をぼんやりと追う。

ついにCASTERをカートンで買い溜めするようになった。つい昨日のことだ。真夜中に何を思ったかCASTERを吸いたくて頭がCASTERのことで支配されてこのまま狂ってしまいたい衝動もあるにはあったが理性が勝っ

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