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11.眩しくて

目が覚めた。久しぶりに、夢を見なかった。ぐっすり寝れたせいか、なんだか最低な気分からは脱却出来たような気になれた。昨日まではつまり、悪い夢だったのかにゃ?などと柄にもなくとぼけて、朝日のあたたかさと、自分のぬくもりが染み付いたふとんを全身で受け止めながら静かにしていると、少なくともこれから5日間は、自分の時間を漫喫出来るような気がした。

じっとしていることに飽きてベッドから起き上がると、顔がバリバリときしんだ。昨日の泣いた跡と落とさなかった化粧が顔の水分を奪った。もう取り返しのつかないお年頃になったのだから、いい加減化粧を落とさず寝るのはやめよう。そう思いながら、シャワーを浴びる。昨日はそんなことを考える余裕もなかったくせに、今の自分はずいぶんお気楽だった。

いい天気だし、ちょっと散歩しようと思って、冷凍のご飯をチンしてのりたまをまぜて海苔を巻き、おにぎりを2個作った。そして友達にどうしてもと言われて一緒に代官山まで行ったMAISON DE REEFURで、絶対一人じゃ行かないだろうからと記念に買ったロゴの書いてあるタンブラーにホットティーを入れ、外に出た。イヤホンからは、Reiの「COCOA」が流れていた。軽快なギターが歩みを軽やかに彩った。


家から浅草方面に向かって歩きはじめ、隅田川沿いのベンチでおにぎりを食べた。いつもの味。上京してから、朝ごはんを用意する気力も女子力もないから、その時からご飯とのりたまが定番だった。同棲してからも、男がいるという作りがいのある環境ではあったものの、彼氏はそういうのに無頓着な人で、むしろ朝ごはん食べない派だったから、ずっと、自分一人で、ご飯 with のりたまから1日を始めた。

隅田川に浮かぶ船や向こう岸のタリーズコーヒーなどを眺めていた。いつもならこういうときも仕事のことが頭をかすめるのに、不思議と最近のオフィスでの自分を何も思い出せなかった。昨日までの悩みや葛藤や、怒り狂った場面や、ブチ切れたシーンが、リモコンで再生をいきなり止められるように、思い出しきれない。本当は、反省しなきゃいけない事柄なんだと思うけど、自分で自分を制止しているんだろうか。考えてはいけないこととして処理しているのかもしれない。

もう少し歩こうと思い、スカイツリーを目指して歩いた。こうして、表参道のブランド店以外をゆっくり歩くのは久しぶりかもしれない。

普段は、新宿に買い物に行くくらいしかしないが、新宿はゆっくり歩ける場所じゃない。気張ってせかせかしていないと、世界から取り残されるような気分にさせてくれる、そういう場所だ。

スカイツリーの敷地内は午前中から人で賑わっているが、敷地を離れると本当に下町感がすごくて、スカイツリーバブルなんてまるで存在していないような異次元空間だ。私はそういうところが好きだった。わざわざ東京の東側に住んでいる理由の1つでもある。

まずはスカイツリーのお店をぐるっと見回す。キティちゃんショップで限定の着物を着ているキティちゃんのぬいぐるみをついでに買って、よつばのソフトクリームを食べながら外に出て、もはや真上にあるスカイツリーを見上げる。さすがに高いし、逆に何も見えないな、そうバカみたいなことを考えていたら一人でニヤついていた。

お昼近くなって混み始め、押上から錦糸町に移動した。家の近くにはレンタルショップがないから、近くのTSUTAYAといったらなぜか錦糸町まで出なくてはならなかった。ここは東京なんだろうかと思わずにはいられない。ただ、TSUTAYAは郵便で返せるから、どこで借りても問題ない。本当は渋谷で借りたいところだけど、渋谷まで行くのはめんどくさすぎるため錦糸町で手を打つことにした。

ロッテビルの中のTSUTAYAで、ずっと気になっていたBABYMETALを借り、パイレーツ・オブ・カリビアンとチャイプレの新作を借りた。ついでにBOOKOFFに寄り、元カレの影響で始めたゲームで面白そうなのないかなと探し、やっぱ王道をやるのがいいっしょと思いつきバイオハザード7を買った。

なんとなく、その流れで駅の反対方向にあるハローワークに向かった。求人を見たくなった。とはいえ、同業の仕事なんてほとんどなくて、新卒の会社を辞めたときも、「IT系はハローワークに全然ないから、リクルートとかそういうので探しなさいよ」という皮肉を言われた。実際行って確認してみても、介護職とかタクシー運転手とか、とてもやれそうにないものばっかりだった。

錦糸町のハローワークは、風俗街を抜けたところにある。まじ意味わかんない、と思いつつも今日はその謎が解けた。ハローワークを出てすぐ、キャッチのおじさんが話しかけてきた。「仕事探してるの?お姉さんかわいいから稼げるよ。キャバも風俗も紹介できるよ。」的なことを言っていた。きゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」を爆音で聴いていたからよくわからなかったけど、はぁ。と返したらさっさと食い下がった。まぁ、つまりあれだ、職がない女と職を与えるキャッチがマッチしているわけね。と結論づけ鼻で笑った。

きゃりーちゃんは、私が上京してきたときにメジャーデビューした。つらいとき、いっつもきゃりーちゃんの歌を聴いてたな。意味わかんない歌詞がちょうどよかったし、振りを頭に描いてたら、それだけで現実を忘れられた。今でも、その時聴いていた歌をよく聴く。そう思いながら、錦糸町を後にして家に戻った。


なんやかんやでもう14時を過ぎていた。戻る途中で買ってきたセブンイレブンのハンバーグ弁当を食べながら、チャイプレを観る。あぁ、ちゃんと火が通っているハンバーグ久しぶりに食べるな、なんて皮肉を言っていると、懐かしいメンツが次々と画面に登場してきて興奮した。そして拷問の嵐。ハンバーグを食べながら観る映像なのかと自分に疑いの目を向けつつ、途中炭水化物の睡魔に襲われ、寝落ちした。

気付いたらもう夕方だったし、チャイプレはとっくにメニュー画面に戻っていた。今日は夕飯要らないな、と思いながら、チャイプレの続きを観るでもなくバイオハザード7をPS4に入れる。同棲していた家を出る時、こっそりPS4を持ち出してきてしまった。そのことをあとで何も言われていない。むしろ一度も連絡を取っていない。どう思っているだろうか。そもそもこのPS4を買ったのも金は半分ずつ出し合ったのだから、文句も通常の半分サイズでいいだろう。

バイオハザード7にドハマリしてしまい、ついでにDLCでやりこみにハマってしまい、気付いたら夜23時になっていた。

すごい1日だったな、と今日を振り返る。仕事をまったくしない1日が久しぶりだった。やっぱり、ワークライフバランスというやつなんだろうな、どっちかのバランスが崩れちゃいけないんだよ、と柄にもなくポジティブシンキングになっている自分に寒気がする。気のせい、と他人事のように否定して、ベッドに入りガキ使を最初から観始め、気付いたらまた寝ていた。

(続)